新書『英語独習法』が売れている|認知科学者がおしえる思考と学習
岩波新書の今井むつみ『英語独習法』が売れている。僕自身も大変興味深く読んでおり、これは英語学習者にとっての必読書に指定したいくらいだと思っている。それくらい、これまでの英語関連書にはない、ユニークな一冊となっているのだ。
世の中に数多存在する、英語がペラペラ話せるようになるといった宣伝文句の教材、ヒアリングとして英語を浴びるように聞いて慣れさせようという授業、そうした安易なやり方をまずは否定するところから本書は始まる。それではこの『英語独習法』は、これまでの英語学習教本とはいったい何がどう異なっているのか?その答えはひとことでいうと、著者が英語の専門家ではない、ということに尽きる。
今井むつみ
1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。
1994年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得
現在―慶應義塾大学環境情報学部教授
専攻―認知科学、言語心理学、発達心理学
著書―『ことばと思考』岩波新書、『学びとは何か――〈探究人〉になるために』岩波新書、『言語と身体性』岩波講座コミュニケーションの認知科学第1巻(共編著)、『ことばの発達の謎を解く』ちくまプリマー新書、『親子で育てることば力と思考力』筑摩書房、『言葉をおぼえるしくみ――母語から外国語まで』ちくま学芸文庫(共著)、『新人が学ぶということ――認知学習論からの視点』北樹出版(共著)ほか
上記プロフィールにもあるように、著者・今井むつみは認知科学者であり、英語の専門家でもなければ、英語教師でもない。そうではなく、認知科学・言語心理学をアカデミックに研究する立場から、日本人にとってなぜ英語学習がこれほどまでに難しいのか、そして安易な上達を謳う教材や手法はどこがどう問題なのか、を丁寧に解説していく。このアプローチがこれまでの数多くの英語学習法とは大きく異なるのは、第1章「認知のしくみから学習法を見直そう」で明確に述べられており、ここをしっかりと読むだけでも本書の価値は高い。
もちろん、第1章は導入に過ぎず、そこから本書のキーコンセプトである「スキーマ」について解説がすすみ、日本語と英語ではそもそもからズレが生じており、それをどう乗り越えていけばよいのか、という実践的な探索・探究法へとレベルを上げた話題へと展開する。
僕らはついつい、より効率的・効果的な英語学習法はないかとついつい探してしまう。英英辞典、英語新聞、Podcast、TED Talk、そしてスタディサプリと、どうしても教材やツールに目移りしてしまいがちだが、そうではなく、本書では、そもそも人間はどのような学習プロセスをとっているのか、という原点に立ち返り、それに合わせてどう外国語としての英語を勉強していくべきなのか、という大きな発想の転換が求められる。しかし、一見遠回りに見えるであろうこの道こそが、そして学習とは何かというアカデミックな理解に基づいたほうが、実は有効な方法論であるというのは、本書を読み終えれば誰しも納得するはずだ。
こうした書籍が新書で出版され、誰にとっても手軽に本格的内容を学ぶことができるのは、大変すばらしいことだ。岩波書店のまさにグッジョブであり、その結果としていま売れているというのは、それだけの潜在的ニーズがあったことの証明でもあり、これもまた喜ばしいことだ。英語学習と無縁でいられる日本人はなかなかいない。いまや小学生から英語を学ぶ時代であり、好きだろうが嫌いだろうが、受験から仕事まで、どこまでも英語は身近にあり続ける。であるならば、一番根本的な学習の意味から問い直すのはとても価値あることだと思う。まずはいったん立ち止まって、これからどう英語を勉強していくべきかを考えるためにも、本書は極めて示唆に富んだ一冊となっている。強くおすすめしたい。Amazon でも楽天でも、いまだけポイント10倍でお買い得です。
英語の達人をめざすなら、類義語との違い、構文や文脈、共起語などの知識に支えられた高い語彙力が不可欠だ。記憶や学習のしくみを考えれば、多読や多聴は語彙力向上には向かない。語彙全体をシステムとして考え、日本語と英語の違いを自分で探究するのが合理的な勉強法なのだ。オンラインのコーパスや辞書を利用する実践的方法を紹介。
■目次
はじめに
第1章 認知のしくみから学習法を見直そう
第2章 「知っている」と「使える」は別
第3章 氷山の水面下の知識
第4章 日本語と英語のスキーマのズレ
第5章 コーパスによる英語スキーマ探索法 基本篇
第6章 コーパスによる英語スキーマ探索法 上級篇
第7章 多聴では伸びないリスニングの力
第8章 語彙を育てる熟読・熟見法
第9章 スピーキングとライティングの力をつける
[ちょっと寄り道] フィンランド人が英語に堪能な理由
第10章 大人になってからでも遅すぎない
探究実践篇
【探究1】 動詞の使い分け(1)──主語・目的語に注目
【探究2】 動詞の使い分け(2)──修飾語・並列語に注目
【探究3】 動詞の使い分け(3)──認識を表現する
【探究4】 動詞の使い分け(4)──提案を表現する
【探究5】 修飾語を選ぶ──頻度に注目
【探究6】 抽象名詞の使い分け──共起する動詞と修飾語に注目
【探究7】 前置詞を選ぶ──前置詞+名詞の連語に注目
【探究8】 抽象名詞の可算・不可算
本書で紹介したオンラインツール
参考文献
あとがき
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