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工学部助教授にしてベストセラー作家・森博嗣の『作家の収支』|論文執筆スキルを応用してミステリを量産する

公開日: : 最終更新日:2018/09/24 Kindle, オススメ書籍

先日は多数の電子書籍が期間限定で大幅値下げされており、僕自身も随分と買い込んでしまった。その中でも個人的にとても興味深く読んだのが、森博嗣の『作家の収支』だった。テレビドラマ化およびアニメ化もされた人気作『すべてがFになる』を始めとするミステリーで知られる著者は、これまたよく知られているように某国立大学に勤める工学部助教授でもあったのだ。この一冊が現在の【最大70%OFF】幻冬舎 電本フェス のおかげで、今だけ72%OFFと、一体どれだけと思うほどに安くなっているのだ。以下におすすめするように、とても興味深い内容で、生産性向上についても示唆に富むこの一冊を、ぜひこの機会に読んでみて欲しい。

 

 

 

さてまず初めに、将来作家になりたいと思ったことなど一度もなく、専門書は読むけれども小説などにはほとんど関心がない、そんな理系研究者がそもそもなぜミステリーなどを書くようになったのか?それは、趣味の模型に費やす小遣いが欲しかったから、という一風変わった、でもとても純粋な動機からなのである。研究に教育にと、極めて多忙な毎日の中でも何とか時間を捻出して副収入を得たいと思っていた。しかし、他大学で非常勤講師などをしても、通勤時間等を考慮すれば決して割のいいバイトではなかった。そんな中、効率のよい稼ぎとして着目したのが小説を書くということだったのである。この時点ですでに、他の小説家とは明らかに一線を画するスタートなのである。

 

しかも、娘が読んでいた当時の人気ミステリー作品を読ませてもらったところ、その謎解きのクオリティが決して高くないことに気づき、この程度でも世の中のベストセラーとなり得るのかと驚き、そして確信する。これならオレにも書けると。そう心に決めたら後は書くだけである。構想を練り、パソコンに向かい、後は一気に書き上げるだけ。そうやって作品を生み出し続けて19年。じつに著作は280を数え、そして収入は15億円を超えた。

 

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作家の世界ではいまだに締切に遅れることが普通にある。気分が乗らない。アイデアが降りてこない。いまはクリエイティブな気分ではない。言い訳はいくらでもできるが、それがそのまままかり通ってしまう業界の体質にも、森博嗣は鋭く批判する。それはこれまで一度も締切に遅れたことなどなく、それがプロフェッショナルとして最低限のことであると彼が考えているためであり、こうした指摘を通じて少しでも出版業界がまっとうになって欲しいという彼の願いでもあるのだ。

 

そんな彼の小説量産ぶりを目の当たりにして連想したのが、以前に「できる研究者の論文生産術:How to Write a Lot」の中で紹介した『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか』という一冊。この本の著者ポール・シルヴィアは、論文が書けないのは書かないからであり、書かないのはセルフマネジメントが出来ていないからだと喝破する。とくに本書では、「いかに書くか」ではなく、「いかに書き続けるか」について焦点を当てる。書くトピックがないとか、書く時間がないとか、自分への言い訳はいくらでもできるが、しかし質の高い論文を書きたければ、一定量(a lot)を書くしか方法はなく、だからこそライティング・マネジメントが欠かせない。目標をどう設定し、進捗をどう管理するかという極めて実践的なアドバイスに溢れた良書である。

 

 

小説界の異端児・森博嗣は確かに数多の作家とは相当異なるアプローチで作品を生み出している。しかしその背景には、彼が工学系の研究者であったということ、そして彼が論文を量産する方法論を体得しており、それをそのまま小説に当てはめたからこそ、現在のような多作のミステリ作家として不動の地位を築いたとも言えるのである。研究というのは専門的であり、ときに専門的すぎて他に使いみちがないと批判・揶揄されることもあるだろう。しかし、研究のアプローチをここまで一般化することができるならば、全くの異分野のように思える小説執筆にも大いに活かすことができるのである。作家になどなりたいと思ったことなどないし、いまも小説など読まないという森博嗣が、ビジネスとしてここまで徹底して研究者としてのスキルを応用したという点で、本書『作家の収支』は研究者にこそ多くの示唆に富む内容なのではないだろうか。本書『作家の収支』はそのタイトル通り、各作品の売上を事細かくリアルに公開している点でも極めてユニークであり、とても興味深く読んだ一冊である。

 

1996年38歳のとき僕は小説家になった。作家になる前は国立大学の工学部助教授で、月々の手取りは45万円だった。以来19年間に280冊の本を出したが、いまだミリオンセラの経験はなく一番売れたデビュー作『すべてがFになる』でさえ累計78万部だ。ベストセラ作家と呼ばれたこともあるが、これといった大ヒット作もないから本来ひじょうにマイナな作家である――総発行部数1400万部、総収入15億円。人気作家が印税、原稿料から原作料、その他雑収入まで客観的事実のみを作品ごと赤裸々に明示した、掟破りで驚愕かつ究極の、作家自身による経営学。

 

 

さらに、森博嗣の関連書『小説家という職業』も作家稼業の裏事情について綴ったリアルなエッセイであり、ぜひ合わせて読んでみてはどうだろうか。

 

もう一冊『自由をつくる 自在に生きる』も、なぜ研究者であった著者が副業として小説家を始めたのかがよく分かり、その人生観・仕事観を垣間見れるものとなっている。

 

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