春の入学・進級・入社シーズンに絶対おすすめの国語辞典3選
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最終更新日:2021/01/09
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3月は日本全国いたるところで卒業式が行われる。小学校を卒業して中学生になれば電車もバスも大人運賃だ。中学校を卒業して高校生になれば体格ももう大人と同じ。高校を卒業して大学生になれば車も運転するし二十歳からは酒もタバコもOKだ。そして大学を卒業して働くようになれば、まさに新しい社会人のひとりとなる。
こんなふうに、卒業とは一歩一歩大人に近づいていくステップであり、そんな大人に欠かせないアイテムの一つが「国語辞典」なのだと思う。3月の卒業式に続けてやってくる、4月の入学式と始業式そして入社式のシーズン。そんな入学・進級として新年度を迎える、または社会人としての新たなスタートを切るこの時期は、国語辞典を購入するベストタイミングでもある。今でも入学のお祝いに国語辞典をプレゼントする人も多いだろうし、今年からもっと勉強するぞと意気込む人も多々いることだろう。
そんな人たちにぜひおすすめしたいのが、以下の3冊の国語辞典である。種類が豊富な国語辞典だが、実はそれぞれにとても個性があるというのがポイントだ。実際に Amazon ランキング を見ても、多種多様の国語辞典が並んでいるのがよく分かるだろう。辞書なんてどれも似たようなもの、というのは大いなる誤解なのである。だからこそ、自分に合ったぴったりの一冊を見つけて頂きたいし、以下で3冊を詳しく紹介してみたい。
まず最初のおすすめが三省堂国語辞典。通称「サンコク」と呼ばれて親しまれているこの国語辞典は、なんといっても現代語に強いことがその最大の特徴となっている。辞書は言葉の実態を映す「鏡」であるべきという哲学が貫かれており、最新第7版では「ゆるキャラ」や「婚活」そして「ゲリラ豪雨」といった現代言葉までもが収録されている。こうした新語を文字通り体を張って収集する編纂者達のユカイでオカシな生態は、光文社新書『辞書を編む』で詳しく紹介されており、読んだら間違いなくこの三省堂国語辞典のファンになってしまうことだろう。それくらい活きのいい辞書なのである。
2冊目のおすすめは、同じく三省堂から出版されている新明解国語辞典だ。通称「シンカイさん」の新明解の凄みと面白さを世に知らしめたのが、惜しまれつつ亡くなった赤瀬川原平の『新解さんの謎』である。この一冊は、新明解国語辞典がものすごい「人間くささ」を有していることを指摘した傑作であり、赤瀬川はそこに編纂者の山田忠雄の人生哲学を見る。しかも、実はこの山田は、上記の三省堂国語辞典の編纂者・見坊豪紀とは東大の同期であり、かつ一度は三省堂にて同じ辞書づくりに励んでいた盟友だったのである。それなのに、そんな同志がなぜその後袂を分かち、全く異なる個性をもつ別個の辞書を出版することになったのか?その国語辞典史上最大のミステリーに迫ったのが、傑作ノンフィクション『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』だったのである。そんな山田が命をかけた新明解国語辞典は、Amazon 国語辞典売上ランキング にも現れているように、いま日本で一番売れている辞書なのである。
最後に3冊目として推薦したいのが、岩波国語辞典(通称「イワコク」)だ。三省堂国語辞典のように新語に強くはないし、新明解国語辞典のように個性的な語釈で勝負しているわけでもない。それなのに、いやそれだからこそ、この岩波国語辞典には安心感と安定感があるのである。辞書に新たな言葉を載せるということは、それが公に認められたものであるという認識を与えかねない。また、今後何年にも渡って辞書に載せるべき新語と、今だけの単なる流行語とをどこで線引きするのか、という難しい問題もある。だからこそ、この岩波国語辞典のような保守的でオーソドックな編纂哲学は、上記2冊にはないまた別の強みとなっているのである。三浦しをんの名作『舟を編む』の中で、「右」という言葉をどう定義するかという印象的なシーンがある。そのエピソードと名語釈は、じつはこの岩波からのものなのである。
というように、以上おすすめの国語辞典を3冊を紹介してみた。なぜベスト・オブ・ベストの一冊に絞らないのかと言われたら、そりゃあもう最初に言ったように、この3冊だけみても全然異なる個性を持っているからなのである。だからこそ、自分が国語辞典に何を期待しているのか、を意識することが大切であろう。現代語を調べる機会が多いなら三省堂国語辞典がぴったりだし、堅苦しい言葉の定義にとどまらず実社会で意味するところを知りたいなら新明解が相応しい。言葉を映す「鏡」である三省堂国語辞典とは対照的に、言葉を正す「鑑」としての役割を辞書に求めているならば、岩波国語辞典が選ぶべき一冊と言えるだろう。
最後に、国語辞典についてもう少し詳しい解説は以下をご参考に。
そしてここで紹介した3冊以外に、もっと多くの辞書とその特徴について知りたければ、ぜひ以下の『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』を読んでみて欲しい。辞書芸人のサンキュータツオ氏による、国語辞典に対する愛に満ち溢れた素晴らしい一冊となっている。
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