なぜ日本の新幹線は世界最高なのか?定刻発車と参勤交代
“Why Japan’s high-speed trains are so good” というEconomistの記事。How did Japan come to be the world leader in high-speed trains? というクエスチョンに対し、明治維新にまで遡って日本の鉄道史を手短かにまとめている。
しかし、日本の鉄道を語るならば、ここはぜひとも新幹線だけでなくその他すべての鉄道にも共通する、日本が誇るあの超過密ダイヤが生まれた背景についても語って欲しかったと思う。”The Economist explains” と題するならばね。
photo credit: twicepix via photopin cc
以前にも紹介したが、「日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?」という問いに、非常にユニークな答えを提示したのが、三戸祐子の『定刻発車』だった。著者は実に鋭い視点で、現代における日本の鉄道の異常なまでに執着した正確さの源流を、なんと江戸時代の参勤交代に見て取るのである。
本書を読み終え、僕自身がその時に以下のように書いたように、いま読み返しても面白い一冊だと思うし、何度も言っているがぜひこれは翻訳出版して海外に紹介したらいいんじゃないだろうか。と思えるくらいの名作なのである。
戦がなくなった平和な時代、武功ではなく管理すなわち「マネジメント」が下級武士を出世へと導いた。その中でも参勤交代は、時間および予算規模の大きさ、そして我が藩の権威と格を見せつける対外的アピールという面からも、絶対に失敗の許されない「プロジェクト」であったのだ。北の津軽から南の薩摩まで、全国津々浦々の「プロジェクトマネジャー」たちの手配(行進・休憩・食事・宿泊・トラブル対応等々)に、現代日本に張り巡らされた鉄道網とその安全確実な運行の源流を見るのは、極めてユニークで秀逸な視点だと思う。
また本書の中でも詳しく語られるが、列車ダイヤを作成する職人ワザなんかも、もはや日本の伝統技能と言ってもいいほどのスキルだ。現在では自動的にダイヤを作成するソフトウェアが普及してきているが、細かい詰めの作業においては、まだまだ職人技が現役で活躍しているというのも、興味深いエピソードである。日本の鉄道は実におもしろい。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語
もうすぐ14年ぶりの宇宙飛行士が決まるって知ってましたか? いや、知っているどころか応募しましたよね
-
-
【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名
先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」でも紹介していたように、 宇宙
-
-
稀代の絵師・伊藤若冲の作品群が日本に里帰り
ここ数年、日本美術がもの凄いブームと言ってよいほどの盛り上がりを見せているのはご存知の通りだ。そして
-
-
盗作と贋作のフェルメール|美術作品にまつわる犯罪史
先日NHK-BS で放送された「アナザーストーリーズ 運命の分岐点『フェルメール盗難事件 史上最大の
-
-
アメリカ連邦最高裁判事9人<ザ・ナイン>が歴史をつくる「この国のかたち」
米連邦最高裁判事ギンズバーグの死去とその後任選びで、目前に控える米国大統領選挙がさらに混沌としてきた
-
-
NHK戦争特番:日本とアメリカとその狭間で
毎年夏が来る度にテレビ各局、新聞各誌が特集する太平洋戦争と終戦。その中でも個人的に強烈に印象に残って
-
-
香川県はうどん県だけれども、それだけじゃないって言ったよね
というわけで、僕は昨年の夏、讃岐うどん巡礼の旅に出たわけだ。 うどん県。それだけでもすごい香
-
-
この国語辞典がおもしろい|比べて愉しい辞書のディープな読み方・遊び方
これはこれは大変に興味深い本が出版されていましたね。その名も『比べて愉しい 国語辞書ディープな読み方
-
-
将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた
最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、毎度新聞やニュース等でも大々的
-
-
「ヘンな論文」を書き続ける動機と勇気
高学歴の芸人と言えば? という問いに、ロザンの宇治原と応えるのではあまりにもフツー過ぎる。もう少しツ
Amazon Campaign
- PREV
- 機械 vs 人間:チェス、予測、ヒューリスティック
- NEXT
- 日本経済学会@同志社大学に行ってきた