オークション落札のバンクシー作品をシュレッダーで刻むという現代アート
公開日:
:
アート
先日は現代アートをめぐる大事件が発生した。こちらの記事等でも解説されているように、ロンドンのサザビーズで行われたアート・オークションにおいて、約1.5億円で落札された作品が、なんとその直後にシュレッダーで切り刻まれてしまったのである。そしてこれはもちろん事故ではない。
なにしろこの作品は、覆面のまま活動を続ける現代アーティスト Banksy によるものなのだから。そのバンクシーは自ら “The urge to destroy is also a creative urge.” とコメントし、今回の行為が事前に周到に準備されたものだったと明かした。アーティスト本人の意志により、オークション会場の最後で手が加えられ、まさにその場で変貌したアート作品として、注目度・希少性がさらに高まり、その価値はもちろんのこと現代アート史に残る「事件」となったのである。
そして、こうした「事件」の積み重ねが現代アートの歴史でもある。その昔、マルセル・デュシャンが便器にサインしただけのものをアート作品として出品した「便器事件」もまた、当時のアート界に喧喧囂囂の議論を巻き起こしたものとして記憶されている。つまるところ、何がアートなのか、という点において、これが新しいアートの形だと提示することこそが現代アートの特徴でもあり、今回のBanksy による「シュレッダー事件」にもつながってくるのだ。
そんな現代アートの世界を理解するための優れたガイドブックとして以下3冊をおすすめしたい。なにが芸術なのかそもそも分からない、こんな作品なら幼稚園児でもつくれる、そう思うのも当然だ。だがしかし、現代アートには現代アートのきちんとした文脈があり、それに沿った上で新しい価値を付け加える、そのひと手間が必要不可欠なのである。日本を代表する現代アーティストの村上隆もその著書の中で述べているように、世界の舞台で認められるためには、その literature を理解し、自作品の contribution を明確にし、かつそれをきちんと売り込むための strategy が必要なのである。まさに研究者の論文発表と同様の取り組みを、現代アーティストたちもまた日夜行っているのである。その意味でも、研究者こそ現代アートの世界とその舞台裏を知っておくとよいのではないだろうか。
Amazon Campaign
関連記事
-
越後妻有アートトリエンナーレ「大地の芸術祭」|おすすめの読むべき4冊と訪れるべき5ヶ所
「今年の夏は「大地の芸術祭」越後妻有アートトリエンナーレへようこそ!」で紹介したように、今年は3年に
-
東京藝大で教わる西洋美術の見かた|基礎から身につく「大人の教養」
2022年1月3日から、BSイレブンで新番組「東京藝大で教わる西洋美術の見かた」が始まる。これはぜひ
-
上野公園に3時間の大行列|伊藤若冲展に行ってきた
「生誕300年記念の伊藤若冲展に行こう」と書いてから早一ヶ月。今回の若冲展もいよいよ明日5/24(火
-
稀代の絵師・伊藤若冲の作品群が日本に里帰り
ここ数年、日本美術がもの凄いブームと言ってよいほどの盛り上がりを見せているのはご存知の通りだ。そして
-
アートで生まれ変わった清津峡渓谷トンネル|越後妻有アート・トリエンナーレ「大地の芸術祭」の舞台へ
9月の連休を皮切りに、これから秋の行楽シーズンがはじまる。もちろん今年はコロナ禍でこれまでと同じよう
-
美術アークションに参加してみた|ついに現代アート作品を購入!?
現代アートを買おうと思いたち、ひとめぼれした作品を衝動買いしてしまった、という経験をおもちの方はあま
-
2020年の夏は2つのバンクシー展が開催
以前に「オークション落札のバンクシー作品をシュレッダーで刻むという現代アート」と紹介したように、常に
-
日本に残る最後の秘境へようこそ|東京藝術大学のアートでカオスな毎日
いよいよこの書籍が文庫化されましたね。そう、2016年に出版され大きな話題となった一冊『最後の秘境
-
生誕300年記念の伊藤若冲展に行こう
さて先日から東京都美術館で始まった「若冲展」。生誕300年を記念した大回顧展ということもあって、NH
-
誰もいなくなった東京にそして人が戻り始めた|中野正貴が切り撮るTOKYOの空気
9/27土曜日のTBS「情熱大陸」をひさしぶりに観た。今回どうしてもこの番組を見ようと思っていたのは
Amazon Campaign
- PREV
- 「お茶」が教えてくれる日々のしあわせ
- NEXT
- 米国Amazonの第2本社候補地選びがついに決着