ついに将棋界の頂点に|渡辺明・新名人のあまりにも遅かった到達
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最終更新日:2020/08/17
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「魔王」渡辺、将棋界頂点に 縁遠かった名人位、36歳でついに(毎日新聞)等の報道にあるように、ようやく、ようやくにして、将棋棋士・渡辺明が名人位を獲得した。加藤一二三、谷川浩司、羽生善治につづく、史上4人目の中学生棋士として、華々しく登場した渡辺のこれまでの活躍はご存知の通りであり、彼ら中学生棋士は、今回の渡辺の勝利によって、4人全員が名人位を獲得したことになり、やはりその若い頃からの天才ぶりを示している。ちなみに、今をときめく藤井聡太棋聖は、渡辺の後につづく5人目の中学生プロ棋士であり、もちろん彼にも将来の名人が期待されている。
藤井聡太、羽生善治、加藤一二三…「早熟な天才」の謎に迫る
第一章 最年少の新星・藤井聡太
藤井四段の自宅を訪ねる/盤に覆いかぶさった少年/両親は将棋を知らなかった/将棋のプロになるには/抜群の勝負強さ/語彙力豊かな藤井発言/豊富な読書量/得意科目、苦手科目/進学か将棋に専念か/シンギュラリティと藤井四段第二章 藤井将棋の強さと凄み
強さの源となった詰将棋/デビュー後の幸運/順位戦という制度/内容もすぐれた藤井将棋/角と桂馬を使い方がうまい/将棋ソフトをめぐるジレンマ/藤井四段はソフトを活用第三章 将棋の才能とは何か
周囲の人々の奇跡的な連携/中学生棋士に天才の家系はいない/何歳で将棋を始めるのがよいか/モンテッソーリ教育/よい指導法とは/好きなこと、得意なことを/将棋か東大か/子供の向き不向き/才能を社会に還元第四章 自分が中学生棋士だったころ
史上二人目の中学生棋士・谷川浩司/住職だった父の教え/兄の存在と負けず嫌い/成功体験が才能を伸ばした/奨励会に入会/早くから詰将棋作り/阪田三吉と将棋のイメージ第五章 中学生棋士たちの群像―羽生善治、渡辺明、加藤一二三
史上三人目の中学生棋士・羽生善治
局面を複雑にする羽生将棋/抜きんでた好奇心の強さ/ギアチェンジのうまさ/個性のないことの独特さ/羽生善治の弱点は?/勝負師、芸術家、研究者/羽生さんと私
史上四人目の中学生棋士・渡辺明
目立つ合理主義/渡辺さんの一貫した発言/羽生さんの永世七冠阻止
中学生棋士第一号・加藤一二三
さて、将棋にあまり詳しくはない人でも、羽生善治の名前くらいは知っているという人が多いだろう。それくらい羽生は、過去20年、30年にわたって、将棋界のスーパースターであり、数多くの一般向け著書や、テレビ番組・CM等への出演によって、お茶の間にも身近な存在であった。だから、渡辺明の名前は知らないという人にとっては、この渡辺こそが、全盛期の羽生の前に立ちはだかり、何度も名勝負を繰り広げてきた、もうひとりのトップ棋士だと知ったら、そのスゴさがより明確に伝わるのではないだろうか。19歳で竜王位を獲得した羽生には及ばなかったものの、若干20歳で竜王に就いてからは同タイトルを9連覇。2008年の竜王戦、羽生善治と初代永世竜王の称号をかけて激突したあの一戦は、渡辺3連敗からの4連勝という、新たな伝説となったのだ。
この20年、将棋界は“羽生善治”という巨星を中心に回ってきました。今、その巨星に劣らない輝きを放っているのがこの男。史上4人目の中学生棋士としてプロデビューし、弱冠20歳で棋界最高位「竜王」に上り詰め、そのまま5連覇して「初代永世竜王」の称号を得た渡辺明さんです。1970年前後生まれの“羽生世代”に、一回り以上年少の渡辺さんが単身渡り合っている、という状況がもう10年ほど続いています。7割近い通算勝率を誇り、唯一、羽生善治と五分の星を残している彼の強さの秘訣はどこにあるのか? 「ゲンは担がない。将棋に運やツキは関係ない。すべて実力」と言い切る渡辺さんが、人間同士が対峙する将棋という勝負の厳しさ、奥深さ、そしてその一見ドライなスタイルの裏に隠し持った勝負を制するために必要な心構えを惜しみなく語り尽くします。
これだけの成績を残しながら、それでもなお、これまで渡辺と縁がなかったのが、今回彼がようやく獲得した名人位だったのである。竜王と名人、両方を得てはじめて将棋界トップ・オブ・トップの第一人者と見なされるなか、これまでの渡辺はその実力と反比例するかのように、名人タイトル戦への挑戦権すら得ることができていなかったのだ。上記毎日新聞でも以下のように記されているように、中学生棋士として鳴り物入りのデビューを果たした渡辺だったが、次第に後輩に抜かれるようにして、名人戦からはますます遠のいていったところであった。
しかし、名人戦・順位戦では苦労した。一番下のC級2組から名人戦の挑戦者を決めるA級にたどりつくまで10年を要し、そのA級でも、挑戦権を得ることもないまま8期目でB級1組に陥落した。渡辺と付き合いが深い村山慈明七段(36)は「順位戦は持ち時間が6時間と長く、手番も事前に決まっている。先手番が研究を生かしやすく、渡辺さんは後手番の将棋で苦労していた印象だ」と話す。 16年には佐藤天彦九段(32)が28歳で、昨年は豊島が29歳で名人位をつかんだ。渡辺は「最初にA級に上がったときは、メンバーの中でも断然若かったので、名人戦に出るチャンスはあるかなと思っていた。しかし、後輩が名人戦に出るようになり、名人戦への意識が遠のいていった」と当時を振り返った。
だからこそ、B級1組に降格してからの大復活と、連戦連勝の末に手繰り寄せた名人への挑戦、そして4勝2敗でタイトルを勝ち取ったいま、万感の思いであることだろう。若き中学生棋士が、プロデビュー20年をかけて辿り着いた、将棋界の頂上。これまでで4番目の年長記録と、苦労のすえに得たこの称号をぜひしばらくは持ち続け、藤井聡太をはじめとする新生代の前に立ちふさがる「魔王」であり続けて欲しい。ただし、将棋盤の前とは違い、渡辺明の日常は、とてもカワイらしいものなのだ。普段しることのない彼の日々の暮らしや言動を、おもしろおかしく紹介してくれるのが、渡辺明のおくさん・伊那めぐみが描くこの漫画『将棋の渡辺くん』だ。控え目にいってもサイコーすぎるこの漫画、本当にいい夫婦・家族だなぁとほっこりすること間違いなし。渡辺新名人だけでなく、そんな奥様にも、おめでとう!
将棋棋士は人類の代表! 将棋を指して生活している。懸命に勉強し、年に50局くらい戦い、勝てば笑い、負ければ自分のせい。勝ち負けだけに支配された世界。それはまるで人生の縮図だ。棋士は、どんな人たちなんだろう? 何を食べて、何時間寝ているんだろう?勝負師でも無頼でもない、リアルな将棋棋士の毎日を棋士の妻が漫画にしました。ノンフィクションです!
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