*

華麗な舞台の裏にあるプロテニス選手の過酷な生活|ランキングシステムが生んだ世界的超格差社会

公開日: : オススメ書籍, スポーツ

2018年の全豪オープンテニスがフェデラーの優勝で幕を閉じた。自身が持つ四大大会最多優勝記録を20勝に伸ばし、2位のナダル(16勝)との差を広げた。しかし驚くべきは、怪我からのブランクを感じさせずに完全復活したプレースタイルと、36歳にしてなお世界のトップで輝き続けるこのパフォーマンスだ。まだまだこれからも記録を伸ばし続ける、そんな圧倒的王者としての貫禄と風格をいまなおまとっているようではないか。

 

ひるがえって日本人選手と言えば、錦織圭の怪我からの復帰が長引き、国内でのテニスの盛り上がりは今一つと言わざるを得ない。しかし、以前に「テニスプロはつらいよ|トッププレイヤー錦織圭とその他大勢の超格差社会」でも書いたように、トップテニス選手が試合の連続に明け暮れる生活と、ランキングを維持するためにはそうせざるを得ないこと、そしてごく一部のスター選手を除くその他大勢が生活苦にあることは、もっと知られてもよい事実だと思う。

 

試合出場で得られる金額や、各ツアーの優勝賞金、そして多額のCM料等を獲得できるのは、ほんのわずかの選手に限られる。勝者総取りに近いこの世界においては、ランキング100位以下では食っていけないのが現実であり、だからこそそれが一つの要因となって昨今の八百長問題へと発展しているのである。

 

 

 

 

例えば、日本人のナンバーワン・テニス選手が錦織圭だと知っている人たちのうち、一体どれだけが、日本人ナンバーツーやナンバースリーの選手名を言えるだろうか? つまり、決してコアなテニスファンではない、われわれのようなごく一般的な視聴者からすれば、テニス=錦織であり、大変残念かつ申し訳ないことにその他はまったく眼中にない、のである。

 

だから、その他大勢とひとくくりにされる錦織以外の日本人選手は、その多くがランキング下位でもがき苦しみ、そこからの浮上を常に夢見つつ、しかし最後にはその夢に破れ、誰にも知られないままひっそりと引退していくのである。そういうテニスプロならではの辛さに迫ったのが、このノンフィクション『テニスプロはつらいよ』であり、本書を読んで初めて僕自身もこの世界の現実を目の当たりにしたのである。

 

34億円。プロテニス選手の錦織圭の年収だ。淡い幻想を抱いてしまうが、「テニスで食べる」のは想像以上に難しい。テニス雑誌元編集長の著者がプロテニス選手の経済事情を赤裸々に明かす。

主人公は錦織より2歳年下の関口周一。世界ランキング最高位は259位。中学校から完全にテニスに専念、高校も通信制を選んだ。サラリーマン家庭に育った彼がプロになるまでの家計の負担、そして今の収入。日本ではトップ10に入っており、海外を転戦しているが、年間の獲得賞金は200万円にも満たない。

関口はジュニア時代は世界ランク5位にまでのぼりつめ、将来を嘱望された。一つの試合の一つのミスで歯車が狂い始めるのだが、それは一流と二流の差が紙一重であることも物語る。関口の再飛躍に期待したい。

 

 

 

これだけしんどいプロテニス界だが、日本人にとっての明るいニュースを最後に一つお届けしたい。それが今回の全豪オープンで初勝利し、四大大会では昨年のウインブルドンから3大会続けて初戦突破した杉田祐一である。そう、彼こそが錦織に続く、現在の日本人ナンバーツー選手なのだ。しかもここ数年での躍進が著しく、世界ランクも最高で36位まで上昇した。加えて、今回の全豪で倒したのが第8シードの強豪・ジャック・ソックであり、杉山にとっては初めてトップ10プレイヤーから勝利をもぎとったことになる(参考:Number「杉田祐一、全豪でトップ10に初勝利!インビューでの意外な告白とは」)。

 

すでに29歳となった杉山はもう決して若くはない。少年時代から天才と称賛された彼もこれまで世界ランキング下位でもがき苦しみ、20代後半にしてようやく表舞台に立つことができた。これから何年最高のプレイを見せられるか分からないが、一方でこの遅咲きの才能は、いまはまだ名が知られていない日本人プロテニス選手の多くを勇気づけることだろう。錦織がいないから四大大会を見ないのではなく、杉山のように錦織に続く選手、そして錦織のようなスピードで世界の階段を駆け上がれないその他大勢の無名選手を応援することもまた、テニスの醍醐味なのではないだろうか。今回の全豪オープンテニスを観戦しながら、そんな風に感じるとともに、今年の全仏・ウィンブルドン・そして全米オープンにも期待を寄せたいと思う。

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

行動経済学者ダン・アリエリー|お金と感情と意思決定の白熱教室

NHK『お金と感情と意思決定の白熱教室』再放送決定 先日放送されたNHK『数学ミステリー白熱教室』

記事を読む

東大医学部合格者の6割が通う進学塾|受験エリートと塾歴社会

先日、雑誌AERAの特集を読んだ。「東大理III合格者の6割が所属 受験エリートの“秘密結社”」とい

記事を読む

事実は小説より奇なり|大人が味わうノンフィクション

先日おすすめした『10代のための読書地図』と同じブックガイドでありながら、そのテイストが大幅に異なる

記事を読む

錦織圭の全豪オープンテニスをデータ観戦しながら応援しよう|IBMのSLAMTRACKERが面白い

現代において、スポーツ選手がデータ活用するのはもはや当たり前と言えよう。そしてそれはもちろん監督やコ

記事を読む

英語辞書の決定版|オックスフォード現代英英辞典に最新第10版が登場

オックスフォード現代英英辞典の最新第10版が出版されたのでさっそく購入。これはもう、英語辞書の決定版

記事を読む

論文捏造はなぜ繰り返されるのか?科学者の楽園と、背信の科学者たち

先週は、小保方晴子氏の論文「学位取り消しに当たらず」(NHK)との報道が新たな議論を引き起こしている

記事を読む

あの伝説の一戦「3連勝4連敗」から9年|羽生善治・永世七冠誕生

2017年12月5日、長い将棋の歴史に新たな偉業が刻まれた。羽生善治が竜王位を奪還し永世竜王となり、

記事を読む

クラフトビール業界ナンバーワン・ヤッホーブルーイング自慢のIPA「インドの青鬼」の苦みが最高に旨い

今年もまたビールが旨い季節がやって来た。もちろん、クラフトビール飲んでますよね?数年前から盛り上がり

記事を読む

東京五輪と同時開催していた「数学オリンピック」でも日本代表がゴールドメダル|この漫画がスゴい

東京オリンピックが閉会した。日本代表選手が獲得したメダルの数や色に一喜一憂するのは当然かも知れないが

記事を読む

emotional highs and lows in facebook

『ヤバい予測学』とフェイスブックデータが示す感情の起伏

フェイスブックのデータ・サイエンティストたちは毎度興味深いデータを見せてくれる。それは「フェイスブッ

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑