「われ敗れたり」:完敗だったが名勝負もあった第3回将棋・電王戦
今夜11時放送のTBS「情熱大陸」は、将棋・電王戦。
将棋のプロ棋士とコンピューター将棋ソフトが戦う『将棋電王戦』。2012年、米長邦雄永世棋聖VS世界コンピューター将棋選手権の優勝ソフト「ボンクラーズ」の『第1回』。2013年の5対5でプロ棋士とコンピューターソフトが戦った『第2回』。どちらも勝負はコンピューターに軍配が上がった。プロ棋士は“コンピューターに勝てないのか?”。そんな疑念を払拭すべく、今年3月15日からの『第3回将棋電王戦』に5人のプロ棋士が挑む。(中略)将棋界の最高峰、日本将棋連盟の面子は保たれるのか?人間VSコンピューター、世紀の知恵比べの舞台裏に迫る。
(マイナビニュース)最終局となった第5局は、12日21時45分、「将棋電王トーナメント」1位の将棋ソフト・ponanzaが屋敷九段に勝利し、ソフト側が4勝目をあげた。第4局の時点で負け越しが決まっていたプロ棋士側の通算成績は1勝4敗。昨年の「第2回将棋電王戦」の1勝3敗1分の成績を下回る結果となった。将棋は、ponanzaの駒得か、屋敷九段の駒の働きかという主張のぶつかり合いとなり、コンピュータは後手を、プロ棋士は先手を支持し意見が分かれる難解な戦いが続いた。最後はponanzaが先手玉を押しとどめ、寄せ切って勝利した。手数は130手で、消費時間は屋敷九段が5時間、ponanzaが4時間51分。

控室では、終盤ツツカナが森下九段のような指し回しを見せたことで、森下九段がお株を奪われる形で敗れたのではないか、と見る向きもあった。だが、それはおそらく違う。森下九段とツツカナの将棋は見事に噛み合っていた――、その結果として素晴らしい棋譜が生み出されたのではないだろうか。名勝負は決してひとりでは生み出せない。好敵手がいて初めて生まれるのだから。
ここで改めて思うのが、「『われ敗れたり』、コンピュータ将棋電王戦」でも書いた故米長邦雄の功績。
米長の実績は現役時代の強さだけでなく、将棋連盟会長として様々な制度改革(アマチュアからプロへの編入等)を実行したことでも知られる。ただのエロ爺さんではないのである。そんな彼の最晩年の功績が、第一回電王戦だったと思うのだ。勝って当たり前、負ければ批判の嵐。そんな世論を前に、普通の棋士なら手を挙げたくはないはずだ。しかしそこに挑み敗れたばかりか、相手の強さを認める手記を残している点こそが、将棋界に対する米長の最大の功績だと言えるのではないだろうか。
彼がいたからこそ、今のこの社会現象と言えるほどに話題となった現在の電王戦がある。
人気連載だった「名勝負今昔物語」等を収録した『将棋の天才たち』の中でも、米長は対戦相手となったコンピュータ・ボンクラーズ戦を、次のような書き出しで振り返る。「負けた。負けてしもうた。」そして、「負けたのは私が弱いからであって、6二玉に罪はない。再戦できるのなら躊躇なく同じ手を指すことだろう。」と、決して奇策などではない自信の一手を放っても勝てなかったのだと述懐する。
「好敵手」と認められるまでに成長したコンピュータだからこそ、人間のプロ棋士との対戦で名局と称されるような棋譜を残すまでになった。そういう現状を知ったら、きっとまた米長はニヤリと笑うんだろうなと思い、思わずこちらまでニヤリとしてしまったじゃないか。
最後に個人的なお願いを。「南魚沼の名門老舗旅館『龍言』と将棋タイトル王座戦」で紹介したように、南魚沼の「龍言」は数々の竜王戦・王座戦といった将棋タイトル戦の舞台となってきた名門老舗旅館である。次の電王戦はぜひここで観戦してみたいものだ。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
将棋マネーリーグ|藤井聡太竜王が2021年賞金ランキング3位に
今年もこれまで通り、昨年の将棋棋士の賞金獲得ランキングが発表されたぞ(ランキング表)。上位陣に大きな
-
-
新中学生・高校生から新社会人にまでおすすめする国語辞典4選|辞書それぞれの個性を理解して選ぼう
中学生・高校生から新社会人まで必須アイテムとしての国語辞典 春から新たに中学校・高校・大学に入学す
-
-
寝苦しい今夜も嫁を口説こうか|珠玉の芸人エッセイ3冊
以前にも何度かおすすめしてきたように、お笑い芸人が書くエッセイには、なかなかに読ませる面白いものが多
-
-
卒業・進級・入学のお祝いに|今も昔も定番の国語辞書をプレゼント
いよいよ春も近い。それはすなわち、卒業シーズンを迎え、そして進級・入学・入社といった新たな始まりを意
-
-
進化心理学と行動ゲーム理論入門|『最後通牒ゲームの謎』がおもしろい
第64回(2021年度)日経・経済図書文化賞を受賞した、小林佳世子著『最後通牒ゲームの謎』が面白い(
-
-
若き探検作家・角幡唯介の「極夜行」は最悪の旅だからこそ最高のノンフィクション
探検家・角幡唯介のノンフィクション作品を読んだことがある人も多いことだろう。NHKでも特集番組となり
-
-
留学前に読んでおきたいこの6冊
先日書いた「留学前に。」の続き。留学前にできることは色々とあるだろうが、留学に対するイメージをよりク
-
-
「ヘンな論文」を書き続ける動機と勇気
高学歴の芸人と言えば? という問いに、ロザンの宇治原と応えるのではあまりにもフツー過ぎる。もう少しツ
-
-
『ヤバい統計学』他で学ぶ数字のセンス|統計リテラシー入門におすすめの4冊
以前にも「『ヤバい統計学』とテーマパーク優先パスの価格付け」で紹介したように、カイザー・ファング著『
-
-
法律改正、脳死判定、臓器移植、そしてコーディネーター
先日、「6歳未満女児の脳死判定、臓器提供へ:国内2例目」というニュースがあった。そして「心臓と肺を男