*

国語辞典を選ぶならこの4冊がおすすめ:現代語に強い三省堂・豊かな語釈の新明解・安定と安心の岩波・誤用を正す明鏡

公開日: : 最終更新日:2021/04/28 オススメ書籍

目的と用途に合わせてベストの国語辞典を見つけよう

卒業・入学シーズンを前に、そのお祝いとして国語辞典を贈ろうと考えている人も多数いることだろう。もちろん、入学・進学・就職にあわせ、この機会に自分で新しい辞典を購入しようという人も多いはずだ。だからここではその国語辞典について少し考えてみたい。まず最初に、国語辞典というのはとても面白いものだ。どの家庭にも一冊はあるはずだし、誰しも小中高校を通してどこかのタイミングで自分の辞書を買ったことがあるはずだ。さらには、世の中には数多くの辞書が出版されており「広辞苑」などは辞書の代名詞としてよく使われる言葉ですらある。

 

それなのに、「辞書の選び方」についての適切なアドバイスは、親からも学校の先生からも受けたことがない場合が多い。それは恐らくは、「国語辞典はどれも同じ」つまり「言葉の定義はどの辞典にも同じように書かれている」という大きな誤解からくるのだろう。しかしながら、自分で複数の辞書を見比べてみればすぐに気づくように、各種辞書の間にはこんなにも違うものなのかと驚くほどの、新鮮かつ衝撃なまでの個性があるのだ。

 

そう、まず最初に申し上げたいのが、国語辞典を買う際の最初の一冊として推薦したい次の4つはいずれも個性がある、ということなのである。それぞれの辞書に特徴と個性があるからこそ、これらの辞書を比較し、目的と用途に合わせて適切な一冊 “マイ・ベスト” を選ぶことが何よりも大事なのである。それでは以下簡単に、その4冊を紹介していこう。中学生から社会人まで、日本語をきちんと勉強したい人に対して、自信を持っておすすめできるものばかりである。

 

three main dictionaries

 

 

現代語を多数収録した『三省堂国語辞典』

まずは天才ケンボー先生こと見坊豪紀が編纂した三省堂国語辞典(通称「三国(サンコク)」)。新語収集に命をかけたケンボーの情熱が詰まりに詰まった辞書であり、いまなお「新語に強い」というのがこの辞書の最大の特徴となっている。具体的に言えば、6年ぶりに全面改訂され2013年に発売された最新第7版では、「スマホ」や「ゆるキャラ」、「婚活」に「TPP」、そして「ゲリラ豪雨」や「深堀り」といった用語が新たに掲載されているのである。

 

新語を辞書に載せることに眉をひそめる人もあるだろう。しかし上記のような用語は実際のところ、ニュースや新聞でも今では毎日のように使われているものばかりだ。そして何よりも、辞書とはそもそも、言葉を正す「鑑」の性格と、言葉の実態を映す「鏡」の性格を併せ持ったものであると考え、そして後者を重要視したのが、他ならぬ三省堂国語辞典の初代編纂者・見坊豪紀だったのである。

 

その哲学は現在においても三省堂国語辞典の中心を成しており、こうした現代語を丹念に拾い集め、生きのよい国語辞典となっているのが、この辞典の最大の特色だと言える。つまりこの辞書は、上記のように最近になって使われ始めた新しい言葉の意味を知りたい人に対して、もっとも強くおすすめできる一冊なのである。

 

 

生き生きとした語釈が特徴の『新明解国語辞典』

続いて紹介したいのは、同じ三省堂から出版されている、山田忠雄編纂の新明解国語辞典(通称「新解(しんかい)さん」)である。上記三省堂の見坊と新明解の山田は、実は東大の同級生であり、もともとは同じ辞書づくりに情熱を傾けていた。しかしその後、辞書編纂方針を巡って仲違いし、見坊は三国を、山田は新明解をと、全く別の2つの辞書が生まれることとなったのである。

 

この新明解国語辞典は、惜しまれつつ亡くなった赤瀬川原平が著書『新解さんの謎』の中でおもしろおかしく紹介したことで注目され、いまでは日本で一番売れている国語辞典なのである。広辞苑や岩波国語辞典といったライバル国語辞典を抑え、堂々日本一というのは素晴らしい実績といえるだろう。

 

そんな新明解の最大の魅力は、ときにあまりにも人間的な語釈にある。言葉のドライな定義よりも、その言葉が実社会の中でどのようなニュアンスを伴って使われるのか、ということにまで配慮した国語辞典というのは、この新明解でしかあり得ないだろう。

 

例えば、「実社会」の語釈として、「実際の社会。美化・様式化されたものとは違って複雑で、虚偽と欺瞞とが充満し、毎日が試練の連続であると言える、きびしい社会を指す」と堂々と皮肉交じりに定義してしまうのが、この辞書の流儀なのである。だから、「恋愛」や「正義」といった言葉がどのように定義されているのかを確認するだけでも非常に楽しめる。つまり「読む辞書」として国語辞典を再定義した記念碑的辞書でもあり、だからこそ、言葉の意味をじっくりと考え味わいたい人にとって最適の一冊となっているのである。2020年に待望の最新改訂第8版が発売されたばかりであり、この点でもいま買いたい国語辞典の代表格と言えるだろう。

 

 

オーソドックスな安心感が売りの『岩波国語辞典』

おすすめしたい辞書の三冊目は、最もオーソドックスな岩波国語辞典(通称「岩国(イワコク)」)である。新語に強い「三国」や、語釈に特徴ある「新解さん」と比べると、この「岩国」がとても地味なものに思えるかも知れない。しかし、辞書に派手さはいらない、なるべく多くの人が疑問なく納得できるような定義を知りたい、そう考える人はもちろんたくさんいる。だからこそ、上記の Amazonベストセラー・ランキングでも、第3位に挙がっているのだ。

 

その意味で、堅実な内容のこの岩国は実に辞書らしい辞書と言えるだろう。だからといって、その語釈に特徴がないわけでは決してない。例えば、辞書編纂作業に光を当てた映画『舟を編む』の中で、松田龍平演じる主人公が「国語辞典では『右』という言葉をどう定義したらよいか」と考える印象的なシーンがある。これは予想以上に難しい問題であり、「左の逆」とは言えないし、「箸を持つ側」と言うのも正確ではない。じつは岩波国語辞典の「右」の語釈は、極めて秀逸なものと評価されているのである。ぜひ自分自身の目で確かめて頂きたいし、他の辞典とどう異なっているのかと比較してみるのも面白い。

 

というように、この堅実な岩波国語辞典は、現代の言葉は乱れていると嘆きがちな人や、歴史的に正しい言葉づかいを知りたい人にとっての、素晴らしい伴侶となり得る一冊なのである。

 

 

日本語の正しい使い方を学ぶ『明鏡国語辞典』

最後の4冊目として紹介したいのが、個性的な辞書「明鏡国語辞典」である。こちらも2020年に待望の最新第3版が出版されたばかりであり、とても注目の一冊なのだ。本書の特徴はなんといっても、『問題な日本語』の著者でもある北原保雄が辞書編纂を務めていることだ。だからこそ、他の国語辞典と大きく異なり、「誤用までわかる国語辞典 言葉の正しい使い方を解説」してくれる、という特色があるのだ。

 

例えば、「血がうずく」「恩恵にあやかる」「有利に立つ」「佳境を迎える」、これ全部よくある日本語の誤用なんだけど、どこがどう間違っているのか、それをどう正せばよいか、分かりますか?このように、何となく分かっているようで、実は誤って使ってしまっている言葉たちは、身近にいくらでもあるのだが、こうした具体的な例をもとに解説してくれるのは、この辞書だけだ。

 

だからこそ、個人的にはベストセラーの国語辞典にくわえ、この明鏡国語辞典を合わせて用意しておくと、現代において日本語がどのように使用されているかを理解するとともに、どのように誤用されているのかを考える最高の教材になると思っている。上記3冊ほどの歴史はないが、だからこそ類書にないユニークな視点が際立つ、とてもエッジの効いた素晴らしい国語辞典としておすすめしたい。

 

 

 

上記の定番4冊以外の国語辞典を知るには

以上紹介したのが、最初の一冊としておすすめできる定番の国語辞典4冊である。しかし、世の中には、これ以外にも多数の辞書が存在する。

2015-01-04 12.27.12

 

もしも、そんな多種多様な辞書にも関心があるのなら、一読をすすめたいのがこの『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』だ。個性的でクセのある国語辞典ひとつひとつ、実に詳しくそして楽しく解説されている。国語辞典にもっと興味を持つこと間違いなしの、おすすめの一冊なのである。

 

 

国語辞典の選び方まとめ

というように、以上紹介してきたのが、最初の一冊としておすすめできる定番の国語辞典4選である。しかし今見たように、この4冊の辞書は実に異なった視点で編纂されており、それぞれ特有の強みを持っている。総括するならば、

と言えるだろう。

 

最後に、ここに挙げた4冊の国語辞典はいずれもしっかりと評価されているものであり、どれを買っても間違いがない。いずれの辞典も、最初の一冊としてとくにおすすめできるものばかりなのである。どれを選んでも、どうぞ素敵な辞書ライフを。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

イェール大学出版局 リトル・ヒストリー|若い読者のための「文学史」のすすめ

以前にも「イェール大学出版局『リトル・ヒストリー』は初学者に優しい各学問分野の歴史解説」で紹介したよ

記事を読む

中学生プロ棋士・藤井聡太四段の新たな歴史的偉業

快進撃を続けていた若干14歳のプロ棋士・藤井聡太四段が、ついに、なんと、歴代連勝記録の単独トップとい

記事を読む

ゲーマーとお金|さらなる有望産業 eスポーツビジネス

ご存知のとおり今回の東京五輪からは、スケートボードや、サーフィン、そしてスポーツクライミングといった

記事を読む

若き冒険家のアメリカ|植村直己『青春を山に賭けて』

NHK-BS で放送されている「ザ・プロファイラー|夢と野望の人生」をご覧になっているだろうか?以前

記事を読む

【再掲】今年の3月14日は世紀に一度のパイの日だった

すでにご存知の通り、3月14日といえばホワイトデー、ではなくて「パイの日」と答えるのが大正解である。

記事を読む

都立浅草高校国語教師・神林先生が愛してやまない飲み屋と呑み助と大将と女将

自宅や実家での新年気分も終わり、今週末あたりから町の飲み屋に繰り出すか、という人も多いかも知れない。

記事を読む

山に登るということ:登山と遭難とそして救助

2008年のマンガ大賞にも選ばれた、山岳漫画『岳』。いまさら言うまでもないが、これものすごく胸を打つ

記事を読む

イスラムとアラブを知るための入門書

今年に入ってから、「イスラム国」に関する書籍が相次いだ。世界の脅威となっているこの存在を謎や不明のま

記事を読む

論文捏造はなぜ繰り返されるのか?科学者の楽園と、背信の科学者たち

先週は、小保方晴子氏の論文「学位取り消しに当たらず」(NHK)との報道が新たな議論を引き起こしている

記事を読む

経済学を学ぶなら読んでおきたい『若い読者のための経済学史』|イェール大学出版局リトル・ヒストリー

以前にも紹介した、イェール大学出版局のリトル・ヒストリーシリーズ。これはさまざまな学術分野をその道の

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑