野村克也の頭脳とデータ|戦後初の三冠王そして名監督としての実績と名声
日本のプロ野球界に燦然と輝く実績と名声。戦後初の三冠王の栄誉を手にした名キャッチャーにして、監督としてもチームを3度も日本一に導いた名監督、その野村克也が亡くなった。まだこの先も、その言葉に耳を傾けたいと思っていた人は、現役選手の中にも多いことだろう。ファンとしても、大変残念である。
ただそれでも、プロ野球界全体が幸運だと思わなければならないのは、彼が数多くの弟子を育ててきたことだろう。その代表が、球界一の頭脳派キャッチャーとして活躍した古田敦也であり、現在もヤンキースで力投を続ける田中将大であろう。野村監督のチーム運営がしばしば「ID野球」と呼ばれたように、監督の采配にいちはやくデータを活用した功績は大きい。しかしそのデータ導入や「考える野球」も、野村克也自身が初めから志向していたものでは全くないのである。
むしろデータなどとは縁遠かった現役時代、当時メジャーリーグから移籍してきた同僚から様々な話を聞いたことがそのきっかけだ。メジャーリーグではデータ活用が当たり前であること、そんな経験者から見ると日本の野球はまったく「頭をつかっていない」という指摘。それらが強烈な印象となり、貪欲に知識を吸収し、そして磨き上げたのが野村独自のデータ野球なのである。
選手一人一人を細かく観察し、何が得意でどこが苦手なのかを把握する。個人個人の成績だけでなく、チームとして相手に勝つために何をすべきかを徹底的に考える。そんな野村の考えが、数多くの愛弟子たちを育て、そして次の世代がさらに新たな若手育成に取り組むという好循環が生まれた。野村克也の考え方はそれくらい人々を惹きつけるものなのだ。彼の訃報に際し、以前にとても興味深く読んだ本書『野村ノート』を思い出した。その言葉がより多くの人の印象に残り、日本プロ野球をさらに進化させていくこと、それがきっと野村克也自身が天国から願っていることだろう。
創立5年目にして、楽天球団をクライマックスシリーズへと導き、その指導力をあらためて証明してみせた野村克也。選手・監督として50年にわたる球界生活で得た原理原則を綴った伝説のメモ。そこにあったのは、「配球の原点」「スコアラーからのデータ利用法」「役目を確認させる打撃指導」「弱者の戦法」といった知将ならではの野球理論、そして「人づくりのポイント」「指揮官・リーダーの心構え」「機能する組織のあり方」など、上司としての管理術の数々だった。34万部の大ベストセラーとなった“球界のバイブル”、待望の文庫化。リーダーで人と組織はこれほど変わる―。
Amazon Campaign
関連記事
-
-
2014年、本ブログでのベストセラー:Kindle版および書籍版
今年もいよいよ終わり。ということで、この一年間の本ブログ上でのベストセラーを発表しよう。Kindle
-
-
2020年、本ブログで人気だった英語論文ライティングの参考書ベスト5冊
先日のエントリ「いま国語辞典がおもしろい|10年ぶりの大幅改訂による最新版あいつぐ」で紹介したように
-
-
留学前に読んでおきたいこの6冊
先日書いた「留学前に。」の続き。留学前にできることは色々とあるだろうが、留学に対するイメージをよりク
-
-
町山智浩最新作『言霊USA2016』は、シリーズ最高の現代アメリカ社会批評だ
以前に、「町山智浩『知ってても偉くないUSA語録』は秀逸な現代アメリカ社会批評」と絶賛したように、町
-
-
大人になったら国語辞典|ことし成人式を迎える人への最高の贈り物
コロナ感染の再拡大による、全国で成人式の中止や延期が発表されるなど、大変厳しい新年を迎えている。本来
-
-
この国語辞典がおもしろい|比べて愉しい辞書のディープな読み方・遊び方
これはこれは大変に興味深い本が出版されていましたね。その名も『比べて愉しい 国語辞書ディープな読み方
-
-
NHKアニメ『英国一家、日本を食べる』が毎回ハイクオリティで、つい新宿・思い出横丁に飲みに行ってしまった
「大ヒット『英国一家、日本を食べる』がなんとNHKでアニメ化|初回放送が予想以上におもしろかった」で
-
-
国語辞典を選ぶならこの4冊がおすすめ:現代語に強い三省堂・豊かな語釈の新明解・安定と安心の岩波・誤用を正す明鏡
目的と用途に合わせてベストの国語辞典を見つけよう 卒業・入学シーズンを前に、そのお祝いとして国語辞
-
-
捏造と背信の科学者:繰り返される不正と、研究者の責任ある行動
STAP細胞の件で改めて考えさせられたのは、なぜこの一件だけではなく、研究不正・論文捏造がこれほどま
-
-
「伊藤若冲と京の美術」展を観に行ってきた:奇想の画家が発見された背景
相変わらずの伊藤若冲の人気ぶりと言えよう。先日は新潟県立万代島美術館まで「伊藤若冲と京の美術」展を観
