[若きテクノロジストのアメリカ]宇宙を目指して海を渡る~MITで得た学び、NASA転職を決めた理由
『宇宙を目指して海を渡る~MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』を読み終えた。少年の頃に天体に思いを馳せたその夢を叶えるため、東大からMITへPh.D.留学し、そしてついにNASA ジェット推進研究所に職を得るというストーリー。思わず漫画『宇宙兄弟』を読み返しちゃう、それくらい宇宙への憧れに満ちた一冊であり、清々しい読後感に包まれる。
本書の面白さは、まさにこの宇宙への夢にある。夢とはつまり渇望だ、そう著者が言うように、この渇きこそが著者のキャリアの根底にある。昨今のグローバル人材云々に対しても「僕にとってはどうでもいいことだ」と言えるのは、結局のところそこに夢があるのかという一点に尽きる。だからこそ、逆に言えば夢を持っていれば、「東大とハーバードのどちらが偉いなどという議論に何の意味もな」く、そして「日本で働くかアメリカで働くかということは、東京で働くか大阪で働くかということと本質的には何の差もない」のである。
photo credit: Storm Crypt via photopin cc
本書では、アメリカの高等教育やMITの創造性について、そして博士課程を生き残る術についてもページを割く。そこには著者のリアルな経験と観察そして学びが大いに反映されており、米国留学に興味を持っている人にとってはとても面白く読めると同時に、極めて参考になる箇所であろう。しかし、僕個人にとっての最大の読みどころは第4章「国語力:伝えられなければどんな発見もないのと同じ」であった。この国語力は本章では「話す力」と「書く力」を合わせたものとして定義されるが、アメリカ人の、もしくはアメリカ教育が重視するこの国語力が、留学後に大きく価値観が変わったことの一つだと著者は述懐する。
アメリカでは高校生の頃からライティングの授業があり、大学学部生になってからはアカデミック・ライティングの技術を叩き込まれる。それくらい書くことが重要視され、またライティング・スキルは天賦の才能などではなく修得可能な技術(スキル)だと認識されており、その方法論も確立されているのである。アメリカ人は「舌先三寸」で話すのも書くのも上手いお調子者。確かにそういう面もあるが、この国語力というのはやはり極めて重要なものであり、それを理科系の著者が力説する点にとても興味を持った。社会科学系の学問でももちろんこの国語力は大事なものだ。何を伝えるべきかだけではなく、それをどう伝えるべきか。「伝えられなければどんな発見もないのと同じ」という著者の指摘は、どの分野の学生・研究者にも当てはまることなのである。オススメの一冊。
はじめに
プロローグ ~青き夢~
第1章 僕はなぜ海を渡ったか
第2章 競争:アメリカの学生が必死に勉強する理由
第3章 僕はいかにしてMITで自信を失い、再び取り戻したか
第4章 国語力:伝えられなければどんな発見もないのと同じ
第5章 僕はなぜMITを好きになったか
第6章 創造:革新を生む不真面目さ
第7章 僕はなぜ留学支援の活動を始めたか
第8章 人材:流出とグローバルのジレンマ
第9章 僕はなぜ旅をするのか
第10章 挑戦:スケジュールをこなす以上の人生を生きたければ
第11章 僕はいかにして宇宙への夢を見失い、それを取り戻したか
第12章 進路:夢と選択肢の根本的な違い
第13章 僕はいかにして伴侶を得たか
第14章 決断
第15章 僕はいかにしてNASA JPLに職を得たか
第16章 夢と死:宇宙開発の意義とは
エピローグ ~NASA JPLへの出発~
謝辞
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