*

秘境・辺境探検家の高野秀行はセンス抜群の海外放浪ノンフィクション作家

公開日: : 最終更新日:2017/03/09 Kindle, オススメ書籍

世界の秘境・辺境探検家である高野秀行の作品はどれも類例のない傑作ノンフィクションばかりなのだが、本書『巨流アマゾンを遡れ』もまさに高野にしか書けない内容と言えるだろう。他の人が真似するとキケン、そういう一冊なのである。

河口幅320キロ、全長6770キロ、流域面積は南米の4割にも及ぶ巨流アマゾン。地元の船を乗り継ぎ、早大探検部の著者は河をひたすら遡る。行く手に立ちはだかるのは、南米一の荒技師、コカインの運び屋、呪術師、密林の老ガイド、日本人の行商人…。果たして、最長源流であるミスミ山にたどりつけるのか。波瀾万丈の「旅」を夢見るあなたに贈る爽快ノンフィクション。

 

 

 

まずはここで簡単に現代稀なノンフィクション作家・高野秀行について紹介しておこう。なにしろ高野秀行といえば日本で(世界でも?)唯一の秘境・辺境探検家を肩書とする物書きであり、『謎の独立国家ソマリランド』では、まだ世界から承認されていない「国」ソマリランドへの潜入レポを敢行し、

第35回(2013年)講談社ノンフィクション賞受賞
第3回梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞
BOOK OF THE YEAR2013 今年最高の本 第1位(dacapo)
本屋さん大賞ノンフィクション部門 第1位(週刊文春)

西欧民主主義敗れたり! ! 著者渾身の歴史的<刮目>大作 終わりなき内戦が続き、無数の武装勢力や海賊が跋扈する「崩壊国家」ソマリア。その中に、独自に武装解除し十数年も平和に暮らしている独立国があるという。果たしてそんな国が存在しえるのか? 事実を確かめるため、著者は誰も試みたことのない方法で世界一危険なエリアに飛び込んだ──。世界をゆるがす、衝撃のルポルタージュ、ここに登場!

 

 

 

あんなにも大変な思いをしたというのに、日本に帰国したら今度はまたソマリアが恋しくなってしまい、その後の顛末は『恋するソマリア』にまとめられている通りで、

台所から戦場まで!世界一危険なエリアの正体見たり!!アフリカ、ソマリ社会に夢中になった著者を待ち受けていたのは、手料理とロケット弾だった…。『謎の独立国家ソマリランド』の著者が贈る、前人未踏の片想い暴走ノンフィクション。講談社ノンフィクション賞受賞第一作。

 

 

 

『未来国家ブータン』では、雪男探しをきっかけに幸せの国ブータンの実態に迫り、僕自身の観察(「ブータン仏教の聖地・タクツァン僧院に行ってきた」)とは全く違うアプローチになるほどと唸らされ、

「雪男がいるんですよ」。現地研究者の言葉で迷わず著者はブータンへ飛んだ。政府公認のもと、生物資源探査と称して未確認生命体の取材をするうちに見えてきたのは、伝統的な知恵や信仰と最先端の環境・人権優先主義がミックスされた未来国家だった。世界でいちばん幸福と言われる国の秘密とは何か。そして目撃情報が多数寄せられる雪男の正体とはいったい―!?驚きと発見に満ちた辺境記。

 

 

 

そして『イスラム飲酒紀行』では、宗教上飲酒が禁止されているはずのイスラム教国家をいくつも訪れ、現地で密造されている地酒を飲む。そんな体当たりのルポルタージュを仕上げ続ける、ハマる人にはものすごくハマる、第一級のノンフィクション作家なのである。僕は好きだね、この作風(芸風?)。

イラン、アフガニスタン、シリア、ソマリランド、パキスタン……。酒をこよなく愛する男が、酒を禁じるイスラム圏を旅したら? 著者は必死で異教徒の酒、密輸酒、密造酒、そして幻の地酒を探す。そして、そこで見た意外な光景とは? イスラム圏の飲酒事情を描いた、おそらく世界で初めてのルポルタージュ。

 

 

 

そんな高野秀行のもう一つの傑作『アヘン王国潜入記』は、彼が1995年にミャンマー北部の麻薬栽培地帯に7ヶ月も滞在した潜入記録なのである。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろく書く」をモットーとする彼らしく、彼にしか書きようがない一冊であり、これが面白くないワケないのだ。

ミャンマー北部、反政府ゲリラの支配区・ワ州。1995年、アヘンを持つ者が力を握る無法地帯ともいわれるその地に単身7カ月、播種から収穫までケシ栽培に従事した著者が見た麻薬生産。それは農業なのか犯罪なのか。小さな村の暖かい人間模様、経済、教育。実際のアヘン中毒とはどういうことか。「そこまでやるか」と常に読者を驚かせてきた著者の伝説のルポルタージュ、待望の文庫化。

 

 

著者が「ゴールデン・トライアングル」(黄金の三角地帯)と呼ばれる、タイ、ラオス、ミャンマーの三カ国の国境に広がる《麻薬地帯》に興味を持ったのは、大学時代にまで遡る。当時探検部に所属し「未知の土地」に対する憧れが人一倍強かった著者だったが、そんな地理的な秘境はもはやこの地球上には存在せず、わずかに残ったのが政治的な秘境だけであった。そしてその最たるものが国家そして人間の「暗部」である<麻薬>であり、その栽培を生業としているこの黄金地帯だったのである。

 

とくに、タイやラオス国内で麻薬に対する締め付けが強まる中、ミャンマーでは1990年代にむしろ生産量が増大し、麻薬の黄金地帯は次第にトライアングルからミャンマー北部の一部地域に集中した「ゴールデン・ランド」へと変貌していった。その土地へ中国側から足を踏み入れた著者が、国境を越える前に「やっとここまでこぎつけた」と心の中で呟いたように、この大地こそが、高野が追い求め続けた地上最後の秘境なのだ。

 

medium_4789986404photo credit: (C)n Burgos via photopin cc

 

アイ・ラオという名前をもらった著者は、その黄金の大地で反政府ゲリラの闘士と出会い、村人たちと語り、ケシを育てて収穫し、皆と酒を酌み交わす。ケシの花が咲き乱れる中、銃を担ぎカメラに笑顔を向ける兵士の写真は実に印象深い。高野でなければ見ることができない、そして彼でなければ撮ることができなかった一枚なのは間違いない。

 

麻薬に関するその他数多のルポルタージュと本書が一線を画しているのは、麻薬密売ルートを解明するといったような俯瞰的な客観情報ではなく、現地人が感じているのと同じ手触りと、そして村人の暮らしぶりや考え方に接したいという、著者ならではの性分でありアプローチである。そして高野はそこから農業と麻薬とそして国家というものに思いを馳せる。自ら汗水流して麻薬を栽培した、その原体験が本書を極めて生々しく、そして力強い筆致としているのは間違いないが、実はそれだけではない。本書あとがきに次のように記すように、高野にとってもこれが、憧れ続けた秘境でハードにやり遂げた、そういう何にも代えがたい記録と記憶なのである。

 

作家であれ、ライターであれ、ジャーナリストであれ、およそ物書きであるなら誰にでもその人の「背骨」と呼ぶべき仕事があると思う。単行本でもいいし、雑誌に書いた一本の記事でもいい。世間で評価されまいが、売れまいが関係がない。とにかく、「自分はあれを書いたのだ」と心の支えになるような仕事だ。私の場合、それが本書である。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろく書く」というのが最初の本を出して以来、約二十年変わらない私のスタンスであるが、そのスタンスを最もハードに貫いたのがこの本だ。

 

体を張り命を賭けるノンフィクション作家・高野秀行。その骨太の「背骨」をぜひ本書で感じ取って欲しい。一度読み始めたら止まらない、中毒になるほど強烈な魅力を放ち続ける、それが高野が書き続ける類稀なルポルタージュなのである。どの一冊も圧倒的な熱量がこもっていておすすめです。

 

また、「辺境ライター高野秀行の原点『ワセダ三畳青春記』の「野々村荘」こそ日本最後の秘境」にも書いた通り、そんな怪人・高野秀行の生い立ちと成り立ちを知るには、この青春期が最高の一冊と言えるだろう。こちらも激しくオススメ。

三畳一間、家賃月1万2千円。ワセダのぼろアパート野々村荘に入居した私はケッタイ極まる住人たちと、アイドル性豊かな大家のおばちゃんに翻弄される。一方、私も探検部の仲間と幻覚植物の人体実験をしたり、三味線屋台でひと儲けを企んだり。金と欲のバブル時代も、不況と失望の九〇年代にも気づかず、能天気な日々を過ごしたバカ者たちのおかしくて、ちょっと切ない青春物語。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

「ない仕事」の作り方|みうらじゅんとノーベル賞級の研究

みうらじゅんの最新刊「『ない仕事』の作り方」、これがめちゃくちゃ面白かったものだから、ここで力強くお

記事を読む

【おすすめ英語テキスト】英語を英語で理解する、上級英単語集が半額以下のセール

現在実施中の、Amazon Kindle【40%OFF以上】高額書籍フェア には、ちょっとお値段が高

記事を読む

ヒマラヤ山脈でイエティの足跡を発見|雪男は向こうからやって来た

ヒマラヤ山中で伝説の雪男「イエティ」の足跡を発見したと、インド軍が公式ツイッターに写真つきで投稿した

記事を読む

Kindle電子書籍で手軽に読めるこの漫画がすごい:思わずハマったコミック12選

「電子コミックの時代がやってきた」でも紹介したように、日本ではとくに電子コミックが現在の市場を牽引し

記事を読む

kuzushi shougi

日本将棋マネーリーグ|今年も賞金ランク首位は豊島将之竜王、藤井二冠は?

先日は毎年恒例の「欧州サッカー・マネーリーグ」が発表され、今年もスペインのFCバルセロナが収入ランキ

記事を読む

ビル・ゲイツが2013年のNo.1書籍に選んだ『コンテナ物語』

ビル・ゲイツ氏が選ぶ「2013年に読んだ記憶に残る7冊の本」が昨年末何かと話題となったが、その中でイ

記事を読む

アメリカで最もお世話になったあの老夫婦がこの夏日本にやって来る

僕が米国留学で一番お世話になったのは、ひょっとすると大学院の指導教授ではなく、むしろアカデミックとは

記事を読む

超ヤバい経済学者のゼロベース思考—どんな難問もシンプルに解決できる

『ヤバい経済学』が世界中で大ベストセラーとなったばかりか、その続編『超ヤバい経済学』もヒットさせた売

記事を読む

戦略アナリストが支える全日本女子バレー|世界と互角に戦うデータ分析術

女子バレーボールのワールドカップもいよいよ終盤戦。リオデジャネイロ五輪への出場権をかけて瀬戸際のニッ

記事を読む

日本語の誤用をとことんを考える『明鏡国語辞典』が10年ぶりに大刷新|新しい「問題な日本語」

今年も国語辞典の話題が多かったが、最新のトピックとして最も注目すべきなのは、やはりこちら、『明鏡国語

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑