最年少プロ棋士・藤井聡太とAI将棋の時代|人工知能が切り拓く新たな地平
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ついにストップした藤井聡太四段の連勝記録。しかし、史上最年少でプロ棋士となってから、これまで29連勝を重ね、30年ぶりの最多連勝記録を達成したその様は、とても14歳とは思えないほどの偉業である。
(NHKニュース)将棋の最多連勝記録を30年ぶりに更新した中学3年生の藤井聡太四段が、2日、東京で行われた対局で敗れました。藤井四段が公式戦で敗れたのは初めてで、連勝は「29」で止まりました。
藤井聡太四段は、去年10月に史上最年少の14歳2か月でプロ棋士となったあと公式戦で一度もまけることなく勝ち続け、先月26日の対局で連勝記録を「29」に伸ばして、昭和62年に神谷広志八段が達成した28連勝の最多連勝記録を30年ぶりに更新しました。
加えて特筆すべきは、藤井四段の快進撃を止めた佐々木勇気五段の強さであろう。こちらも22歳の若き俊英であるが、勝利後インタビューで「私たちの世代の意地を見せたかった」と語っているように、先輩プロ棋士としてのプライドを掛けての対戦だったのである。
いや、それにしても佐々木五段は強かった。なにしろ僕も生中継で見続けてしまったのである、この歴史的一戦を。将棋の対戦を生中継で見るなんて、本当に何年ぶりだろうか。それくらい話題をつくり、日本中に将棋旋風を巻き起こした藤井四段の功績は、最近冴えないニュースが多かった将棋連盟にとっては何よりもありがたかったであろう。それとともに、加藤一二三のようなベテラン棋士の引退、そして佐々木勇気のような藤井以外の若き頭脳にも注目が集まり、これだけ豊かなキャラクターを擁するプロ将棋の世界がさらに知られることを願ってやまない。
さて、そんな将棋界を襲った最近にして最大のニュースは、なんといっても、AI将棋が人間を凌駕したことであろう。トップ棋士対コンピュータという対戦を前に手に汗を握ったのは今や昔。もはや人間の知性ではコンピュータの指す一手が理解できないほどに、AIは圧倒的な進化を遂げてしまったのである。
ついに実現した、将棋界最強の名人対、最強のコンピュータ将棋ソフト・ポナンザ。しかし結果は、佐藤天彦名人の2連敗に終わった。しかも、もはや人間の敗戦がそれほど大きなニュースとはならないほどに、将棋ソフトの驚異的な進化を見せつけたのが、ここ数年の電王戦だったと総括できるだろう。
(産経新聞)20日、兵庫県姫路市の姫路城で行われた「第2期電王戦二番勝負」最終第2局は、コンピューターソフト「PONANZA(ポナンザ)」が佐藤天彦名人(29)を破った。ポナンザは第1局でも勝っており、将棋界で最も伝統のある名人との歴史的な勝負を連勝で制した。
これで電王戦の対戦成績は、ソフトが棋士に14勝5敗1分けと大きく勝ち越し、人間とコンピューターソフトとの戦いは「人間敗北」で最終決着した。
そんなここ数年、将棋界を取り巻く大きな話題であったコンピュータ将棋ソフト。その黎明期から躍進と進化の時代を経て現在に至るまでをあますところなく描写した一冊が、こちらの『棋士とAIはどう戦ってきたか』である。まだ出版されたばかりということもあり、最新の電王戦までがカバーされており、将棋ソフトの現状を知るには最適の一冊だろう。もちろん僕も、発売後すぐに非常に興味深く読んだ書籍である。
二〇一七年四月一日、現役タイトル保持者が、はじめてコンピュータ将棋ソフトに敗れた。AI(人工知能)が、ついに人間の王者を上回ったのだ。それは予想だにしない奇跡だったのか、それとも必然だったのか?コンピュータ将棋の開発が始まってから四十年あまり、当初、「人間に勝てるはずがない」ともいわれたコンピュータ将棋は、驚異的な進化を遂げて、いま、人間の前に立ちはだかる。この間、棋士は、そしてソフト開発者は何を考え、何をめざしてきたのか?そして、人間とAIは、どのような関係へと向かうのか?将棋界の最前線を十数年取材してきた将棋記者の、渾身のルポルタージュ!
それに関連して、もう一冊ものすごく面白く読んだ一冊がこちら『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか』である。著者は、その名人を打ち負かした将棋ソフト「ポナンザ」の開発者・山本一成である。先日はTBS「情熱大陸」でも特集された、まさに時の人である。この一冊もまた、むちゃくちゃ面白かったのである。人間の知能を超えたソフトはどのように開発されたのか、そして今どこまで賢くなり今後どこまでその性能を高めていくのか、という点はもちろんのこと、プロ棋士とソフトとの対戦を禁止した将棋連盟の判断とそれによって最もエキサイティングな人間対機械の機会が失われたこと、そして囲碁の世界ではなぜあれほどオープンにコンピュータと接点を持ち続けているのか等々、将棋界にどっぷりつかった人間では書けない視点からの描写が鋭く読ませる。ぜひこれも合わせて読んで欲しい一冊だ。
2017年4月1日――人工知能「ポナンザ」が現役の将棋名人に公式戦で初めて勝利した日を、その生みの親である著者は次のように振り返ります。
「この日は、コンピュータ将棋の世界にとって記念すべきものになりましたが、同時に改めて、人間と人工知能の違いを認識させられた日ともなりました。
本書で紹介してきた人工知能(ポナンザ)の特徴と、世界に意味を見つけ物語を紡いで考えていく人間の思考法の限界が明確に表れたのです。」本書の魅力は、このフレーズに象徴される「人工知能と人間の本質的な違い」
そして「知能と知性の未来」を、
◇プログラマからの卒業
◇科学からの卒業
◇天才からの卒業
◇人間からの卒業
という4つの章で見事に段階的に説明している点にあります。
それ以外にも最近は、人工知能関連の書籍が相次いで出版されているが、おすすめは以下の3冊。NHKスペシャルにもなったように、羽生善治と技術最先端を訪ね歩く『人工知能の核心』、この分野の学者が解説する『人工知能は人間を超えるか』、そしてジャーナリストが活写する『AIの衝撃』、この3冊を追加で読んでおけば、現在もっともアツいこの分野の全体像をおおまかにでも掴むことができるだろう。いずれも良書としておすすめしたい。
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