*

都立浅草高校国語教師・神林先生が愛してやまない飲み屋と呑み助と大将と女将

公開日: : 最終更新日:2023/01/07 オススメ書籍

自宅や実家での新年気分も終わり、今週末あたりから町の飲み屋に繰り出すか、という人も多いかも知れない。ある程度の歳になると、自分だけの行きつけの店が欲しくなるものだ。しかし、果たしてそんな店をそもそも最初はどうやって知るのだろうか?

 

おそらくみんな薄々は感じているだろうけど、そんな素敵な店はグルメサイトで検索して出てくるものではないし、雑誌で取り上げられるものでもない。そう、結局のところは、自分の足で探し、自分の舌で味わい、自分の目で確かめるしかないのだ。しかし、そういう時間のかかる苦労と、いくつもの失敗があって初めてたどり着けるのが、自分にとって最も居心地のよい店というものではなかろうか。

 

ということを教えてくれる人生の大先輩が、この都立浅草高校の国語教師・神林先生なのである。2020年、突然亡くなってしまった。もう直接お話しすることはかなわないが、彼の思いがめいっぱい詰まっているのがこの『神林先生の浅草案内(未完)』なのである。

 

 

 

書名に「未完」と付けられているように、本書は、神林先生の飲み歩き、食べ歩きの更新されることのない途中経過の記録なのである。彼が職場の若い同僚たちに、浅草の奥深さと面白さを伝えたいと考え続けてきた活動のひとつの終着点がこの作品なのである。僕自身、こんなにも愛に溢れた飲み屋紹介なんて見たこともなかったと衝撃を受け、居ても立っても居られない衝動からすでにいくつものお店を訪ね、そこで美味しい酒と肴を味わいながら、お会いしたこともない神林先生に思いをはせ、そしてこの未完の記録は僕たち自身が引継ぎ更新していくべきものであり、それが彼からの最大の贈り物なのだと考えてみたりするのだ。

 

それくらい強く印象に残る一冊であり、ぜひとも次の浅草を訪れる機会があるならば、浅草寺にお参りしたその後で、ぜひ近くの素敵な飲み屋で一杯、楽しんできてください。

都立浅草高等学校、国語教師が愛した店と人――。

教員生活43年。食べ歩き、飲み歩き歴46年。生徒からの呼び名は「かんちゃん」。神林桂一さんは、一元的な情報に頼らず、自転車でランチに繰り出しては新店開業の気配に敏感に反応し、酒場の店主や客との会話から生きたネタを仕入れ、実際に訪ねて、食べて、飲むことで、情報を蓄積していきました。

職場の若い先生や同僚たちに、浅草の深き食文化を知ってもらうべく、愛機のワープロ「文豪」のキーボードを叩き、わら半紙に刷り出した『ミニコミ』を発行。「ランキング」と謳ってはいるものの、載っているのは偏愛店ばかり。どの店も違って、どの店もいい。

この本は、37号にわたって発行した『ミニコミ』より「浅草ランチ・ベスト100」「ひとり飲みの店ランキング」を元に、神林先生が足繁く通った店を紹介しています。

これからますます意欲的に飲んで、食べて、さらには情報発信を、と意気込んでいた矢先、神林先生は突然、この世を去りました。『神林先生の浅草案内(未完)』は、更新されることのない途中経過の記録であり、店へのラブレターであり、浅草の食文化が垣間見られる教科書の一遍であり、観光客の知らない浅草を知る案内でもあります。神林先生の愛した浅草に足を運んでもらえたら幸いです。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

あの伝説の一戦「3連勝4連敗」から9年|羽生善治・永世七冠誕生

2017年12月5日、長い将棋の歴史に新たな偉業が刻まれた。羽生善治が竜王位を奪還し永世竜王となり、

記事を読む

国語辞典ベストセラーランキングに見る人気辞書|中学生以上は新明解、小学生はドラえもんかチャレンジか

国語辞典というのは大変におもしろい。実に個性豊かであるにも関わらず、その特徴は必ずしもきちんと伝わっ

記事を読む

ソーシャルディスタンスのいま最も濃密な人間関係|プロ将棋棋士の師弟愛と絆

この年末年始なにが盛り上がっているかと言えば、もちろん紅白歌合戦に箱根駅伝、ではないですよね。今年は

記事を読む

将棋の子|奨励会年齢制限と脱サラ棋士のプロ編入という奇跡の実話

映画『泣き虫しょったんの奇跡』が公開されている。まだ観ていないのだが、もちろんこの実話はとてつもなく

記事を読む

『ゼロ・トゥ・ワン』のティールと米国社会の変容『綻びゆくアメリカ』

米国の著名投資家ピーター・ティールが著した『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』が、「今

記事を読む

華麗な王者モハメド・アリと、そのアリになれなかった男|沢木耕太郎の名著『敗れざる者たち』と『一瞬の夏』を再読する

2016年6月4日、プロボクシングの元世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリが74歳の人生に幕を閉

記事を読む

[若きテクノロジストのアメリカ]宇宙を目指して海を渡る~MITで得た学び、NASA転職を決めた理由

『宇宙を目指して海を渡る~MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を読み終えた。少年の頃に天体に

記事を読む

進化心理学と行動ゲーム理論入門|『最後通牒ゲームの謎』がおもしろい

第64回(2021年度)日経・経済図書文化賞を受賞した、小林佳世子著『最後通牒ゲームの謎』が面白い(

記事を読む

スノーピーク初のグランピング施設が三浦半島にオープン

いよいよ夏が近づき、今年はまたキャンプにでも行こうかという話があちこちで聞こえそうなこの時期を狙って

記事を読む

ニューノーマルなバレンタイン|恋と愛とチョコレートの経済学

バレンタインな週末がやってきましたね。諸兄の皆様方に置かれましては、ニューノーマルな暮らしの中におい

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑