英文法再入門|高校の先生がこの本を読んでいれば
中公新書の『英文法再入門』は、直接的なタイトルに見られるように、英語学習者向けに文法を学ぶポイントを丁寧に解説した一冊である。中学・高校だけでなく東進ハイスクールでも英語授業を担当する著者が、これまでの経験から英文法学習の極意を10に絞って伝授するものだ。
そもそもの出発点として著者は、英語が難しいと感じる理由に以下の2つがあると指摘するところから本書は始まる。ひとつめは、英語が外国語であるがゆえに日本語文法とのギャップに戸惑うという点。もうひとつは、英語の教え方に問題があるという点、である。どちらも大事な点だが、本書の特長は2点目の英語教授法にあると言ってよいだろう。その理由は、以前に「新書『英語独習法』が売れている|認知科学者がおしえる思考と学習」と比較してみると分かりやすいだろう。
おすすめの一冊『英語独習法』の著者は、英語と直接関係するわけではない認知科学者・今井むつみである。その著者が同分野の研究成果をもとに、同書のキーコンセプトである「スキーマ」について解説し、そもそも日本語と英語では言語の構造からズレが生じているのだから、まずはその違いを理解しそのうえでその壁をどう乗り越えていけばよいのか、という実践的な探索・探究法へとレベルを上げた話題へと展開する。これまでの英語学習書にはない斬新なアプローチであるため、ぜひ本書も合わせて読んでみることをおすすめしたい。
英語の達人をめざすなら、類義語との違い、構文や文脈、共起語などの知識に支えられた高い語彙力が不可欠だ。記憶や学習のしくみを考えれば、多読や多聴は語彙力向上には向かない。語彙全体をシステムとして考え、日本語と英語の違いを自分で探究するのが合理的な勉強法なのだ。オンラインのコーパスや辞書を利用する実践的方法を紹介。
この『英語独習法』と比較すると、さきほど述べたように、本書『英文法再入門』の強みは、学校や予備校等で英語教育の実践の場に長いこと居続けた著者だからこそ書ける、英語教授法の問題点である。本書の2点目の特長であるこのポイントは、例えば以下の2文を比較してみると明らかだ。
- After cleaning the room, she drank coffee.
- After she cleaned the room, she drank coffee.
同じことを言っているとはいえ、2つ目の文章の方が、誰がという主語と、いつという時制がはっきりしているという点で、情報はより明確である。それにも関わらず、英語の授業では、第2文のような「従属節」は文章がより長くなるため、第1文のような「準動詞句」を使った短い文章を先に学ばせるのだという。それは、短い文章の方が、長い文章よりも易しいという認識に基づいているからなのだが、これは全く逆だというのが、著者の指摘なのである。文章が長いか短いかではなく、よりクリアな情報をきちんと伝えられる従属節から教えるのが、英語学習としては理想的だという意見は、大変に説得的である。
このように、本書のユニークさは、英語教師みずからが、現在の英語教育の問題点を指摘し、ではどのように学ぶんでいくのがよいのかと提案していることにある。その意味では、本の帯にあるキャッチコピー「高校生のときにこの本を読んでいれば」も決してワルクはないんだけど、より本質に迫るならば「高校のときの先生がこの本を読んでいれば」の方がしっくりくる。そう、この本は英語学習者というよりもむしろ、英語教育者にこそ読んでもらいたい一冊なのである。
「英語は苦手、でももっと身につけたい」と思っている人に! 英語が難しいのは、次の2つが原因です。1つは、英語が日本語と全然別の言語であるから、もう1つは中学・高校で正しい順番で学ばなかったからです。これらを意識して中学・高校の英文法をもう一度学んでみましょう。本書は、名詞の用法から5文型、誰もがつまずく不定詞句や関係詞まで、工夫を凝らした10の講義で解説。これで乗り越えられるはずです。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
Kindle電子書籍で安く読める、経済学および統計学の教科書
電子書籍の普及がますます加速しているが、大学や大学院で使う教科書はまだまだ電子化が遅れている。しかし
-
-
この漫画がすごい『数学ゴールデン』が描く数学オリンピックの世界
Amazon では Kindle 電子書籍の大規模セールをしばしば開催しているが、こうしたキャンペー
-
-
あの伝説の一戦「3連勝4連敗」から9年|羽生善治・永世七冠誕生
2017年12月5日、長い将棋の歴史に新たな偉業が刻まれた。羽生善治が竜王位を奪還し永世竜王となり、
-
-
都立浅草高校国語教師・神林先生が愛してやまない飲み屋と呑み助と大将と女将
自宅や実家での新年気分も終わり、今週末あたりから町の飲み屋に繰り出すか、という人も多いかも知れない。
-
-
Kindle電子書籍でエキサイティングに読もう、今あらためて宇宙論がおもしろい
僕は大栗博司『重力とは何か』を2年ほど前に読み、「この宇宙論はおもしろいよ!」と書いたのだが、その気
-
-
卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り
今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春はいつだって新しい旅立ちのときで
-
-
西水美恵子著『国をつくるという仕事』が称賛する、ブータン国王のリーダーシップ
ブータン訪問記の続き。 ちょっとブータンまで行ってきた。 ブータンではみんな王室と国王と
-
-
綻びゆくアメリカと繁栄から取り残された白人たち
2014年に翻訳出版された『綻びゆくアメリカ―歴史の転換点に生きる人々の物語』に今また注目が集まって
-
-
英国一家、最後に日本を食べる&お正月スペシャル
コアな人気を博していたNHK深夜アニメ「英国一家、日本を食べる」。ベストセラーとなった原作も素晴らし
-
-
日本人の氏名はなぜこんなにも多種多様にして複雑怪奇なのか?
日本人はなぜにこんなにも自分の名前や家族のルーツに興味津々なのだろうか? NHKの番組だけ取り上げて