*

『ヤバい統計学』とテーマパーク優先パスの価格付け

公開日: : 最終更新日:2016/10/05 Kindle, オススメ書籍, 経済学・統計学

『ヤバい経済学』の大ヒット以来、『ヤバい社会学』『ヤバい経営学』と続けてきたこのシリーズ。内容そのものは決してヤバいものではなく、アカデミックだけどちょっとクセのあるユニークな研究を、一般読者に向けて面白く解説したものだ。

 

そのシリーズに連なる『ヤバい統計学』も期待通りのおもしろいストーリーを提供している。本書ではまず、ディズニーランドのファストパスの背景にある考え方を説明し、いかに行列を短くするかという取り組みを紹介する。興味深いのは、顧客の満足度というものが必ずしも行列の短さに比例するわけではないということ。具体的には、ファストパスを使って優先的に案内される待遇そのものに満足する傾向が強いことなどが示される。

 

theme park long queuephoto credit: Bob Jagendorf via photopin cc

 

このファストパスで強烈に印象に残っているのが、昨年の夏に訪れたシンガポールのユニバーサル・スタジオ。半日しか時間がなかったために、優先パスを買うことにしたのだが、このパスが販売されているということにまず驚いた。ディズニーランドのファストパスはアトラクションに到着して(無料で)貰うものだが、ユニバーサル・スタジオでは売っているのである、しかもいいお値段で(苦笑)。

 

人の足元見やがって、と悔しい思いをしたのだけれども、背に腹は代えられないというか、時は金なりというか、半日しか残り時間のない僕らにとっては行列なんぞに並んでいる暇はないのである。だから高い値段を出して買いましたとも、ええ。

 

しかし、これが実に気持ちいいのである。なにしろ長い行列が続く中、ガラ空きの優先レーンで行列の初めまで一気に進めるのだから。行列でお待ちの皆様に申し訳ないと思いつつも、オレ高いカネ払ってるしー、みなさんを追い越して当然ですよねー、っていう気持ちがしっかりある。当日一番混んでいたのは90分待ちのトランスフォーマーだったのだけれども、僕らは3分も待たずに乗れた。あれは、自分がワルイ人間だと何度も気づかせてくれる、最良のアイテムだと思うね(笑)。

 

universal studio singapore transformerphoto credit: Schristia via photopin cc

 

しかし、もっと驚いたことがあった。それは、この優先パスが売っているだけでなく、その値段が日によって変わるということ。これはもう衝撃と言っていい。優先パスを販売しているカウンターで「ちょっと値段たかくね?」と聞いてみたところ、「はい、今日は日曜日ですから」という回答。「え?じゃあ平日だともっと安いの?」という僕の自然な疑問に対し、「はい、平日は空いてますから」と何事もないかのように返事してくれたお姉さん。

 

なるほど、そういう仕組みになっているのか。土日祝日でテーマパークが混み、長い行列が出来ているときの優先パスの価値と、平日で空いており、わずかな行列しかないときの優先パスの価値は、確かに全く異なってくる。しかし、それがキチンと価格に反映されているとまでは予想していなかった。果たしてこの仕組みが、大阪を含めた世界のユニバーサル・スタジオで共通して導入されているものなのか、シンガポールだけなのか、テーマパークに詳しくない僕には分からない。

 

しかしながら、優先パスが販売されており、その販売価格が適宜変動するという、ここシンガポールのユニバーサルスタジオの手法に大変感心してしまったのである。それを勉強させてもらったと思い、日曜日のあの高い価格を払った自分を納得させる他あるまい。

 

本書『ヤバい統計学』を読みながらそんなことを思い出したのだが、それ以外に本書でカバーされているトピックは、感染症の経路特定やスポーツ選手のドーピング検査、そしてテロ対策等々、実に現代的なものが並ぶ。それではこうしたテーマに対し、統計学の考え方がどう役立つのかが解説されており、気軽に面白く、でもきちんと真面目に読める一冊となっている。

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

大ヒット『英国一家、日本を食べる』がなんとNHKでアニメ化|初回放送が予想以上におもしろかった

ちょっと前に『英国一家、日本を食べる』という本が、その続編「ますます食べる」も含めて大きな話題となっ

記事を読む

NHKの異色数学番組『笑わない数学』第2回は「無限」の魅力と魔力に迫る

さて、初回が放送されたばかりのNHK『笑わない数学』、ご覧になりましたか? 第1回では「素数」の謎に

記事を読む

卒業・進級・入学おめでとう|大人になったら自分にベストの国語辞典を自ら選ぼう

桜満開・春爛漫のこの時期、これほどまでに卒業・入学に相応しいシーズンがあるだろうか。日本では今後も秋

記事を読む

美貌格差:ビジンとイケメンと生まれつき不平等の経済学

労働経済学者 Daniel Hamermesh による一般向け書籍 "Beauty Pays: Wh

記事を読む

大学受験間近|なぜ東京藝大は東大よりも難関なのか?

今年も受験シーズンの真っただ中となった。 国公立大入試の2次試験の出願もしめ切れらたところで、全国

記事を読む

ニューノーマルなバレンタイン|恋と愛とチョコレートの経済学

バレンタインな週末がやってきましたね。諸兄の皆様方に置かれましては、ニューノーマルな暮らしの中におい

記事を読む

欧州サッカー「データ革命」|スポーツを科学する最前線ドイツからの現地レポート

先日書いた「錦織圭の全豪オープンテニスをデータ観戦しながら応援しよう|IBMのSLAMTRACKER

記事を読む

イスラムとアラブを知るための入門書

今年に入ってから、「イスラム国」に関する書籍が相次いだ。世界の脅威となっているこの存在を謎や不明のま

記事を読む

事実は小説より奇なり|大人が味わうノンフィクション

先日おすすめした『10代のための読書地図』と同じブックガイドでありながら、そのテイストが大幅に異なる

記事を読む

ワールドカップで大番狂わせを狙え|サッカー監督の世界級チームマネジメントの極意

2022年という年は、やはりサッカー・ワールドカップでの日本代表の活躍が強烈な印象として残っている人

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑