*

組織を動かす実行力|結果を出す仕組みの作り方

公開日: : オススメ書籍

新刊『実行力』を興味深く読んだ。本書は、ご存知橋下徹が、これまで大阪府知事として、そして大阪市長として、組織を変え、人を動かし、様々な改革に取り組んできたその背景を自ら語ったものである。

38歳で大阪府知事に就任し、数々の改革を成し遂げてきた橋下徹氏。
大阪府庁1万人・大阪市役所3万8千人の職員、組織、そして国をも動かして結果を出してきた秘訣とは何か。

●リーダーに必要な考え方
●部下と上司を動かす方法
●理想的な組織の在り方

橋下流「君主論」の全貌を明かす。

 

本書の読みどころはいくつかあるが、個人的には以下の3点にとくに関心を持った。一つ目は、大阪都構想に至った大阪府と大阪市の対立、そして構想実現に向けた実行プラン策定についてだ。具体例とともに、府と市の間でこんなにも断絶が深いのかと改めて思わざるを得ない。そして最終的には住民投票で負けるものの、都構想実現に向けて周到な準備を重ねていくわけだが、それを今のイギリスの Brexit と比較分析しているのが面白い。つまり、大阪都構想は、すでに法律改正も済ませ実現可能なプランとなっていたが、一方の Brexit は、実行に向けたステップすら事前に定めぬまま国民投票に図った結果、実現に向けて今なお紛糾と迷走が続いているという指摘である。

 

二つ目は、組織内情報共有とトップとしての謝罪について。何らかの事態でトップ自らが謝らねばならない場合、組織の中で中にが起こったのが、可能な限り情報を集め、その上ですべて正直に話して謝る姿勢が大事だということ。それが次の機会の再起へとつながるが、万が一にも後から不手際が判明すればその再起可能性の芽さえ潰してしまうという指摘だ。これは最近の吉本興業を取り巻くもろもろの謝罪会見を見て痛切に感じるべきことだと思う。

 

三つ目は、トップとしてリーダーがやるべきこととやるべきでないことの峻別についてだ。トップ・マネジメントは必ずしも現場の専門家ではないのはもちろん、そもそも専門家になる必要もない。しかし、専門家たちが現場の意見として挙げてくる内容を精査し判断し、そして最後は自分の責任で承認する必要がある。その際、どのように専門的意見をジャッジするのか、組織内の異なるグループで討論させたり、そもそも自分に反対意見を持っている人材を取り込んだりと、ありとあらゆる策を講じて、ベストと考えられる意思決定をくだす。そのリアルで生々しい、ひりひりするような決断の連続も、本書の読みどころとなるはずだ。

 

橋下徹氏のことを支持していてもそうでなくても、大阪都構想に興味があってもなくても、本書は、組織の長となり、人を動かし、事を成していくためには何が必要なのかを考える、格好のケーススタディとなるはずだ。その意味ですべてのビジネスパーソンにおすすめできる一冊だと思う。

 

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

夏休みに素敵な1冊を探そう|知的好奇心旺盛な10代のための読書地図

いまどき新聞なんてほとんど読まない、そんな人が増えてきた現代である。しかしながら、書評欄を楽しみに週

記事を読む

アメリカ連邦最高裁判事9人<ザ・ナイン>が歴史をつくる「この国のかたち」

米連邦最高裁判事ギンズバーグの死去とその後任選びで、目前に控える米国大統領選挙がさらに混沌としてきた

記事を読む

japanese dictionaries 1

明鏡国語辞典の最大の特徴は「問題な日本語」に対する答え

国語辞典編纂という仕事は、とても重要なものなのに一般に知られることがほとんどない。その職務内容やそこ

記事を読む

越後妻有アートトリエンナーレ「大地の芸術祭」|おすすめの読むべき4冊と訪れるべき5ヶ所

「今年の夏は「大地の芸術祭」越後妻有アートトリエンナーレへようこそ!」で紹介したように、今年は3年に

記事を読む

container boxes

プロフェッショナルのコンテナ物語

昨晩ひさしぶりにNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀 』を見た。「港のエース、ガンマンの絆」と題

記事を読む

「もっとヘンな論文」がついに登場|アカデミック・エンターテインメントの最高峰

NHK Eテレの番組「ろんぶ~ん」をご存知だろうか?ロンブー淳が司会を務める、アカデミック・エンター

記事を読む

サッカー監督の戦術と采配|究極のファインプレー

7/6水曜にNHKで「サッカーの園〜究極のワンプレー〜ワンプレーに秘められた極意 サッカーの神髄に迫

記事を読む

論文捏造はなぜ繰り返されるのか?科学者の楽園と、背信の科学者たち

先週は、小保方晴子氏の論文「学位取り消しに当たらず」(NHK)との報道が新たな議論を引き起こしている

記事を読む

アカデミアへの転身と、アカデミアからの転身

日本テレビの桝太一アナウンサーが、16年間在籍した同局を今年3月で退社し、4月からは同志社大学ハリス

記事を読む

ゲーマーとお金|さらなる有望産業 eスポーツビジネス

ご存知のとおり今回の東京五輪からは、スケートボードや、サーフィン、そしてスポーツクライミングといった

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑