*

囲碁タイトル7冠同時制覇|井山裕太と師匠・石井邦生が創りだした盤上の宇宙・独創の一手

公開日: : 最終更新日:2018/09/19 オススメ書籍, ニュース

すごいな、井山裕太。大きなニュースとなったことで、囲碁ファン以外にも伝わったであろう、7冠同時制覇へ返り咲き。これは囲碁界ではもちろん史上初、将棋界を含めても初めての、前人未到の快挙なのである。それをこの若き天才棋士がなしとげたのだ、すばらしい偉業だ。

 

 

ちなみに以下は井山裕太が最初に7冠を達成した時に書いたエントリだが、そこでも触れたように、井山の師匠・石井邦生の育て方がまた素晴らしいのである。この師匠の下で、伸び伸びと育った井山だからこそ、いままさに盤上で創造的な一手を指し続けられるのである。

 


 

ついに、ついに実現してしまった、囲碁界初のタイトル全7冠同時制覇!

毎日新聞)囲碁のタイトル6冠を保持する井山裕太本因坊(26)=ほかに棋聖、名人、王座、天元、碁聖=が20日、十段を奪取し、囲碁界では初めて全7大タイトルの同時制覇を達成した。

 

1996年に当時25歳の羽生善治が将棋界初のタイトル7冠独占を達成してからちょうど20年に当たる今年、これまた弱冠26歳という若き囲碁棋士が成し遂げた前人未到の偉業。本当に素晴らしい。

 

先日はグーグルの人工知能(AI)「アルファ碁」の強さが大きくクローズアップされたが、それでもなお今回の井山裕太のこの快挙には驚きそして感動せざるを得ない。そして囲碁を愛する人、これから初める人がもっと増えることを期待したい。

 

japanese igophoto credit: Ken Reppart via photopin cc

 

 

そして、今回の井山裕太の偉業とともに記憶して頂きたいのが、彼の師匠である石井邦生の存在である。7冠達成に際して祝福のコメントを贈っているが、この師匠なくしては今の井山もなかったであろう。

1994年、5歳の井山と会った。とても小さい子で、碁盤の前に立ち上がって打っていた。座ると盤の端まで手が届かないのだ。目にも止まらぬ速さで打っていくのが強烈な印象に残っているが、難しい局面になると手を止め、考える。盤上の感性は最初から豊かだった。

弟子を取るつもりはなかったが、井山の才能にほれた。出会った時、私は既に55歳。タイトルは諦めてしまっていたが、弟子に夢を託そうと思った。

 

以前に「いま囲碁がとんでもなく面白い:弱冠24歳の6冠井山裕太」でも紹介したように、石井による井山育成は、じつにユニークで型破りなものだった。それは囲碁という伝統的な世界にあっては従来では考えられないものばかりだった。だが、それがよかった。当時まだ普及していないインターネット上での囲碁対局を通じ、師匠のコワイ顔を見ることなく(笑)、「子供らしく元気な碁、恐れを知らない大胆な一手」そういったものをどんどん奨励していったのである。詳しくは石井邦生の著書『わが天才棋士・井山裕太』をご覧頂きたいが、これを読めばこの師匠にしてこの弟子あり、というのがよく分かることだろう。

 

 

そんな井山に迫ったドキュメンタリーが、NHKプロフェッショナル「盤上の宇宙、独創の一手。囲碁棋士・井山裕太」だった。これも実におもしろく視聴したのを思い出すが、ぜひともこの7冠制覇というタイミングで再放送されることを期待したい。(追記:その後、4/25 (月) に再放送されることが決定。Good job, NHK! 前回見逃した方、どうぞお忘れなく。)

 

iyama-nhk

 

 

最後に、井山より20年早く、将棋界においてタイトル7冠独占を成し遂げた羽生善治も、今回の井山に次のような祝辞をおくっている(Yahooニュース)。

おめでとうございます。1年通じて気力、体力、精神力を維持し続けての偉業に心から敬意を表します。自分が成し遂げた時よりもはるかに競争が激しくなっている現代での達成に、感嘆と井山さんであれば当然と感じました。そして、まだまだ余力も進歩の余地もたくさんある今後の活躍も期待しています。囲碁の大きな歴史を現在進行形で作られている姿に同じ棋士として誇りに思っています

 

その彼が、その偉業達成に向かう当時の気持ちを語り、そして7冠独占の前後でどう将棋に対する考え方が変わっていったのか、さらには歳を重ねたいま将棋に対して思うこと。そうした羽生善治のこれまでの歴史とこれからを知るには、『羽生善治 戦う頭脳』が最適の一冊となるだろう。これもまた実に興味深く読んだものとして、ぜひおすすめしたい内容である。

15歳でプロ棋士になってから30年、将棋界のトップランナーとして走りつづける天才・羽生善治。その卓越した思考力、勝負力、発想力、人間力、持続力はどこから湧き出るのか―。勝負と格闘してきた日常より生まれた彼の言葉は、将棋の枠だけには収まりきらない深い含蓄に溢れている。ビジネスにも通じる発想のヒントが満載です。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

vermeer blue

アートは小説よりも奇なり:盗作と贋作の歴史、美術ノンフィクションが面白い

なんと、僕が好んで読む美術ノンフィクションの傑作が2冊も文庫版として再登場しているではないか。『ギャ

記事を読む

一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部の挑戦と初受験

さて今年の国公立大学受験でもう一つ大きな話題となっているのが、一橋大学がじつに72年ぶりに新設する

記事を読む

効果抜群おすすめ英単語超学習法|語源から理解して飛躍的に語彙を広げる

今年5月に出版された『英単語の語源図鑑』が、すでに20万部も売れているようだ。英語関連書としてベスト

記事を読む

最強のトイレがアメリカに上陸。一方の日本では「トイレとうんち」展が大人気

僕はトイレに並々ならぬ関心を持っている。本当に。だから、国連が「11月19日は世界トイレの日」と定め

記事を読む

心を打つ名言、心を挫く駄言|絶版を目指した出版「駄言辞典」がおもしろい

今年出版された「駄言辞典」をご存知ですか?こんな本、知らなくてよいのかも知れない。なぜなら、最初から

記事を読む

これは経費で落ちません|経理部が見つめる人間模様

NHKで現在放送中のドラマ「これは経費で落ちません!」が面白い。多部未華子が演じるアラサー独身女子・

記事を読む

刑務所の医師不足と漫画『ムショ医』

先日のNHK News Web でも報道された通り、現在日本の刑務所における医者不足が極めて深刻な問

記事を読む

monopoly game

定番ボードゲーム「モノポリー」もクラウドソーシングする時代へ

"Rethinking Monopoly: Rules of the game" という先日のEco

記事を読む

Kindle電子書籍で手軽に読む高野秀行の探検記シリーズは、フィクションかと思うほどの強烈ノンフィクション

高野秀行という作家はものすごく強烈な個性を放っている。「高野秀行はセンス抜群の海外放浪ノンフィクショ

記事を読む

人はなぜ走るのか?を問う『Born to Run~走るために生まれた』は、米国ランナーのバイブル

米国で異例のベストセラーとなり、何度目かのランニング・ブームを引き起こした一冊『Born to Ru

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑