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箱根駅伝「幻の区間賞」と関東学連チーム出場の是非

公開日: : 最終更新日:2023/01/03 オススメ書籍, スポーツ

来年もまた正月から箱根駅伝にくぎ付けとなってしまう、そんな人も多くいることだろう。二日間に渡るこれだけの長期間、視聴者をテレビの前に座らせておける魅力を持ったコンテンツなど、今やこの箱根駅伝くらいのものではないだろうか。

 

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さて、今年の箱根駅伝の注目は、なんといってもどの大学が青山学院の4連覇を阻むのか、だったはずだ。どのチームもその対策に怠りはなかったはずなのに、レースが始まってみれば結局のところ青学の完勝に終わった。つい数年前に箱根で初優勝したばかりの新興チームが、なぜこれほどの短期間で常勝軍団となりえたのか、その背景にはもちろん業界の異端児・原晋監督の存在があるのはよく知られたところだ。

 

会社員経験・営業マンとしての毎日を経ての駅伝監督への転身。もうそれだけで十分にユニークな経歴なのだが、それと同時に選手の育て方、とくにチーム・マネジメントとモチベーション管理に長けているのは、以下のような本を読むとよく分かる。僕自身、たいへん興味深く読んだのだが、これだけ青山の強さが際立つなか、原監督の手法に対する注目はますます高まっていくに違いない。ビジネスマンとのしての経験があったからこそ到達した現在の監督スキルには、スポーツマン以外の人こそ応用できるヒントが詰まっていると言えよう。ぜひおもしろく読んで頂きたい。

 

 

今年91回目の開催となった箱根駅伝で、青山学院大学が初優勝を飾った。 優勝に導いたのは、「伝説の営業マン」だった原晋監督である。 しばらく箱根駅伝出場から遠ざかっていた青学陸上競技部の躍進の秘密は、その指導法にあった。 約10年間のサラリーマン時代にトップ営業マンとなった原監督は、ビジネスでの営業手法を、駅伝の指導に応用したのである。 高い目標設定とそれを実現させるためにどうするか考えることは、 ビジネスも駅伝も同じだと言い切る著者。 本書では、何度も苦汁をなめながらも、不屈の精神で逆転してきた著者の「理論と情熱」を併せ持った指導法・交渉力などを紹介する。 スポーツ選手、箱根駅伝ファンはもとより、ビジネスマン、部活動の指導者、就職活動中の学生にもぜひ読んでほしい一冊。

 

 

2015年の正月まで、私は一部の熱心な駅伝ファン以外、誰も知らない無名の監督でした。さらに言えば、私の現役時代は箱根駅伝出場、オリンピック出場などという華々しい経歴は皆無。そんな私が、なぜ青学陸上競技部で結果を出せたのか。それはきっと、営業マンとして実績を積み重ねる過程で、チームをつくり上げるにはなにが必要なのか、人を育てるとはどういうことなのかなど、たくさんのことを学んだからです。そして、それをスポーツの現場に持ち込めば成功するのではないかと思っていたのです。ダメダメだった私だからこそ、今までの常識にとらわれずに、陸上界の常識を打ち破ることができたのだと思います。ビジネスのグラウンドには、「人と組織」を強くするノウハウがたくさん埋まっています。ビジネスで培われ、青学陸上競技部で醸成された「ノウハウ」が、今度は皆さまのビジネスの現場で一つでもお役に立てられれば、これほどうれしいことはありません。

 

 

 

さて、毎年の箱根駅伝では、優勝争いが白熱しなくとも視聴者の視線を集め続けることができるのである。その大きな理由が、繰り上げ出走とシード権争いである。たすきをつなぐという物語が箱根の感動を生んでいる以上、そのリレーが途切れ繰り上げスタートとなってしまうかどうかというのは、見るものを最後までハラハラさせ続ける。

 

加えて、上位10チームに翌年のシード権が付与される現在の制度では、その権利をかけた終盤のデッドヒートこそ箱根の見どころと言ってもよいかも知れない。しかし今年の箱根駅伝では、珍しくもう一つのドラマが誕生したのである。それが、最終10区における「幻の区間賞」だったのである。

 

(Yahoo! ニュース)青山学院大の3連覇で幕を閉じた今年の箱根駅伝。原晋監督(49)が胴上げされる裏で、「幻の区間賞」が誕生していた。関東学生連合チームで10区を走った東京国際大の照井明人(4年)が1時間10分58秒でゴール。区間トップとなった。が、学連チームはオープン参加のため、記録は参考扱いとなり、10区の区間賞トロフィーはタイム上2位だった順天堂大の作田直也(4年)が手にした。

 

 

 

photo credit: Chema Concellon via photopin cc

photo credit: Chema Concellon via photopin cc

 

 

これは、箱根駅伝の本大会に出場できなかった大学から集めてきたランナー達の、いわば寄せ集めである「関東学生連合チーム」が記録に残らないオープン参加となっているからこそ起こった、極めて珍しい現象なのである。しかし、記録にも残らないレースを走る選手のモチベーションはどこにあるのか?それはこれまでにも何度も議論されてきたテーマであり、そもそも廃止すべきではないかという意見も根強く、関東以外の大学の参加の是非も含め、箱根駅伝がまだきちんと制度化されていない一つの象徴でもある。

 

2003年(79回大会)につくられた関東学連チームは08、09年を除き、長らく下位に低迷。幾度となく廃止が検討されてきた。公務員ランナーの川内優輝(29)が、学習院大時代の07、09年に関東学連チームとして出場し、「箱根で大観衆の中で走る喜びを知った」と語ったことから存続するも、14年(90回)は不採用に。「5年に1度の記念大会だけ編成」という案が出ながら、一部で廃止を反対する選手もおり、15年(91回)からオープン参加となり、現在に至る。大学の代表として走れない選手が出場することから「寄せ集め集団」と揶揄されてきた関東学連チーム。自分の大学の名前が入ったゼッケンやたすきを着けることができず、結果を出しても記録さえ残らない。

 

 

しかし、そんな関東学連チームだからこそ、今年のように非常に面白いドラマが生まれるのだ。そして、こんなユニークなチームの実態を描いた素晴らしい小説が、堂場瞬一のこの『チーム』である。「打倒青山学院|来年の箱根駅伝をもっと面白くするこの5冊」でもおすすめした一冊だが、今年の箱根駅伝で関東学連からまさかの「幻の区間賞」が誕生してしまった今だからこそ、もう一度読んで欲しい傑作フィクションである。ぜひ多くの人に、そんな「敗者の寄せ集め」選抜チーム内の葛藤と感情を垣間見て頂きたい。

 

 

箱根駅伝の出場を逃した大学のなかから、予選で好タイムを出した選手が選ばれる混成チーム「学連選抜」。究極のチームスポーツといわれる駅伝で、いわば“敗者の寄せ集め”の選抜メンバーは、何のために襷をつなぐのか。東京~箱根間往復217.9kmの勝負の行方は――選手たちの葛藤と激走を描ききったスポーツ小説の金字塔。

 

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