*

南魚沼の名門老舗旅館「龍言」と将棋タイトル王座戦

公開日: : 最終更新日:2014/02/24 南魚沼・新潟

軟派な諸兄には「南魚沼といえば美女旅」だが、硬派な諸氏には「南魚沼といえば将棋と龍言」と覚えて頂きたい。ひとつよろしく。というわけで、外は今日も雪ですが、いま南魚沼が静かにアツい、という将棋にまつわるエピソードを紹介したい。

 

これまで何度か書いてきたように、僕は棋士・羽生善治の著書を新刊が出るたびに読んできた。毎回読ませる内容なのはもちろんなのだが、読み続けてきて今感じるのは、年齢を重ねた羽生の勝負に対する構え方に円熟味が一層色濃く出てきたということ。

 

以前であれば凄味とか気迫といったものが前面に出ていたところ、いまはむしろ達観というか余裕というか、勝負に対して一歩引いて見ている、そんな姿勢を感じるのである。それは絶対に負けられない戦いで負けた苦い経験を持つ、サッカー岡田監督と相通づるものでもある。

 

japanese chessphoto credit: BlueAndWhiteArmy via photopin cc

 

それが最も顕著に現れているのは、羽生が著書の中で「負けること」について語るくだりだろう。どんなに将棋が上手くなり強くなり経験を重ねても、まだ負ける。どんなに振り返り勉強し改善を重ねても、まだまだ負ける。しかも、2008年の竜王戦では、渡辺竜王に3連勝した後の4連敗という、羽生の将棋人生はもちろんのこと、将棋の歴史においても滅多に見ることができない大大大逆転で敗北を喫した。

 

「この『三連敗四連勝』で私の棋士としての人生観にも変化が訪れたのであった。」と、羽生は著書『大局観』の中で赤裸々に語る。負けることについて思考を深めた結果、彼が辿り着いた結論は、「若い頃の勢いを取り戻そうと考えるより、現在、四十歳の自分ができることをやる方が、健全だと考えるようになった。」ということ。だからこそ、「今は経験を積んだ『大局観』でさまざまな角度からアプローチできるようにと思う。」という境地に至ったのだろう。

 

 

より新しい著書『捨てる力』の中では、負けることに対する姿勢をさらに一歩進めているようにも感じる。無数の棋譜を勉強し、次々に生み出される定石を覚え、その対抗策を練る、そういうストイックなまでの思考力と記憶力においては、成長著しい若手棋士には敵わない。それでは棋士としての老いとも戦っていかねばならない羽生は、こうした若手にどう立ち向かえばよいのか。

 

それが、羽生が『捨てる力』の中で述べる「忘れることは、次に進むための大事な境地」。負けられない一戦で負け、悔しくて夜も眠れなかったのは今や昔。一方でそれは、忘れたいことだけを忘れるというのとは一線を画する。羽生にとっての栄光の記録や起死回生の一手、そうした経験や知識さえも積極的に忘れていこう、そうでなければ次の時代に対応していけないという危機感が、いまの羽生を突き動かしている。「続けることこそが才能」と言い続ける彼にとって、忘れること・捨てることは、続けていくために絶対に必要なことなのである。

 

そんな羽生が昨年10月に王座戦第四局を戦ったのが、実はここ南魚沼にある名門老舗旅館の「龍言」なのである。毎年のように、将棋タイトル戦の対局場となっており、一昨年は渡辺竜王対丸山九段の竜王戦が開催されている。以下の写真をご覧いただければ分かる通り、まさに将棋タイトル戦の会場に相応しい風格漂う豪農の宿なのだ。

 

普段は宿泊客しか中に入れないが、年に何回か開催されるイベントでは入場可能。その他、将棋タイトル戦開催時には、プロ棋士を呼んだ昼食付きの解説が行われる。今年はその会に参加し、ぜひともライブでタイトルマッチを見守りたいと、僕は今から楽しみにしているのである。

 

2013-10-06 10.59.31_tn

2013-10-06 10.59.53_tn

2013-10-06 11.00.27_tn

2013-10-06 11.01.21_tn

2013-10-06 11.03.04_tn

2013-10-06 11.05.38_tn

2013-10-06 11.06.23_tn
 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

南魚沼の春:桜と山菜ところどころ雪

「南魚沼は今が桜満開」で書いたように、南魚沼の地で桜が開花したのが4月の中旬のこと。東京に比べてずい

記事を読む

新潟県南魚沼市の銘酒「鶴齢」がJALビジネスクラスの機内食日本酒リストに登場

JALが3月1日から、国際線の機内食にて春の新メニューを提供開始したというニュース。今回のメニュー刷

記事を読む

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年10月に起こった中越地震に関して

記事を読む

南魚沼発のコンセプト観光案内「美女旅」が、岩手県遠野・花巻に飛び火

「君は南魚沼の美女を見たか?市の公式観光パンフレット美女旅が話題に」で紹介したから、もうご存知ですよ

記事を読む

新潟県内地域図

越前・越中・越後と、上越・中越・下越

新潟県の面積はなかなかに大きいのだが、さて、日本の都道府県の面積を大きい順に5番目くらいまで正確に言

記事を読む

アートで生まれ変わった清津峡渓谷トンネル|越後妻有アート・トリエンナーレ「大地の芸術祭」の舞台へ

9月の連休を皮切りに、これから秋の行楽シーズンがはじまる。もちろん今年はコロナ禍でこれまでと同じよう

記事を読む

sakeno jin 2014

新潟の冬、日本酒の冬、「酒の陣」へいざ出陣

ご存知のように新潟は全国指折りの酒処。県全体で90を超える蔵が今も酒を造り続けており、この数は都道府

記事を読む

bijotabi winter hakkaisan

君は南魚沼の美女を見たか?市の公式観光パンフレット美女旅が話題に

「国際大学(IUJ)の紹介:ロケーション」で書いたように、本学がキャンパスを構えるのが新潟県南魚沼市

記事を読む

minami uonuma library 3

リニューアルオープンしたばかりの南魚沼市図書館に行ってきた

今月リニューアルオープンした南魚沼市図書館に、早速行ってきたぞ。六日町駅前に立地しているこの図書館。

記事を読む

愉しく美味しく走ろう!南魚沼グルメマラソンを応援してきた

本日のKindleセール商品は、『ウルトラマラソンマン 46時間ノンストップで320kmを走り抜いた

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑