正月の風物詩・箱根駅伝が今年もおもしろい
新年明けましておめでとうございます。新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、ステイホームの継続と静かな年末年始が要請されたこの冬、紅白歌合戦とともに正月のスポーツも例年以上に視聴者を集めたのではないだろうか。そんな正月スポーツの一番人気と言ってもよいのが、この箱根駅伝だ。毎年往復10時間という長丁場でありながら、これだけ視聴者をテレビにくぎ付けにする番組なんて、いまやこの箱根駅伝くらいのものだろう。
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そして、確かにこれがむちゃくちゃ面白いのだ。往路・復路・総合という優勝争いはもちろん、メンバーの配置や当日の変更、優勝争いから脱落しても熾烈なシード権争奪戦にくわえて、タスキが無事につながるかどうかまで、全チームそれぞれの順位に合わせた見どころがたくさんあり、つまり消化試合やシーンなんてものが、この10時間のあいだに見当たらないのである。そんなスポーツ、他にありますか?
というわけで僕は今年もやはりテレビの前でずっと観戦・応援しちゃったわけなんだけど、今年の往路も面白かったですね~。第一区でトップに立った法政、第二区でのごぼう抜き、優勝候補・青学の失速、大型新人への期待と不安、そしてハイライトの山登りまで、いやあ見入っちゃうよね、ほんとに。
さてそんな良質のドラマが豊富なこの箱根駅伝は、だからこそ小説などの舞台にもぴったりだ。以前にもおすすめした『チーム』は、出場を逃した大学から選抜されたメンバーに焦点を当てたからこそ、普段は見えない箱根の舞台裏をのぞいたようなリアルで生々しい、それでいて実にさわやかな読後感が残る名作だ。ぜひこのタイミングで読んでみて欲しい。
ゴールの瞬間まで目が離せない ノンストップ駅伝小説!
箱根駅伝出場を逃した大学のなかから、予選で好タイムを出した選手が選ばれる混成チーム「学連選抜」。究極のチームスポーツといわれる駅伝で、いわば“敗者の寄せ集め”の選抜メンバーは、何のために襷をつなぐのか。東京~箱根間往復217.9kmの勝負の行方は――選手たちの葛藤と激走を描ききったスポーツ小説の金字塔。
さらには、経済小説のベストセラー作家として知られる黒木亮は、じつはこの箱根を走っているのである。各大学10人しか走れない厳しい内部競争、だからこそあの箱根を走ったという記憶と経験はそれぞれのランナーのその後の人生を大きく左右するものだ。著者もその一人であり、自伝的作品となった本作もぜひ、箱根が脚光を浴びるこの正月にぜひもっと多くの人に読んでもらいたい傑作なのである。
北海道の雪深い町に生まれ育った少年が、ふと手にした陸上競技誌。その時から走る歓びに魅せられ、北海道中学選手権で優勝するまでに成長するが、それは奇妙な運命をたどる陸上人生の始まりに過ぎなかった。親友の死、度重なる故障、瀬古利彦という名選手との出会い、自らの出生の秘密……。走ることへのひたむきな想いと苦悩を描く自伝的長編。
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