【TEDトーク】モニカ・ルインスキーとネットいじめ|彼女が見つけた適切な関係
モニカ・ルインスキーという名前を久しぶりに聞いた。といっても、その名を記憶しているのは、ある程度の年齢以上の人たちだけであろう。1998年、当時の米国クリントン大統領とモニカとの不倫が発覚、大統領は「不適切な関係(relationship that was not appropriate)」を認め、現役大統領が弾劾裁判にかけられるという異例の事態に。罷免は免れたものの大統領職の品位と権威は大きく失墜した。
その当時、クリントンに対する批判と同時に、モニカ・ルインスキーに対する非難もすごかったのも、鮮明に記憶されていることだろう。大手メディアがこぞってこのスキャンダルを取り上げただけでなく、当時急速に普及が進んでいたネットがさらにバッシングを加速させた。それは文字通り、世界で最初の「ネットいじめ (cyberbullying)」だったのである。
When this happened to me 17 years ago, there was no name for it. Now we call it cyberbullying and online harassment. Today, I want to share some of my experience with you, talk about how that experience has helped shape my cultural observations and how I hope my past experience can lead to a change that results in less suffering for others.
その体験と、そこから得た教訓、そして今世界中で様々なネット上での問題が起こる中それらに対しどう対応していけばいよいのかを語るため、モニカ・ルインスキーがTEDトークに登壇したのである。先日のNHK「スーパープレゼンテーション」でも取り上げられていたので、ご覧になった方も多かったのではないだろうか。
彼女の終始落ち着いた話しぶりは、当時のメディアがその当時報じていたイメージである “tramp, tart, slut, whore, bimbo” とは全く異なる。さらに、彼女がこうして人前で自分のことを話そうという気持ちになったのが、2010年に米国ラトガース大学の学生タイラー・クレメンティが自殺した事件が契機となっていると語る。同性愛に対する差別が激しい米国においてネットいじめが広がり、当時18歳だったタイラーはニューヨークのジョージ・ワシントン橋の上から身を投げた。この事件は日本でも大きく報じられたため、記憶している人も多いだろう。
こうしたネットいじめを目の当たりにし、これ以上犠牲者を出さないためにと、モニカ・ルインスキーは長年の沈黙を破っていま人の前に立って語り始めた。17年前の自分も同じように自殺の一歩手前であり、それを心配する両親からは毎日、ドアを開けたまま浴室に入るようにと強く言われていたという。そうした体験をもとに、彼女はいまも世界中で繰り広げられる悲惨なネットいじめを止めようと、そしてそのためには他者に対する思いやりと共感、そして自分の発言に対する責任が不可欠と訴える。そのメッセージは、こうした時代だからこそ強く重く響く。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
アメリカ日系人強制収容所跡地を尋ねた米国西海岸縦断の旅
アメリカ生活の中で、僕はずいぶんと色々な所を旅したように思う。もちろん広大なアメリカ全土を歩くことな
-
-
綻びゆくアメリカと繁栄から取り残された白人たち
2014年に翻訳出版された『綻びゆくアメリカ―歴史の転換点に生きる人々の物語』に今また注目が集まって
-
-
イメージを掴んで使い分けろ|英語の難所・前置詞を攻略する
以前にも「効果抜群おすすめ英単語超学習法|語源から理解して飛躍的に語彙を広げる」で激推しした、『英単
-
-
経済学Ph.D.のアカデミック・ジョブマーケット|AEA年次総会がシカゴで閉幕
1月の最初の週末、日本ではまだお正月気分が残っている頃に開催されるのが The American E
-
-
アメリカ連邦最高裁判事9人<ザ・ナイン>が歴史をつくる「この国のかたち」
米連邦最高裁判事ギンズバーグの死去とその後任選びで、目前に控える米国大統領選挙がさらに混沌としてきた
-
-
Kindle電子書籍で学ぶ、日本人の知らないワンランク上のビジネス英語術
ドクター・ヴァンスの『日本人の知らないワンランク上のビジネス英語術』がセール中。これまで僕も何度か書
-
-
英語論文の書き方:英文ライティングの新定番テキスト “The Sense of Style”
これまで4回連続で紹介してきた、英語アカデミック・ライティングのおすすめテキスト、の続き。
-
-
ジョジョの奇妙な冒険で英語を勉強するなんて、無駄無駄無駄無駄無駄ですか?
いや、決してそんなことはない、という一冊が登場。昨年出版されたことに気づいて以来、ものすごく気になっ
-
-
米国Amazon.com が公表する、アメリカとカナダの Most Well-Read Cities
毎年恒例となった、Amazon.com (および Amazon.ca)が発表する "Most Wel
-
-
パーソナルゲノム時代の医療:米国の予防的手術
本日の Kindle 日替わりセールに『遺伝子医療革命 ―ゲノム科学がわたしたちを変える』が登場。紙