*

新書『英語独習法』が売れている|認知科学者がおしえる思考と学習

公開日: : 最終更新日:2021/05/04 オススメ書籍, 英語

岩波新書の今井むつみ『英語独習法』が売れている。僕自身も大変興味深く読んでおり、これは英語学習者にとっての必読書に指定したいくらいだと思っている。それくらい、これまでの英語関連書にはない、ユニークな一冊となっているのだ。

 

世の中に数多存在する、英語がペラペラ話せるようになるといった宣伝文句の教材、ヒアリングとして英語を浴びるように聞いて慣れさせようという授業、そうした安易なやり方をまずは否定するところから本書は始まる。それではこの『英語独習法』は、これまでの英語学習教本とはいったい何がどう異なっているのか?その答えはひとことでいうと、著者が英語の専門家ではない、ということに尽きる。

 

今井むつみ
1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。
1994年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得
現在―慶應義塾大学環境情報学部教授
専攻―認知科学、言語心理学、発達心理学
著書―『ことばと思考』岩波新書、『学びとは何か――〈探究人〉になるために』岩波新書、『言語と身体性』岩波講座コミュニケーションの認知科学第1巻(共編著)、『ことばの発達の謎を解く』ちくまプリマー新書、『親子で育てることば力と思考力』筑摩書房、『言葉をおぼえるしくみ――母語から外国語まで』ちくま学芸文庫(共著)、『新人が学ぶということ――認知学習論からの視点』北樹出版(共著)ほか

 

上記プロフィールにもあるように、著者・今井むつみは認知科学者であり、英語の専門家でもなければ、英語教師でもない。そうではなく、認知科学・言語心理学をアカデミックに研究する立場から、日本人にとってなぜ英語学習がこれほどまでに難しいのか、そして安易な上達を謳う教材や手法はどこがどう問題なのか、を丁寧に解説していく。このアプローチがこれまでの数多くの英語学習法とは大きく異なるのは、第1章「認知のしくみから学習法を見直そう」で明確に述べられており、ここをしっかりと読むだけでも本書の価値は高い。

 

もちろん、第1章は導入に過ぎず、そこから本書のキーコンセプトである「スキーマ」について解説がすすみ、日本語と英語ではそもそもからズレが生じており、それをどう乗り越えていけばよいのか、という実践的な探索・探究法へとレベルを上げた話題へと展開する。

 

 

 

 

僕らはついつい、より効率的・効果的な英語学習法はないかとついつい探してしまう。英英辞典、英語新聞、Podcast、TED Talk、そしてスタディサプリと、どうしても教材やツールに目移りしてしまいがちだが、そうではなく、本書では、そもそも人間はどのような学習プロセスをとっているのか、という原点に立ち返り、それに合わせてどう外国語としての英語を勉強していくべきなのか、という大きな発想の転換が求められる。しかし、一見遠回りに見えるであろうこの道こそが、そして学習とは何かというアカデミックな理解に基づいたほうが、実は有効な方法論であるというのは、本書を読み終えれば誰しも納得するはずだ。

 

こうした書籍が新書で出版され、誰にとっても手軽に本格的内容を学ぶことができるのは、大変すばらしいことだ。岩波書店のまさにグッジョブであり、その結果としていま売れているというのは、それだけの潜在的ニーズがあったことの証明でもあり、これもまた喜ばしいことだ。英語学習と無縁でいられる日本人はなかなかいない。いまや小学生から英語を学ぶ時代であり、好きだろうが嫌いだろうが、受験から仕事まで、どこまでも英語は身近にあり続ける。であるならば、一番根本的な学習の意味から問い直すのはとても価値あることだと思う。まずはいったん立ち止まって、これからどう英語を勉強していくべきかを考えるためにも、本書は極めて示唆に富んだ一冊となっている。強くおすすめしたい。Amazon でも楽天でも、いまだけポイント10倍でお買い得です。

 

英語の達人をめざすなら、類義語との違い、構文や文脈、共起語などの知識に支えられた高い語彙力が不可欠だ。記憶や学習のしくみを考えれば、多読や多聴は語彙力向上には向かない。語彙全体をシステムとして考え、日本語と英語の違いを自分で探究するのが合理的な勉強法なのだ。オンラインのコーパスや辞書を利用する実践的方法を紹介。

■目次
はじめに
第1章 認知のしくみから学習法を見直そう
第2章 「知っている」と「使える」は別
第3章 氷山の水面下の知識
第4章 日本語と英語のスキーマのズレ
第5章 コーパスによる英語スキーマ探索法 基本篇
第6章 コーパスによる英語スキーマ探索法 上級篇
第7章 多聴では伸びないリスニングの力
第8章 語彙を育てる熟読・熟見法
第9章 スピーキングとライティングの力をつける
[ちょっと寄り道] フィンランド人が英語に堪能な理由
第10章 大人になってからでも遅すぎない
探究実践篇
【探究1】 動詞の使い分け(1)──主語・目的語に注目
【探究2】 動詞の使い分け(2)──修飾語・並列語に注目
【探究3】 動詞の使い分け(3)──認識を表現する
【探究4】 動詞の使い分け(4)──提案を表現する
【探究5】 修飾語を選ぶ──頻度に注目
【探究6】 抽象名詞の使い分け──共起する動詞と修飾語に注目
【探究7】 前置詞を選ぶ──前置詞+名詞の連語に注目
【探究8】 抽象名詞の可算・不可算
本書で紹介したオンラインツール
参考文献
あとがき

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

経済学を学ぶなら読んでおきたい『若い読者のための経済学史』|イェール大学出版局リトル・ヒストリー

以前にも紹介した、イェール大学出版局のリトル・ヒストリーシリーズ。これはさまざまな学術分野をその道の

記事を読む

Amazonソムリエが教える美味しいワインのえらび方

いま、Amazonがもっとも力を入れているもの、それは電子書籍、ではないですよね。Kindleはもう

記事を読む

米国大統領選挙2020を前に|憲法でふりかえるアメリカ近現代史

コロナ禍もあって史上もっとも盛り上がらないと言われている今年のアメリカ大統領選挙だが、副大統領候補が

記事を読む

NHKアニメ『英国一家、日本を食べる』が毎回ハイクオリティで、つい新宿・思い出横丁に飲みに行ってしまった

「大ヒット『英国一家、日本を食べる』がなんとNHKでアニメ化|初回放送が予想以上におもしろかった」で

記事を読む

ジョジョの奇妙な英語にまさかの続編ガァァァ|あのクールな台詞はこれで学べ

以前に「ジョジョの奇妙な冒険で英語を勉強するなんて、無駄無駄無駄無駄無駄ですか?」でご紹介した英語テ

記事を読む

kuzushi shougi

奨励会三段リーグ|天才少年棋士からプロへの最後の関門

中学生でプロの将棋棋士となったのは、加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明の4人であり、その後も第一

記事を読む

japanese dictionaries 1

卒業・進級・入学のお祝いに|今も昔も定番の国語辞書をプレゼント

いよいよ春も近い。それはすなわち、卒業シーズンを迎え、そして進級・入学・入社といった新たな始まりを意

記事を読む

英語をイメージと塊で捉える『英会話イメージリンク習得法』

先日放送されたテレビ番組「情熱大陸」の主役は、通訳者・橋本美穂。ピコ太郎のギャグ等、いったいぜんたい

記事を読む

少年よ、大木を抱け。WOOD JOB!

本屋大賞を受賞した三浦しをん『舟を編む』で思わず国語辞典にはまってしまった僕が、その後辞書を一式揃え

記事を読む

あの藤井聡太が5回負けた|プロ棋士最終関門・奨励会地獄の三段リーグ

今回のスポーツ総合誌Number、将棋特集第2弾はこれまた読み応えのある記事が多数揃っており、非常に

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

サッカー監督の戦術と采配|究極のファインプレー

7/6水曜にNHKで「サッカーの園〜究極のワンプレー〜ワンプレーに秘め

越後長岡藩の熱い夏|最後のサムライの夢の跡

新潟の長岡はこの夏おおいに盛り上がってます。一つ目の理由は、なんといっ

プロテニスプレイヤーの憂鬱|男女格差と上下格差の歴史と現状

ウィンブルドンテニスで今年も熱戦を繰り広げられるなか、Financia

NHK短編ドラマ・星新一の不思議な不思議な世界

7/4月曜から始まるNHKの短編ドラマは大注目だ。なにしろ、あのショー

国語辞典のお金の秘密|時代を映す大改訂

NHK「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」が先週の番組で特集したのが国

2022年ニューヨークタイムズ紙が選ぶ世界の52ヶ所

毎年恒例、ニューヨークタイムズ紙が選ぶ、今年訪れたい世界の場所52ヶ所

今年の入学・進級祝いには、三省堂国語辞典第8版がおすすすめ

今年ももう3月、中学・高校・大学入試も結果が出た人も多いだろうし、これ

今年も確定申告の時期がやってきた|クラウド会計とe-taxで手続きは超簡便に

今年もいよいよ確定申告の時期がやってきた。例年どおり3月15日が提出締

PAGE TOP ↑