日本人の氏名はなぜこんなにも多種多様にして複雑怪奇なのか?
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日本人はなぜにこんなにも自分の名前や家族のルーツに興味津々なのだろうか? NHKの番組だけ取り上げてみても、「ファミリーヒストリー」では著名人の生まれ故郷を訪ね、郷土資料館で調べ、その先祖がどこから来たのかを明らかにする。本人が初めて知るエピソードも多く、改めて家族史を振り返るまたとない機会となるだろう。あの番組を見ながら、自分のうちもこんな風に調べたら面白いだろうなぁ、という人は沢山いるはずだ。
また、番組名がそのものずばりの「日本人のおなまえ」も大変に興味ぶかい。とくに珍しい名字を取り上げ、日本のどの地域に多いのか、それはなぜなのかを、歴史と地理を紐解きながら解説していく、大変にユニークでそして興味深い番組に仕上がっている。そして、珍しい日本人の名前と言えば、なんといっても最近では漫画『鬼滅の刃』だろう。そこに出てくるのは、竈門(かまど)、我妻(あがつま)、栗花落(つゆり)、甘露寺(かんろじ)、産屋敷(うぶやしき)、不死川(しなずがわ)、伊黒(いぐろ)などなど、大正時代の日本を髣髴させるようなちょっと古めかしくそして珍しいものばかりだ。しかし、しかし、である、これらの名前すべて実在する(るるぶKIDSコラム)って知っていましたか??
このように、自分と同じ名字の人がどれくらい日本にいるのか、「名字由来net」を利用して調べたことがある人も多いことだろう。ちなみに同サイトを利用して解説したコラム「周りにいた『珍しい名字』ランキング! 3位『勅使河原』、2位『東海林』、1位は? 全部読める…?」で、輝く第1位に輝く名字の人は、日本全国に約5,400人おり、順位は2,598位とのことだ。ちなみにちなみにの蛇足だが、僕個人の名字もあまり多くはないものであり、この1位の名字と同じくらいの順位で、全国に約6,000人程度ということらしい。だから、普段の生活のなかでも、僕の名字を初めて見たっていう人もいるし、どうやって読むんですかと聞かれることもある。一方で、その名字のルーツから、九州ご出身ですかなんて聞かれると、おぉこの人は名字の地域性について結構ご存知の方なんだな、って思ったりもするわけだ。
と、前置きが長くなったのだが、そんなふうに、僕らは自分の名字だけでなく、他人の名字に対しても並々ならぬ関心を持っており、その意識がテレビ番組や漫画などにも色濃く反映されているように思う。さて、それではなぜ日本においてこんなにも多様な名字が生まれることになったのか、その理由を明快に説明してくれるものはいない。いや、先日までいなかった、というべきだろう。なにしろ、ついに登場したのである、その名も『氏名の誕生』という一冊が。著者は1983年生まれの日本近世史の研究者であり、渾身の一冊にして、新書で誰にでも分かりやすく、という難題を見事に乗り切って上梓したのが、この『氏名の誕生』なのである。いやあ、知らなかったよ、われわれの名前がこうやって創り出されてきたなんて!
というような、上質な歴史ミステリーを読んだ気分にさせてくれる素晴らしい一冊。お盆を前にして、今年も帰省を自粛したり、オンライン墓参りといった新たな挑戦をしている人も多いことだろう。だがしかし、その前にわれわれがまずなすべきなのは、自分たちのご先祖のルーツをきっちりと理解すること、そしてとくに僕らの名字がどのように生まれ、そして現代にまで受け継がれてきたのかを伝えること、かも知れない。そんな夏休みの宿題にぴったりの一冊でもある『氏名の誕生』、ぜひともご一読ください。
明治新政府の改革が、人々を大混乱に巻き込んでいく──日本人の名前はこうして創られた
私たちが使う「氏名」の形は昔からの伝統だと思われがちだが、約150年前、明治新政府によって創出されたものだ。その背景には幕府と朝廷との人名をめぐる認識の齟齬があった。江戸時代、人名には身分を表示する役割があったが、王政復古を機に予期せぬ形で大混乱の末に破綻。さらに新政府による場当たり的対応の果てに「氏名」が生まれ、それは国民管理のための道具へと変貌していく。気鋭の歴史研究者が、「氏名」誕生の歴史から、近世・近代移行期の実像を活写する。
「明治の「御一新」に画期があるのは、恐らく一般的な〝想像〞の通りだが、本書で実証される「氏名」成立の実情は、その〝想像〞とは相当に違っている。キーワードは「王政復古」。一見、なんの関係もなさそうな「王政復古」が、明治初年、人名をめぐる悲喜交々をも巻き起こしていく。」(本文より)
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