*

文庫で学ぶ行動経済学

公開日: : 最終更新日:2015/04/15 オススメ書籍, 経済学・統計学

昨年は間違いなく統計学がブームとなった一年だった。「今年続けて読みたい統計学オススメ関連書と教科書15冊」で書いたように、そのブームは今年も継続するんじゃないかと、個人的には思っていたんだが、むしろ2014年は(再び)行動経済学の年となるのかも知れない。というくらい、関連書の出版ラッシュが続いている。

 

より正確には、以前単行本で刊行されていたものが、新たに文庫化されるというパターンが多いのだけれども。いずれにしろ、行動経済学に関してこれまで紹介してきた面白い書籍の数々が、このたび文庫で手軽に読めるようになったということで、まとめて再度紹介しておこう。

 

ダニエル・カーネマンの必読書

プリンストン大学の心理学者にして2002年のノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン。その受賞理由が(ノーベル財団ウェブサイト)”for having integrated insights from psychological research into economic science, especially concerning human judgment and decision-making under uncertainty” であるように、彼とその盟友エイモス・トベルスキー(1996年没)が切り拓いたのが、まさにこの行動経済学の分野だ。だから、そのカーネマンの研究集大成である本書『ファスト&スロー』こそが、最高の入門書にして最高峰の一冊と言える。

 

原書から和書単行本への翻訳も早かったが、その文庫化はさらに予想を超えて早かった。分量はあるが入門者にも分かり易い語り口が素晴らしい。ある種の流行りの分野なだけに関連書が多々出版されているが、まずはこれが読む必要がある一冊であろう。そして多くの場合は、これで十分ということにもなる内容だ。

 

 

ダン・アリエリーの三部作

最新の行動経済学の研究成果を知るには、ダン・アリエリーの各種実験が面白い。とくに金銭報酬とモチベーションの関係や、人間がどういう状況下で虚偽の申告をするのかといった研究は、誰しもが興味を持つテーマだろう。だからこそ、彼のトークはTEDでも大人気。

 

 

政策に応用する二冊

これらの二冊は(とくに実践編)、公共政策の立案に行動経済学をどう活用できるかというアプローチが面白い。具体的な事例としては、税金の支払いが滞っている人に送る督促状。そのレターにちょっとした工夫をすることで、支払う人が一気に3倍に増えたという。細かいテクニックも多いが、確かになるほどと言わせる説得力のあるストーリーが多い。

 

 

マーケティングに使える一冊

『その数学が戦略を決める』の著者イアン・エアーズも行動経済学の研究を行っている。そればかりか、研究知見をもとにして企業を設立し、提供するダイエット・プログラムについて語ったのが本書だ。本書が肥満大国のアメリカをヤル気にさせたかどうかは不明だが、ダイエットという実に現代的なテーマに行動経済学という視点で切り込んだ、とても興味深い取り組み。キーワードはコミットメント。それ以外にも、コーヒーチェーンのスタンプカードや、チャリティ募金の集め方といったトピックも面白く読める。

 

 

日本語で読めるその他オススメ文庫

その他にも、日本語で書かれた以下の書籍で行動経済学が取り上げられている。『亜玖夢博士の経済入門』は投資家および作家として知られる橘玲の著作だが、彼らしいブラックな事例と話題が豊富なユニークな一冊。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

ゲーム理論と経済行動:武藤先生と鈴木先生

フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの大著 "Theory of Games and Economi

記事を読む

チェス界のモーツァルト、天才ボビー・フィッシャーの生涯が待望の文庫化

伝説的なチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を記録した傑作ノンフィクション『完全なるチェス』

記事を読む

捏造と背信の科学者:繰り返される不正と、研究者の責任ある行動

STAP細胞の件で改めて考えさせられたのは、なぜこの一件だけではなく、研究不正・論文捏造がこれほどま

記事を読む

人の想いこそが永遠に不滅|キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』

漫画発行部数は一億冊を優に超え、まさに国民的ドラマとなった『鬼滅の刃』。その原作自体は23巻をもって

記事を読む

Kindle電子書籍で安く読める、経済学および統計学の教科書

電子書籍の普及がますます加速しているが、大学や大学院で使う教科書はまだまだ電子化が遅れている。しかし

記事を読む

2016年のベストセラー書籍トップ10冊

2016年も残すところあとわずか。それでは今年も本ブログを通じてのベストセラー書籍を上位10点紹介し

記事を読む

大人になったら国語辞典|ことし成人式を迎える人への最高の贈り物

コロナ感染の再拡大による、全国で成人式の中止や延期が発表されるなど、大変厳しい新年を迎えている。本来

記事を読む

これは経費で落ちません|経理部が見つめる人間模様

NHKで現在放送中のドラマ「これは経費で落ちません!」が面白い。多部未華子が演じるアラサー独身女子・

記事を読む

組織を動かす実行力|結果を出す仕組みの作り方

新刊『実行力』を興味深く読んだ。本書は、ご存知橋下徹が、これまで大阪府知事として、そして大阪市長とし

記事を読む

艶やかに美しく|魅惑の文房具ガラスペンの世界

ガラスペンってご存知ですか? 僕自身つい最近まで知らなかったし、ましてや使ったことはおろか、触ったこ

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑