*

『ヤバい予測学』とフェイスブックデータが示す感情の起伏

公開日: : 最終更新日:2014/02/24 オススメ書籍, データ

フェイスブックのデータ・サイエンティストたちは毎度興味深いデータを見せてくれる。それは「フェイスブックから愛を込めて」で書いた、Love に関するデータにとどまらない。ちょっと前に提示されたのがこちら “The Emotional Highs and Lows of the NFL Season だ。

 

アメリカにおいてNFLそしてスーパーボウルは一年の最大イベントといってもいいほどの盛り上がりを見せる。それは、「世界で最も成功したスポーツビジネス」で紹介したとおりだ。そのNFLを見るファンの心理を、フェイスブックデータを用いて次のように観察している。

 

Sports fansand perhaps football fans in particularknow that supporting a team over an entire season can be an emotional roller coaster. There are moments of excitement, pure joy, and crushing defeat that are all core components of any true fan’s experience. It is a fascinating part of human culture that we care so much about our sports teams and let their performances affect our emotions so strongly.

A great thing about Facebook is that it provides a place to freely share our emotions with our friends through status updates. Collectively, these status updates can tell a story about how the millions of NFL fans on Facebook experience the highs and lows of a football season. To measure fan emotion, we anonymously tagged millions of status updates over the course of the season as pertaining to specific NFL teams and then counted the number of positive and negative emotion words (from a predefined list) in each post.  The ratio of positive to negative emotion words provides an intuitive and useful measure of how people are feeling about their teams.

 

NFLファンのフェイスブックへの投稿データを用いて、感情がポジティブに動くかネガティブに動くか、それが試合の経過とともに、そして応援しているチームが勝っているか負けているかによってどう変化するのかをグラフに示している。

 

emotional highs and lows in facebook

 

まさにこれと同じような分析が書いてあったのが『ヤバい予測学』だ。これは、「ヤバい統計学とテーマパーク優先パスの価格付け」で紹介した一冊『ヤバい統計学』に続く、ヤバいシリーズの最新刊である。

 

本書『ヤバい予測学』が具体的に取り上げるのが、個人のブログ投稿記事に現れる書き手の感情が、ソーシャルな繋がりとなってどう集団心理に影響を与えるか、という話。それは、どんな商品が売れるか、どんなテレビ番組がヒットするかといったマーケティング面はもちろんのこと、大統領選挙から株価まで、社会・経済・政治のあらゆるところにあらゆる形でショックを起こす。

 

とくにアメリカにおいては、米国大統領選挙とNFLスーパーボウルの日に、相当数の国民が落ち着かないソワソワした日を過ごしていることがデータをもとに紹介されている。そして翌日から次第に平常に戻っていくのだが、もちろん、応援していた候補者・チームが負ければ気持ちはネガティブに、勝てばポジティブに気持ちが推移しながら、ゆっくりと日常へと帰っていく。

 

それでは、こうした個々人の感情の起伏とそれが引き起こす(可能性のある)集団心理をどう事前に予想したらよいのか、というのがここでいう予測学(predictive analytics)であり、統計学・経済学だけでなく心理学とも深く関わりながら発展している新しい分野。

 

本書『ヤバい予測学』の中で解説されるトピックのうち、感情の起伏以外で興味深かったのがプライバシー。実に現代的な課題であり、以前に「ビッグデータの時代と Data without borders」でも書いたように、ニューヨーク・タイムズの記事 “How Companies Learn Your Secrets” でも、小売企業がマーケティングを強めるためにより顧客のプライバシーを探求・詮索・発掘している様子が紹介されている。

 

ビッグデータでマーケティングと言ってしまうと余りにもキャッチーだが、本書および本シリーズは、アカデミックな観点からの説明が多く、流行りの類書とは一線を画している。本書『ヤバい予測学』の著者エリック・シーゲルは、コロンビア大学でコンピュータ・サイエンスのPh.D.を取得し、その後同大学のアシスタント・プロフェッサーに着任。人工知能や機械学習について研究・教育に取り組んだ後、みずからコンサルティング会社を設立と、何ともアメリカらしいキャリアの持ち主だ。自身の営業ツールとしての出版なのだろうが、そこを割り引いても十分に面白く読める一冊である。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

論文捏造はなぜ繰り返されるのか?科学者の楽園と、背信の科学者たち

先週は、小保方晴子氏の論文「学位取り消しに当たらず」(NHK)との報道が新たな議論を引き起こしている

記事を読む

ミャンマーの歴史と地政学|アジアの超大国・中国とインドをつなぐ十字路

ミャンマーがいま政治的に揺れている。日本との歴史的関係も長いこの国は、僕自身も何度か訪れたことがある

記事を読む

Kindle電子書籍でわくわく読む、角川書店の初心者向け数学シリーズ

今年はますます電子書籍市場の拡大に拍車がかかりそうだ。「2018年には米国と英国で紙書籍を追い抜くか

記事を読む

大学受験間近|なぜ東京藝大は東大よりも難関なのか?

今年も受験シーズンの真っただ中となった。 国公立大入試の2次試験の出願もしめ切れらたところで、全国

記事を読む

数学者たちの異常な日常|世にも美しき最後の秘境

以前に「あたなの知らない、世にも美しき数学者たちの日常」でも紹介した、二宮敦人著『世にも美しき数学者

記事を読む

新書『英語独習法』が売れている|認知科学者がおしえる思考と学習

岩波新書の今井むつみ『英語独習法』が売れている。僕自身も大変興味深く読んでおり、これは英語学習者にと

記事を読む

寝苦しい今夜も嫁を口説こうか|珠玉の芸人エッセイ3冊

以前にも何度かおすすめしてきたように、お笑い芸人が書くエッセイには、なかなかに読ませる面白いものが多

記事を読む

米国Amazon.com が公表する、アメリカとカナダの Most Well-Read Cities

毎年恒例となった、Amazon.com (および Amazon.ca)が発表する "Most Wel

記事を読む

Amazonソムリエが教える美味しいワインのえらび方

いま、Amazonがもっとも力を入れているもの、それは電子書籍、ではないですよね。Kindleはもう

記事を読む

クリエイター佐藤雅彦が好きだ|最新著『ベンチの足』にみるユニークな視点

佐藤雅彦ほど「クリエイター」という表現が似合う人はいないのでは、と個人的に思っている。アーティストで

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑