Kindle電子書籍で手に汗握って読む、箱根駅伝をより面白くするこの3冊
いまや国民的イベントにまで人気が拡大した、正月の風物詩・箱根駅伝。僕も含めて毎年楽しみにしている人は多いだろうが、そんな人たちにお勧めしたいのが堂場瞬一の『チーム』である。
箱根駅伝の出場を逃した大学のなかから、予選で好タイムを出した選手が選ばれる混成チーム「学連選抜」。究極のチームスポーツといわれる駅伝で、いわば“敗者の寄せ集め”の選抜メンバーは、何のために襷をつなぐのか。東京~箱根間往復217.9kmの勝負の行方は――選手たちの葛藤と激走を描ききったスポーツ小説の金字塔。
さて、この『チーム』の面白さは、なんといっても「学連選抜」に注目した点にある。出場を逃した各大学のエースを集めたこの混成チームが、これまでの箱根駅伝を盛り上げてきたことは間違いない。さらには、こうした敗者の選抜チームから、その後活躍する選手が生まれたことも見逃せないだろう。その典型例が現在、公務員ランナーとして毎回注目が集まる川内優輝である、学習院大学時代に学連選抜の選手として箱根に出場したことが彼の基礎であり支柱ともなっている。
また、今年からは「学連選抜」という名称および関連ルールが変更となったが、過去の大会では、この学連選抜がシード圏内に入るかどうかも、箱根駅伝の大きな見どころとなっていた。いずれにしろ、箱根駅伝を舞台にした小説の中では、この混成チームに焦点を当てたという視点の鋭さもあって、圧倒的に読み応えのある一冊となっている。

photo credit: Chema Concellon via photopin cc
続いておすすめしたいのが、同じく堂場瞬一著の『ヒート』である。上記『チーム』と合わせて読むべき理由は以下に述べる通りだ。
日本男子マラソンの長期低迷傾向に歯止めをかけるべく、神奈川県知事の号令のもと新設された「東海道マラソン」。県庁職員の音無は日本陸上界の至宝・山城悟のペースメーカー役に、孤独なランナー・甲本剛を起用する。果たして世界最高記録達成はなるか。数多の人間の欲望と情熱を乗せたレースは、まさかの展開に―。
箱根駅伝を描いた上記『チーム』の続編にあたる本書『ヒート』では、今度はマラソンに焦点を当てる。山登りや下りを始めとする箱根駅伝の特有ルールが、日本の男子マラソンを弱体化させているという指摘はよく聞くものだが、そういう批判をする人の多くも、それではいかに男子マラソンを強化するべきかという具体的な提案には乏しい。
それに対し、本書『ヒート』では、日本が男子マラソンで世界記録を樹立するという壮大なゴール達成に向け、関係者が暗躍するさまが生々しく描かれる。それは選手が速いことだけではなく、タイムが出やすいコース設定から、完璧なペースメーカーの用意まで、舞台裏での準備が必要になるのである。「箱根からマラソンへ」という掛け声を白々しいものとせず、リアルな到達可能目標とするためには、単にレースに参加するのではなく、ゲームのルール作りから深く関わっていくという、この小説で描かれるくらいの執念が必要なのだろう。前作『チーム』と同様に、単なるマラソン小説ではない、視点のよさが光る快作となっているのが、この続編『チート』なのである。
そして最後に紹介したいのが黒木亮の『冬の喝采』だ。経済小説のベストセラー作家として知られる黒木亮が、じつは早稲田大学在学中にあの瀬古選手とともに箱根駅伝を走っていたなんて、本書を読むまで知らなかった。そういうノンフィクションの要素を多く含んだ箱根駅伝小説の傑作が本書だ。
この2015年大会からは、先ほど述べたような従来の学連選抜に関するルールや、山登りと下りのコースに関して等々、いくつかの変更が加えられ、新たな見どころも増えた。今後の箱根駅伝をさらにより面白く見るためにも、駅伝ファンにはここで紹介した3冊をぜひともおすすめしたい。
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