『ヤバい統計学』とテーマパーク優先パスの価格付け
『ヤバい経済学』の大ヒット以来、『ヤバい社会学』、『ヤバい経営学』と続けてきたこのシリーズ。内容そのものは決してヤバいものではなく、アカデミックだけどちょっとクセのあるユニークな研究を、一般読者に向けて面白く解説したものだ。
そのシリーズに連なる『ヤバい統計学』も期待通りのおもしろいストーリーを提供している。本書ではまず、ディズニーランドのファストパスの背景にある考え方を説明し、いかに行列を短くするかという取り組みを紹介する。興味深いのは、顧客の満足度というものが必ずしも行列の短さに比例するわけではないということ。具体的には、ファストパスを使って優先的に案内される待遇そのものに満足する傾向が強いことなどが示される。
photo credit: Bob Jagendorf via photopin cc
このファストパスで強烈に印象に残っているのが、昨年の夏に訪れたシンガポールのユニバーサル・スタジオ。半日しか時間がなかったために、優先パスを買うことにしたのだが、このパスが販売されているということにまず驚いた。ディズニーランドのファストパスはアトラクションに到着して(無料で)貰うものだが、ユニバーサル・スタジオでは売っているのである、しかもいいお値段で(苦笑)。
人の足元見やがって、と悔しい思いをしたのだけれども、背に腹は代えられないというか、時は金なりというか、半日しか残り時間のない僕らにとっては行列なんぞに並んでいる暇はないのである。だから高い値段を出して買いましたとも、ええ。
しかし、これが実に気持ちいいのである。なにしろ長い行列が続く中、ガラ空きの優先レーンで行列の初めまで一気に進めるのだから。行列でお待ちの皆様に申し訳ないと思いつつも、オレ高いカネ払ってるしー、みなさんを追い越して当然ですよねー、っていう気持ちがしっかりある。当日一番混んでいたのは90分待ちのトランスフォーマーだったのだけれども、僕らは3分も待たずに乗れた。あれは、自分がワルイ人間だと何度も気づかせてくれる、最良のアイテムだと思うね(笑)。
photo credit: Schristia via photopin cc
しかし、もっと驚いたことがあった。それは、この優先パスが売っているだけでなく、その値段が日によって変わるということ。これはもう衝撃と言っていい。優先パスを販売しているカウンターで「ちょっと値段たかくね?」と聞いてみたところ、「はい、今日は日曜日ですから」という回答。「え?じゃあ平日だともっと安いの?」という僕の自然な疑問に対し、「はい、平日は空いてますから」と何事もないかのように返事してくれたお姉さん。
なるほど、そういう仕組みになっているのか。土日祝日でテーマパークが混み、長い行列が出来ているときの優先パスの価値と、平日で空いており、わずかな行列しかないときの優先パスの価値は、確かに全く異なってくる。しかし、それがキチンと価格に反映されているとまでは予想していなかった。果たしてこの仕組みが、大阪を含めた世界のユニバーサル・スタジオで共通して導入されているものなのか、シンガポールだけなのか、テーマパークに詳しくない僕には分からない。
しかしながら、優先パスが販売されており、その販売価格が適宜変動するという、ここシンガポールのユニバーサルスタジオの手法に大変感心してしまったのである。それを勉強させてもらったと思い、日曜日のあの高い価格を払った自分を納得させる他あるまい。
本書『ヤバい統計学』を読みながらそんなことを思い出したのだが、それ以外に本書でカバーされているトピックは、感染症の経路特定やスポーツ選手のドーピング検査、そしてテロ対策等々、実に現代的なものが並ぶ。それではこうしたテーマに対し、統計学の考え方がどう役立つのかが解説されており、気軽に面白く、でもきちんと真面目に読める一冊となっている。
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