若き昆虫学者のアフリカ|いまこそ昆虫が面白い
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もうご存知と思うが、いま昆虫が熱い。ちょっと前から大ブームだ、とまでは言えなくとも、プチブームなのは間違いない。例えば、NHKの番組「昆虫すごいぜ!」をご覧になっていますか?ナビゲーターを務める香川照之がまたあの顔で、暑苦しいほどの昆虫愛を語る、なかなかスゴイ番組なのだ。先日の特別編「出動!タガメ捜査一課」も、彼が出演した先日の某刑事ドラマ以上に見ごたえるある内容だった。
「僕はEテレで昆虫番組をやりたい!」…民放番組で熱い思いを訴えた男がいる。俳優・香川照之。実際に会って取材をすると、子どものころから昆虫にどっぷりはまった“超”がつくほどの昆虫マニアだった───。
「自分は単に昆虫の変な生態が好きなんじゃないんです!本能のままにまっすぐに生きる昆虫の姿が最高にいいんです!」香川の熱い語りは止まらない。「ケータイまみれで時に自分を偽って生きねばならない子どもたちや、軟弱になったとか草食系とか言われる男子たちにそんな昆虫の姿を見せたい。人間は昆虫から学ぶことがたくさんあるんです!」…
Eテレはそんな香川に、着ぐるみで昆虫のすごさと面白さを伝える番組を依頼。そして、香川の昆虫愛のかたまりとも言える異色の教育番組がここに生まれた。それが、「香川照之の昆虫すごいぜ!」。香川照之がカマキリ先生となり、子カマキリたちに熱い授業を始める。

そんな昆虫ブームの現在の牽引役とも言える本がある。それが先日も紹介したこの前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』だ。バッタ研究にこれまでの全人生を賭けてきた若き研究者の熱いノンフィクションだ。自分がやりたい研究に全力でぶつかるために、国内での安定した(でも刺激が足りない)職に安住するのではなく、著者は夢の大地アフリカへと旅立った。そこで直面する様々な難題を乗り越えながら、誇り高きミドルネーム「ウルド」を授かり、そしてついに幼き頃に憧れたバッタの大群に遭遇する。最後はぶじに就職先も得て、これはもう自然科学・社会科学とわず、研究者のタマゴ全員必読の一冊といえよう。しかしそれにしても、香川照之といい本書著者といい、昆虫学者・マニアはそのあり余るパッションがじつに素晴らしい。
バッタ被害を食い止めるため、バッタ博士は単身、モーリタニアへと旅立った。それが、修羅への道とも知らずに……。『孤独なバッタが群れるとき』の著者が贈る、カラー写真満載の科学冒険(就職)ノンフィクション!
【本文より】
バッタの群れは海岸沿いを飛翔し続けていた。夕方、日の光に赤みが増した頃、風向きが変わり、大群が進路を変え、低空飛行で真正面から我々に向かって飛んできた。大群の渦の中に車もろとも巻き込まれる。翅音は悲鳴のように重苦しく大気を振るわせ、耳元を不気味な轟音がかすめていく。このときを待っていた。群れの暴走を食い止めるため、今こそ秘密兵器を繰り出すときだ。さっそうと作業着を脱ぎ捨て、緑色の全身タイツに着替え、大群の前に躍り出る。「さぁ、むさぼり喰うがよい」
そして思いがけずバッタに魅せられた僕が続けて読んでしまったのが、ベストセラー『ゾウの時間 ネズミの時間』の著者、生物学者・本川達雄による新著『ウニはすごい バッタもすごい』だ。昆虫やその他の生物を取り上げ、なぜこのような体になっているのかを解説する「デザインの生物学」は、単に面白いというだけでなく、進化の意味を解いた優れた一冊だ。前野ウルド浩太郎の『バッタを倒しにアフリカへ』と合わせて読むと、バッタのすごさが倍増して理解できるぞ。
暖かくなるとヤツらがやってくる。ゴキブリだ。すばしっこくてタフなヤツ。雑誌でひっぱたいたぐらいでは死なない。人類よりはるか前から地球にいて、人類滅亡後もヤツらは栄えているだろう。
本川達雄の『ウニはすごいバッタもすごい』は、昆虫や貝類、ナマコやホヤたちの体がいかにすぐれているかを教えてくれる。「すごい」にいささかの誇張もなく、「びっくり! 」の連続である。
本書は無脊椎動物(背骨をもたない動物)のうち、棘皮動物門や節足動物門など五つの門の動物を取り上げる。棘皮動物門というのはヒトデやナマコなど。節足動物門は昆虫のほかエビ・カニなど甲殻類も含まれる。
昆虫の体表を覆う外骨格は、クチクラというものでできている。これがすごい。体をすっぽり包んで、内部を乾燥から守る。これによって陸を制覇。クチクラは軽くて丈夫なので、細くて強い脚や、薄くて広い羽にもなる。速く走り、高くジャンプし、空も飛び回る。陸に続いて空も制覇。
脚や羽を動かすメカニズムも秀逸だ。たんに筋肉で動かすのではなく、硬い体表をいかして梃子の原理を使うのである。少ないエネルギーで大きな力を発揮する。ぼくらがゴキブリにかなわないのも納得できる。
副題は「デザインの生物学」。動物たちの体が進化の過程でどうデザインされたかを解き明かす。置かれた環境のなかで、いかに効率よく食べ物を摂取し、いかにうまく身を守るかを優先した結果、あの素晴らしいボディを獲得したのだ。こんどゴキブリを見つけたら、「ナイス・ボディ! 」と声をかけてやろう。
評者:永江朗
さて、そんな注目の一冊『バッタを倒しにアフリカへ』を出版する光文社新書だが、これも以前に紹介したように、じつはこの出版社、以前から昆虫モノに強いのである。写真も豊富なこれら一連の昆虫シリーズをぜひこの夏休みにどうぞ。子供はもちろんのこと、大人になったいまも僕たちが胸を躍らせるのが、このとんでもなくカッコよく、そしてスゴイ昆虫たちなのだから。
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