ゲーム理論と経済行動:武藤先生と鈴木先生
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最終更新日:2014/10/19
経済学・統計学
フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの大著 “Theory of Games and Economic Behavior” の刊行60周年記念版の日本語訳が出版された。翻訳は、日経文庫『ゲーム理論入門』等でもお馴染みの東工大の武藤滋夫教授だ。訳者あとがきでは、武藤先生が本書と出会った思い出が綴られており、とても印象深い。
曰く、東工大の学部4年生だった武藤先生が鈴木光男研究室に入り、そこで鈴木先生に出された課題が、本書 “Theory of Games and Economic Behavior” を読み、最初から最後まで全訳するということだった。それは気の遠くなるような作業だったものの、コツコツと翻訳を続け、最終的には1年以上をかけ、修士課程1年のときに完訳した。
さらに、その後武藤先生は鈴木光男先生の推薦状をもってコーネル大学へと留学するのだが、留学後の指導教官に言われたのが「あの本を全訳したという実績が受け入れの決め手となった」ということ。とても印象深いエピソードではないか。
photo credit: Todd Huffman via photopin cc
それともう一つ僕の個人的な記憶なのだが、武藤先生が東工大の学部4年生だったある学生に、本書を読みすべて翻訳するよう課題を出していたのを思い出す。それも今思い返せば、武藤先生が鈴木先生に受けた指導を、同じように自分の学生に指導していたということなのだろう。そういうところに、時を超えて師弟関係が続いていくのを見るようでもある。
武藤先生の『ゲーム理論入門』は、ゲーム理論の入門テキストとしては今もベストの一冊と思う。また、ゲーム理論の歴史については鈴木光男先生が数多くの書籍を出しているが、最新の『ゲーム理論のあゆみ』も大変に読みやすい内容となっている。
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