*

史上最年少プロ棋士・藤井聡太の初勝利と『将棋の子』たち

公開日: : 最終更新日:2016/12/27 オススメ書籍, ニュース

史上最年少のプロ棋士が誕生したと話題となったのが2016年9月のこと。それから3か月が経ち、今度は若干14歳2カ月にして史上最年少での初勝利を記録した。長い将棋の歴史の中にあり、大変な快挙である。

毎日新聞)14歳2カ月で将棋界の史上最年少棋士となった藤井聡太(そうた)四段(14)は24日、東京都渋谷区の将棋会館で指された加藤一二三(ひふみ)九段(76)との第30期竜王戦6組ランキング戦で公式戦初対局を迎え、110手で初勝利を飾った。14歳5カ月での初勝利は将棋界最年少記録となった。藤井四段に破られるまで史上最年少棋士と最年少初勝利の記録を持ち、現役では最年長の加藤九段との対局は年齢差が62歳6カ月で、史上最大年齢差。記録ずくめの対局となった。(中略)加藤九段は「中盤、藤井四段が受けに回った手が私には指せない手で、大局観が素晴らしい。寄せも速かった。うまく負かされました。素晴らしい才能の持ち主だと思う」とたたえた。

 

shougi_old_board

 

 

まずもってプロ棋士となるのがいかに困難なことなのかは、「奨励会三段リーグ|天才少年棋士からプロへの最後の関門」で紹介したように、この奨励会と呼ばれる育成機関に入門し、そこで数多の天才将棋少年たちと戦い、そして勝ち抜けなくてはならないのである。もちろん勝者がいれば敗者もいるのが勝負の世界であり、だからこそ途中でプロの道を諦め、挫折し、奨励会を去っていく者もまた数多くいるのである。

 

今回、史上最年少でプロ棋士となり、そしてプロ初勝利を飾った藤井聡太四段は、この若き年齢にして、既にそんな過酷な道のりを歩んできたのである。その偉業はもちろん歴史に残る金字塔である一方で、記録には残らない敗れていった者たちを、せめて記憶の片隅にとどめておきたい、そんな気持ちで執筆されたのが、大崎善生の名著『将棋の子』である。まだ幼いともいえる年齢で人生の表舞台から去らねばならなかった彼らは、いまどこでどんな気持ちで何をしているのか?著者の温かいまなざしとともに読んで欲しい将棋の世界の現実がここにある。

奨励会……。そこは将棋の天才少年たちがプロ棋士を目指して、しのぎを削る“トラの穴”だ。しかし大多数はわずか一手の差で、青春のすべてをかけた夢が叶わず退会していく。途方もない挫折の先に待ちかまえている厳しく非情な生活を、優しく温かく見守る感動の1冊。第23回講談社ノンフィクション賞受賞作。

 

 

そんな大崎善生のもう一冊の傑作が、ご存知『聖の青春』である。将棋を指した時間はあまりにも短く早逝した村山聖。しかし彼の棋譜は、将棋界の記録となり、その鮮烈な生きざまは数多くのプロ棋士の記憶に残った。「聖の青春|天才・羽生善治を追いつめた伝説の怪童・村山聖」でも紹介したように、映画化もされた本作をぜひ、その原作で味わって欲しい。すばらしい一冊としておすすめしたい。

重い腎臓病を抱え、命懸けで将棋を指す弟子のために、師匠は彼のパンツをも洗った。弟子の名前は村山聖(さとし)。享年29。将棋界の最高峰A級に在籍したままの逝去だった。名人への夢半ばで倒れた“怪童”の一生を、師弟愛、家族愛、ライバルたちとの友情を通して描く感動ノンフィクション。第13回新潮学芸賞受賞作。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

将棋マネーリーグ|藤井聡太竜王が2021年賞金ランキング3位に

今年もこれまで通り、昨年の将棋棋士の賞金獲得ランキングが発表されたぞ(ランキング表)。上位陣に大きな

記事を読む

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4戦を終えたばかりとはいえ現在負

記事を読む

春の入学・進級・入社シーズンに絶対おすすめの国語辞典3選

3月は日本全国いたるところで卒業式が行われる。小学校を卒業して中学生になれば電車もバスも大人運賃だ。

記事を読む

南魚沼の「雪国まいたけ」が5年ぶりに再上場|その背景で創業者はなんとカナダで再挑戦

新潟県南魚沼に本社を構える企業でもっとも有名なのが、この「雪国まいたけ」ではないだろうか? みなさん

記事を読む

TSUTAYA運営の市立図書館に続き、今度は学習塾ノウハウを公教育に導入:いま話題の佐賀県武雄市に行ってきた

佐賀県武雄市がまた新しい取り組みを始めたようだ。 (NHKニュース)佐賀県武雄市は、来年の春から公

記事を読む

japanese dictionaries 1

国語辞典業界最大の謎がいま明らかにされる|辞書になった男ケンボー先生と山田先生

近年まれにみるほどの傑作ノンフィクション『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』が、待望の文庫化・

記事を読む

japanese dictionaries 1

赤瀬川原平『新解さんの謎』と『辞書になった男』:いま日本で最も売れている「新明解国語辞典」の誕生秘話

これまで何度か、各種おすすめ国語辞典のそれぞれの個性について書いてきたが、その中でも最も「個性的」な

記事を読む

kuzushi shougi

最年少プロ棋士・藤井聡太とAI将棋の時代|人工知能が切り拓く新たな地平

ついにストップした藤井聡太四段の連勝記録。しかし、史上最年少でプロ棋士となってから、これまで29連勝

記事を読む

shougi denou sen

永世竜王・渡辺明の『勝負心』は、羽生善治に対する尊敬と憧憬と畏怖

『知ってても偉くないUSA語録』と、『Born to Run~走るために生まれた』に続けて、現在のK

記事を読む

博士号だけでは不十分!研究者として生き残るために

先日懐かしく読み返した Economist 誌の記事 "Doctoral degrees: The

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑