世界で最も成功したスポーツビジネス:アメフトNFLとスーパーボウル
米国で最も盛り上がるスポーツイベントと言えば、アメフトのスーパーボウル。個人的にはいまだにアメフトの面白さがよく分からないのだが、アメリカ人友人たちの間での盛り上がりようは確かに凄まじかった。そして先日行われた今年のスーパーボウル、試合自体は一方的な展開だったようだが、ビジネスとしては過去最高の成功を収める結果となった。
視聴者数1億1,200万人という数字はスーパーボウルとしてはもちろんのこと、米国テレビ史上でも過去最多となった。毎年話題になるテレビCMの価格も30秒枠が4億円とこちらも史上最高値を記録した。どのCMが優れていてどれが駄作だったのかという評価も既に多数アップされているが、全体としてはスーパーボウルの集客ぶりと、いまだテレビCMが莫大なビジネスであることを印象づけたように思う。
そんなテレビCM収入をクライアントの業種別に見たのが次のグラフ。青色でマークされたのが自動車業界で、2011年からCM投入額が急増し業種別のシェアNo.1を取り続けている。それまではバドワイザー、コカ・コーラ、ペプシの3社を中心とした飲料業界が長いことトップシェアを占めていただけに、近年の自動車業界のCM投入額の増加は著しい。しかもその自動車業界をさらに企業別に見てみると、2009年に経営破綻したクライスラーがCMトップの座についており、特に2013年にはCM投入額を前年の2倍以上に伸ばしている。


(Wall Street Journal)
そんなスーパーボウルのCM価格高騰は、アメフトつまりはそのリーグNFL人気に裏付けられている。米国のスポーツと言えばメジャーリーグMLB、もしくはバスケNBAだってあるじゃないか、というのは全くの誤解。以下のグラフに示されているように、実際にはNFLが絶大な人気を集めているのである。しかも2位のMLBとの差を開きつつあるというのだから、その人気の突出ぶりがうかがえるというものだ。

それでは一体なぜアメフトNFLがこれだけ成功したスポーツビジネスとなったのか、というのは大変に興味深い。種子田『NFLの経営学』はアメフトの成功をリーグ全体のマネジメントとして解説したユニークな一冊。ファンは自分のひいきのチームを応援したい、しかし自分のチームが毎年ぶっちぎりで優勝しては面白みがない。他のライバルチームと拮抗した試合を繰り返し、最終的には相手に競り勝つ。そういう展開にファンはしびれるのである。
つまり、リーグ全体の運営で重要になるのがチーム間の戦力バランス。突出して強いチームや弱いチームが生まれないようにすることが、結果的にはリーグ全体としての繁栄につながる、というのがNFLの考え方の根本にある。日本プロ野球のかつての巨人V9時代のような、巨人ファンですら飽き飽き感を生み、アンチ巨人は野球そのものから離れていってしまいかねない状況をつくってはならないというポリシーだ。そのために、次のような各種政策を導入して、チーム間の戦力をバランスさせているのである。
(NFL運営システム) NFLのリーグ運営は設立当初から、スポーツの魅力とは最高のレベルで戦力の均衡したチームが繰り広げる競争状態である、という理念のもとに行われています。リーグ全体が継続的に繁栄しアメリカ全土を熱狂させるためには、戦力や資金力が特定のチームにだけ片寄ってしまうことのないシステムを構築することが必要である、という信念がそれを支えています。
NFLでは現在、「レベニューシェアリング」、「サラリーキャップ」、「ウェーバー制ドラフト」という3つのシステムによって戦力や資金力を均衡させ、ニューヨークのような大都市にあるチームも、メジャープロスポーツリーグのフランチャイズとしては最も小さなマーケットにあるグリーンベイ(全米69番目)も、同じ条件でフィールド上では競い合える仕組みを築き上げてきました。特に、レベニューシェアリングはリーグの根幹をなすもので、すでに40年以上も前にその仕組みは整えられています。
この結果、NFLはアメリカの4大スポーツリーグで最も健全な運営を行うリーグとなりました。アメリカの経済誌フォーブスが2004年に発表したアメリカメジャースポーツの各フランチャイズの格付けランキングでは、16位のニューヨーク・ヤンキース(MLB)以外は上位33位までをNFL 32チームが占めています。1位のワシントン・レッドスキンズは11億400万ドル、33位のアリゾナ・カーディナルスでも5億5,200万ドルの価値と算定されています。このデータによると、NFLではカーディナルス以外の全チームが黒字で運営されています。
そんな、NFLのリーグ運営を経済学的な視点で解説したのが以下の訳書『スポーツの経済学』だ。以前に「ファンシーでファニーな Sports Economics」で書いたように、僕は一度、学部生向け Economics of Sports の授業のTAを担当したことがあるのだが、そのとき利用した教科書がこれだったのである。米国のスポーツビジネスを題材に、需要と供給、フランチャイズ運営と利益最大化、独占と価格設定、地元への波及効果、選手移籍と労働市場といったことを解説するユニークなテキストだ。
そのうちの一章が、戦力の均衡に充てられていて、とくにNFLのリーグ運営に焦点を当て、なぜチーム間の戦力バランスが必要で、それをどう促進し、いかに計測するかといった議論が展開されていく。本書自体で取り上げるのはNFL以外の話題も多く、経済学の入門書としてだけではなく、スポーツファンとしても、もちろんとても興味深く読める内容だ。「スポーツ経済学」という授業は日本ではなかなかないだろうけれど、学部ゼミで輪読などするには格好のテキストとなるかも知れない。
Amazon Campaign
関連記事
-
-
アメリカで最もお世話になったあの老夫婦がこの夏日本にやって来る
僕が米国留学で一番お世話になったのは、ひょっとすると大学院の指導教授ではなく、むしろアカデミックとは
-
-
Kindle電子書籍でわくわく読む、角川書店の初心者向け数学シリーズ
今年はますます電子書籍市場の拡大に拍車がかかりそうだ。「2018年には米国と英国で紙書籍を追い抜くか
-
-
【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名
先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」でも紹介していたように、 宇宙
-
-
華麗な舞台の裏にあるプロテニス選手の過酷な生活|ランキングシステムが生んだ世界的超格差社会
2018年の全豪オープンテニスがフェデラーの優勝で幕を閉じた。自身が持つ四大大会最多優勝記録を20勝
-
-
新書『英語独習法』が売れている|認知科学者がおしえる思考と学習
岩波新書の今井むつみ『英語独習法』が売れている。僕自身も大変興味深く読んでおり、これは英語学習者にと
-
-
あなたの知らない、世にも美しき数学者たちの日常
「日本に残る最後の秘境へようこそ|東京藝術大学のアートでカオスな毎日」でおすすめした、二宮敦人の『最
-
-
「ヘンな論文」を書き続ける動機と勇気
高学歴の芸人と言えば? という問いに、ロザンの宇治原と応えるのではあまりにもフツー過ぎる。もう少しツ
-
-
年収は「住むところ」で決まる: The New Geography of Jobs
"How Professional Salaries Vary Around the Country
-
-
Kindle電子書籍で安く読める、経済学および統計学の教科書
電子書籍の普及がますます加速しているが、大学や大学院で使う教科書はまだまだ電子化が遅れている。しかし
-
-
卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り
今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春はいつだって新しい旅立ちのときで
Amazon Campaign
- PREV
- この世で一番おもしろい(かも知れない)統計学
- NEXT
- 美容と整形:2013年も引き続き市場は拡大


