*

人間はアンドロイドになれるか|ロボット工学者・石黒浩の最後の講義

公開日: : オススメ書籍

大学教授が定年退官の前に行う授業、それがこれまでの「最後の講義」だった。しかしそれを文字通り、自分が死ぬ前の最終講義として、世界中に多大なインパクトを与えたのが、カーネギー・メロン大学のランディ・パウシュだった。その動画も話題となったし書籍化もされたので、ご存知の方も多いことだろう。

 

 

世界中が涙した、ある大学教授の最後の授業

余命半年。幼いわが子や学生たちへどうしても伝えておきたいことを語ろう――

名門カーネギーメロン大学の講堂で、ある教授が「最後の授業」を行った。教授の名前はランディ・パウシュ。バーチャルリアリティの第一人者にして、コンピュータサイエンスの世界的権威だ。46歳、愛する妻と3人の子供に囲まれ、最高に充実した生活だった。だが講義直前、癌の転移が発覚、余命半年と宣告される。これから20年かかえて子どもたちに教えていくべきことを、たった半年でどう伝えたらよいのだろう? ランディは最後の教壇で、まだ幼いわが子へ、そして次代を担う若者へ向けて、大切にしてきたことや人生の喜びなど、自分が歩んできた道で得た夢と知恵を語ることにした――
全米で話題になり、その後YouTubeを通じて世界中の人々に勇気と生きる喜びをもたらした、47歳でこの世を去った大学教授が残した感動のメッセージ。

 

 

その動画(英語版)は以下のとおりだし、講義の日本語訳もアップされているので、もしもまだご覧になったことがない方は、ぜひ一度、死を目前にしたパウシュの本当に「最後の講義」を受けてみて欲しい。

 

 

 

そんな「最後の講義」だが、これ以降そのムーブメントが世界各国で広がりをみせていたなんて、先日のNHKのドキュメンタリーを見るまで、僕はまったく知らなかったのだ。なんとそんな動きがあったとは。そしてそのNHKで特集していたのが、大阪大学教授にして世界的なロボット工学者・石黒浩の「最後の講義」だったのだ。もしもこれが本当に、自分が死ぬ前の最後の授業だったならば、受講者を前にいったい何を語るべきなのか?そういう根源的な問いを突き付けられた石黒は、1,000年後の世界について自身の展望を語り始める。

 

last-lecture-ishiguro

 

 

それは、人間はこの先、自らの可能性をもっともっと広げることが出来るだろうという、ポジティブ志向である一方で、そう語る未来予想図は決して明るさだけで構成されているものではない。つまり、1,000年後の未来に人間という存在が生き残っているためには、それだけの進化を遂げていなくてはならず、今の技術革新はさらに今後速度を増し、究極的には人間を無機物化する方向へと向かっていくのではないかというのだ。

 

予想不可能な宇宙変動に対しても生存可能性を高めるためには、有機物よりも無機物の方が都合がよいと冷静に説明し、それが未来の人間なのではないかと大胆な持論を展開する。この指摘を僕自身が大変面白く感じたのは、石黒のこれまでの研究が著書名にもある通り「アンドロイドは人間になれるか」にあり(ちなみに本書も実に興味深く読んだ)、本物の人間と見まごうくらいの圧倒的に精巧なアンドロイドを作り続けてきた彼がいま関心を持っているのが、その真逆の「人間はアンドロイドになれるか」にあるように感じたからである。

 

果たして人間とは何なのか?それを問い続けながら、その答えを見出そうとアンドロイドを作り続けてきた石黒はいま、ひとつの究極的な答えに近づいているのではないだろうか。彼の「最終講義」を見て、当初予想していたものとまったく異なる内容に驚くとともに、人間とロボットについての深遠な関係を見たような気がした。

 

マツコロイド、美人すぎるアンドロイド、人間国宝を永久保存…世間の度胆を抜く発想で注目を集める世界的ロボット工学者・石黒浩。アンドロイドが教えてくれる「人の気持ち」や「人間らしさ」の正体とは?常識を次々と覆していく鬼才が人間の本質に迫る。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

Wall Street Journal 125周年と、アメリカ現代史

ちょうど昨年、「フィナンシャル・タイムズ(FT)とウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」で書い

記事を読む

2022年将棋賞金ランキング発表|藤井聡太5冠が1億円超で堂々の首位

将棋連盟から2022年の獲得賞金・対局料ベスト10が発表されましたね。毎年この時期の恒例であり、名

記事を読む

shougi denou sen

「われ敗れたり」:完敗だったが名勝負もあった第3回将棋・電王戦

今夜11時放送のTBS「情熱大陸」は、将棋・電王戦。  将棋のプロ棋士とコンピューター将棋ソフトが

記事を読む

科研費獲得の方法とコツ|戦略的な申請書執筆ノウハウ

さて、今年もまた科研費の応募締切が近づいてきた。採択された場合に翌年4月から経費使用ができるようにと

記事を読む

NHKの異色数学番組『笑わない数学』第2回は「無限」の魅力と魔力に迫る

さて、初回が放送されたばかりのNHK『笑わない数学』、ご覧になりましたか? 第1回では「素数」の謎に

記事を読む

【おすすめ英語テキスト】あの「語源図鑑」に待望の続編が登場|英単語を語源から根こそぎ理解する

ついに出ましたね、あのベストセラー『英単語の語源図鑑』に第二弾の続編が! これ、ものすごくおススメな

記事を読む

イメージを掴んで使い分けろ|英語の難所・前置詞を攻略する

以前にも「効果抜群おすすめ英単語超学習法|語源から理解して飛躍的に語彙を広げる」で激推しした、『英単

記事を読む

東京藝大で教わる西洋美術の見かた|基礎から身につく「大人の教養」

2022年1月3日から、BSイレブンで新番組「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」が始まる。これはぜひ

記事を読む

イェール大学出版局「リトル・ヒストリー」は初学者に優しい各学問分野の歴史解説

以前にもおすすめしたのだが、米国イェール大学出版局の “A Little History” シリーズ

記事を読む

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」でも紹介していたように、 宇宙

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑