綻びゆくアメリカと繁栄から取り残された白人たち
2014年に翻訳出版された『綻びゆくアメリカ―歴史の転換点に生きる人々の物語』に今また注目が集まっているのをご存知だろうか?それはひとえに、アメリカという超大国にトランプという新大統領が誕生したからに他ならない。昨年11月、トランプが大統領選挙で当選した直後には、その想定外のショックをいかに理解すればよいのかという視点から、ニューヨーク・タイムズ紙が “6 Books to Help Understand Trump’s Win” という記事を掲載したが、そのまさに最初の一冊として推薦されたのが本書だったのである。
民主主義の国、アメリカはいま危機に瀕している。勝者と敗者に二極化し、政治や経済の制度がもはや機能していないなかで、社会の紐帯を失った市政の人々は新しい道を模索してさまよっている。衰退した南部のタバコ農家をあきらめてバイオ燃料に賭ける企業家、ラストベルトの工場労働者からコミュニティー・オーガナイザーへと転身したシングルマザー、政治的理想と利権の間で揺れるワシントンのインサイダー、インターネットの未来に疑問を抱くシリコンバレーの億万長者……。救済と成功を求め、自力で道を探すほかない人々の人生を丹念に追いながら、物語は編み上げられていく。綻びゆくかつての超大国の姿を透徹した視点で描き切り、本国で高い評価を得た話題のノンフィクション。全米図書賞受賞(ノンフィクション部門)・ニューヨークタイムズベストセラーの話題作。
邦訳で700ページを越す大著ではあるが、僕自身が読後に「『ゼロ・トゥ・ワン』のティールと米国社会の変容『綻びゆくアメリカ』」として感想をまとめたように、アメリカという国に余裕がなくなり、社会の綻びが修復しようがないほどに広がり、そして次第に人々の暮らしが蝕まれていく様を余りにもリアルに活写した本書は、トランプ大統領が誕生した今こそ、やはりもう一度そしてさらに広く読まれるべき一冊と言えるだろう。
さて、ニューヨーク・タイムズ紙がリストアップした「トランプを理解するための6冊」だが、その中のもう一つがようやく翻訳出版された。それがこの『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』である。タイトルに含まれている「ヒルビリー」とは田舎者の意味であり、まさにサブタイトルにある通り「アメリカの繁栄から取り残された白人たち」を指す。
アメリカという超大国でトランプという新大統領が誕生した背景をよりよく理解し、そして今後のアメリカの行く末を考える上でも、欠くことのできない一冊であるのは間違いない。洋書で読んでいなかった僕自身も、今回の邦訳出版に感謝しつつ、この機会にじっくりと読んでみたいと思う。上記の『綻びゆくアメリカ』と合わせ、春休みに時間をかけて読書するには最適の本なのではないだろうか。
無名の31歳の弁護士が書いた回想録が、2016年6月以降、アメリカで売れ続けている。著者は、「ラストベルト」(錆ついた工業地帯)と呼ばれる、オハイオ州の出身。貧しい白人労働者の家に生まれ育った。回想録は、かつて鉄鋼業などで栄えた地域の荒廃、自分の家族も含めた貧しい白人労働者階級の独特の文化、悲惨な日常を描いている。ただ、著者自身は、様々な幸運が重なり、また、本人の努力の甲斐もあり、海兵隊→オハイオ州立大学→イェール大学ロースクールへと進み、アメリカのエリートとなった。今やほんのわずかな可能性しかない、アメリカンドリームの体現者だ。そんな彼の目から見た、白人労働者階級の現状と問題点とは? 勉学に励むこと、大学に進むこと自体を忌避する、独特の文化とは? アメリカの行く末、いや世界の行く末を握ることになってしまった、貧しい白人労働者階級を深く知るための一冊。
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