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「お茶」が教えてくれる日々のしあわせ

10/13(土) から上映が始まった『日日是好日』。樹木希林の遺作となったこの映画、もちろん僕も見に行く予定だが、その理由は彼女の最後の姿を見るためだけではない。

 

 

実はわたくしも、茶道を習っているんです。まだまだ始めたばかりなんですけどね。それまで全く興味がなかったのに、なぜか茶道でも始めてみるか、なんていう気持ちになったのは、何年か前に読んだ、この映画の原作でもある森下典子著『日々是好日』の影響も無視できないのだ。

 

本書は、お茶なんて金持ちの道楽で、よく分からない礼儀や作法ばかりにうるさい、古き悪しき伝統でしょ、みたいに思っていた著者が(そしてもちろん僕自身もそう思っていたんですけどね!)、毎週稽古に通いお茶を点てているうちに今まで分からなかったことが次第に分かるように、見えなかった世界が徐々に見えるようになる、そんな日々を描いた、とても優しく温かなエッセイなのである。ぜひ映画を鑑賞する前に、もしくは鑑賞後にでも読んで欲しい原作だ。

「生きてる」って、こういうことだったのか!

五感で季節を味わう喜び、いま自分が生きている満足感、人生の時間の奥深さ……。「お茶」に出会って知った、発見と感動の体験記。今秋映画化!

お茶を習い始めて二十五年。就職につまずき、いつも不安で自分の居場所を探し続けた日々。失恋、父の死という悲しみのなかで、気がつけば、そばに「お茶」があった。がんじがらめの決まりごとの向こうに、やがて見えてきた自由。「ここにいるだけでよい」という心の安息。雨が匂う、雨の一粒一粒が聴こえる……季節を五感で味わう歓びとともに、「いま、生きている! 」その感動を鮮やかに綴る。

 

 

 

そしてこの映画や原作を通じて、茶道ってちょっと面白いかも、と思ってくれた人たちに次におすすめしたいのが以下の3冊である。一つ目は、『もしも利休があなたを招いたら』という実に秀逸なタイトルが付けられたこの一冊だ。武者小路千家若宗匠が、主人と客人との間にある人間関係を、現代的コミュニケーションの作法として再解釈する本書は、茶道なぞにまったく無縁のビジネスパーソン達にこそ相応しく、読んでもらいたい内容なのだ。

 

 

 

続いての一冊は、フィクション『利休にたずねよ』である。2014年に亡くなった山本兼一の代表作にして傑作。ここに描かれる利休の姿はあまりにも美しく、ゾッとするほどに冷たい。自分の美学を貫き、最後は秀吉に睨まれて自刃した利休の壮絶な人生を、こんなにも生々しく描いた作家は、山本兼一をおいて他にいないと思えるほどに、迫力をもって読者に迫る圧倒的な一冊なのだ。こちらもぜひ合わせて読んでみて欲しい。

 

 

 

最後に漫画の世界から『へうげもの』を激しくおススメしたい。先日はついに第25巻において堂々完結したこの漫画は、戦国の武士にして茶人・古田織部を主人公にしたユニークな作品だ。第14回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞するなど、各方面からの評価も高い。しかし、そんな栄誉ある賞なんかなくったって、この漫画はむちゃくちゃ面白いのだ。ここから茶道の世界をのぞいてみるのも、いいんじゃないかな。

 

 

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