あの伝説の一戦「3連勝4連敗」から9年|羽生善治・永世七冠誕生
2017年12月5日、長い将棋の歴史に新たな偉業が刻まれた。羽生善治が竜王位を奪還し永世竜王となり、その結果として7タイトル全てで永世称号を獲得したのである。もちろん史上初、前人未到の大偉業であり、これを次に達成できる棋士などいるのだろうか、というほどの圧倒的な記録だ。
今年は史上4人目の中学生プロ棋士となった藤井聡太の大躍進など、将棋界に大きなニュースが相次いだ。しかし、今年一年を締めるに相応しい風格を漂わせるのは、やはりこの人、羽生善治を置いて他にない。新聞等各ニュースでも大々的に報じられたように、もう本当に驚異的な実力であり、いくら人工知能が人間の棋士を凌駕するようになった今でも、こんな偉業を自分の目で見ることができる感動は、何物にも代えがたい。
そんな今回の大記録を打ち立てた羽生善治だが、もちろんここ至る足跡も圧倒的だ。そしてその歩みを理解するのにベストの一冊が本書『羽生善治 闘う頭脳』だ。将棋ファン以外にも、羽生の凄さを的確に伝える素晴らしい記録となっているので、ぜひこの機会に読んでみて欲しい。
15歳でプロ棋士になってから30年、将棋界のトップランナーとして走りつづける天才・羽生善治。その卓越した思考力、勝負力、発想力、人間力、持続力はどこから湧き出るのか―。勝負と格闘してきた日常より生まれた彼の言葉は、将棋の枠だけには収まりきらない深い含蓄に溢れている。ビジネスにも通じる発想のヒントが満載です。
そしてもう一つ、僕が今回の「永世7冠」達成の報を知って思い起こしたのが、9年前のあの伝説の一戦である。2008年に行われた第21期竜王戦七番勝負。当時、渡辺竜王に羽生名人が挑んだ、名人対竜王という将棋界2大タイトル・ホルダー同士の対決というだけでなく、この勝負を制した方が史上初の永世竜王位を獲得できるという意味でも、極めて注目度が高かったあの試合だ。
フランス・パリで行われた第1局で勝利を飾った羽生善治名人が一気に3連勝をおさめ、いよいよ永世竜王位にあと一勝と手が届きかけたそこから、渡辺竜王の反撃が始まり、まさかの4連勝で大逆転勝利で永世竜王に輝いた、あの伝説の名勝負。奇跡ともいえる将棋タイトル史上初の「3連敗からの4連勝」で、将棋界に衝撃を与えた渡辺明。しかし、羽生善治が受けた衝撃はそれ以上だったと言ってもよいだろう。
当時の羽生の心境が明かされたのが、自身がその後に著した名著『大局観』の中においてだった。負けた羽生はこの戦いのことを深く振り返りこう語る。「ただ、一つだけ言えることはこの『三連敗四連勝』で私の棋士としての人生観にも変化が訪れたのであった」と。本書も稀代の名棋士が著した傑作として、ぜひもっと多くの人に読んでもらいたい一冊だ。
すべては決断から始まる。勝敗を左右する判断。直感と経験はどちらが正しいか。現役最強の著者が勝負の哲学を徹底公開する決定版。大ベストセラー続編。考え抜いても結論がでなければ「好き嫌い」で決めていい。年齢を重ねるごとに強くなる「大局観」の極意を公開。60歳、70歳でも進化する勝負の法則、直感力・決断力・集中力を極める。
そんな大激戦を制して史上初の永世竜王に就いた渡辺明もその後の著書『勝負心』で、この伝説の一戦を振り返る。そして本書の何よりの特徴となっているのが、行間から溢れ出る、渡辺の羽生に対する尊敬と畏敬の念である。将棋界の頂点に立つこの二人が幾たびと相まみえ激闘を繰り返してきたのがここ十年の将棋界であり、だからこそ同じ一線を両者の視点で振り返るのは大変に興味深いと言えよう。
羽生善治が最も恐れる男。ゲンは担がない、将棋に運や調子は関係ない、すべて実力…現役で唯一羽生善治と互角に渡り合うトップ棋士が勝負を制する極意を語る。弱冠二十歳で棋界最高位「竜王」を獲得、五連覇で初代「永世竜王」、そして竜王戦九連覇を果たした著者が、「ゲンは担がない、将棋に運やツキは関係ない、すべて実力」という、徹底的にドライな勝負の極意を語る。
そう、あの伝説の一戦から9年が経つのである。歳を重ねて体力が弱まる一方で、若手棋士の台頭や、人工知能の躍進など、この9年間、羽生善治にとって心休まる瞬間など片時もなかっただろう。それなのに、同世代棋士たちの引退を見ながらも、この間ずっと第一線で戦い続け勝利を納め続けたという結果だけはなく、この9年もの間、トップの地位に慢心することなく、常に次のタイトルを目指し、向上心と日々の鍛錬を忘れず、貪欲に学び続けてきたその姿勢にこそ、われわれは今胸を熱くするのではないだろうか。羽生善治は不世出の天才棋士であると同時に、真理を追究する求道者として、長い長い将棋の歴史の中でいま圧倒的な存在感をさらに強くしているのである。「永世七冠」の称号は羽生にこそ相応しく、羽生以外の誰一人想定できないほどに、彼のためにこそ存在する栄誉なのだ。
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