英語をイメージと塊で捉える『英会話イメージリンク習得法』
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先日放送されたテレビ番組「情熱大陸」の主役は、通訳者・橋本美穂。ピコ太郎のギャグ等、いったいぜんたい、そんな日本語をどうやって英語に翻訳したらいいのよ!?という難問と苦闘しながらも、瞬時に対応できる技術とセンスを持ち合わせているのが、この橋本美穂氏なのである。
ボクシングで6階級を制覇したマニー・パッキャオや梨の妖精ふなっしー、そしてシンガーソングライターのピコ太郎まで。時代を彩る旬の人々の外国人向けの会見で通訳を務め、その卓越した技術と表現力が話題になっている橋本美穂。ただ言葉を変換するだけでなく、スピードや発声のタイミング、間にもこだわり抜き、更には喜怒哀楽を声に盛り込むことで、話し手のキャラクターやその瞬間の気持ちの抑揚までを聞き手に伝える。ふなっしーの会見では、英語の文末に「なっしー(nassyi)」をつけて会場を沸かせ、ピコ太郎の会見では、「それをどう英語にするって言うの!?」とツッコミたくなるような独特のギャグやダジャレも絶妙な表現で通訳し、彼の持つ愛やユーモアを世界に伝えようと奮闘した。
人気番組なのでご覧になった方も多いだろうが、もしも見逃してしまったのなら、今ではテレビ放送後一週間以内であれば、TBSの公式サイトでも動画を試聴することができるので、ぜひ見てみてください。さて、そんな情熱大陸を見て思い出したのが、この英語テキスト『英会話イメージリンク習得法』だ。Kindle版なら現在なんと82%オフという超大幅値引き中(しかも Kindle Unlimited メンバーなら無料)。非常にお買い得の本書、なかなか実にユニークな英語学習本だったので、ここで改めて簡単に紹介しておすすめしたい。
本書ではまず初めに、文化的背景も含めた英語と日本語のギャップを指摘する。そしてそのギャップをブリッジすることの難しさ、つまり英語→日本語への変換が困難であることに着目し、英語を英語のまま理解しようと提唱する。その際に重要になるのが、英語が持つ「イメージ」を共有すること、そして語順も含めて英語を「ひと塊」で消化することなのである。
先の通訳者・橋本美穂の仕事も、この英語→日本語への通訳と、その逆に(ピコ太郎の例のように)日本語→英語を常にブリッジしていることになる。そんな橋本氏がインタビューの中でも述べていたのが、まさにこの言いたいことの「イメージ」を掴む、ということだったのだ。そして、そもそも相手(例えばピコ太郎)が何を言いたいのかを想定し、相手の視点で言っていることをイメージし、そのイメージを英語で伝える、という作業を通訳の現場でしているそうなのだ。そのことが、僕にとっては大変に印象に残る説明だったのである。
さて、そんな本書についてもう少し具体的に紹介してみたい。例えば序盤では、get や take といった英単語と一つの日本語に押し込めることの難しさを例に取り、「日本語の網」と「英語の網」が大きく異なっていることから解説を始める。だから、まずは英語の頭に切り替えることが大事なのである。そしてその理解の助けとして「イメージ」を挙げる。get はモノやコトに対しどういう行為なのか、take はヒトに対しどういう行動なのか、英語が備えるこうした「イメージ」を持つことで、英語のニュアンスのままに(日本語訳に結びつけることなく)理解することが可能になるのだ。
本書の中で僕が個人的に気に入っているのは、英語がもつ距離「感」と時制「感」について。この「感覚」が英語を理解する上で、もっと言えば相手の言動の中に隠れたニュアンスをきちんと理解する上でとても大事になる。例えば、相手にどう話しかけ、呼びかけるか。その際に重要になるのが自分と相手との距離感であり、その親しさの度合いによって、話しかけるトーンが変わってくる。
それ自体の解説はとくに目新しくはないだろうが、こうした距離「感」が他の様々な場面でも登場するというのが、僕にとっては新鮮だったのである。こういうことを解説した英語テキストはそう多くはないのではないだろうか。例えば、”It will rain tomorrow.” と “It is going to rain.” 日本語に訳すと一見同じように見えるこの文章だが、しかしながらそのセンテンスが内包するニュアンスは驚くほど異なる。気象予報士がお天気ニュースの中で使うのはどちらか、近所のおばさんとの会話で使うのはどちらか、という明確な違いがそこに存在しているのだ。
もう一つの距離感は、時制と関連する。過去・現在・未来の時制を「イメージ」した際、過去形は現在から遠ざかるという点で距離があり、その距離感が丁寧な物言いに繋がっているのである。日本の中学校では、”Will you go to the supermarket for me?” に対し、”Would you go to the supermarket for me?” はより丁寧な言い方だとは教えるが、なぜそうなのかを教えてはいないのではないか。でも、この距離を取って婉曲するという考え方は、英語理解に欠かせない非常に重要なイメージだと思う。
英語学習の難関の一つに仮定法がある。日本語に訳しにくいことから多くの英語学習者にとっての鬼門となっているわけだが、その際も上記の距離感とイメージがあれば、随分と理解の助けになるのではないだろうか。なぜ仮定法で過去形が用いられるのか?本書では “You could study.” というシンプルな例文を題材に、(1)過去形を使うことで現実から距離を取り、(2)そのことによって過去と現在の間に余白を生み出し、(3)その余白に「現実にはありえないことだけど」という少々嫌味っぽい気持ちを込めている、と解説する。そういう説明の仕方をする英語テキストは決して多くはなく、その点で本書は非常にユニークかつ役立つ一冊となっているのだ。
僕がこれまで読んで使って役立ててきた英語テキストの中でも、本書はとても鋭い視点でアプローチしている良書だ。それ以外にオススメしてきたテキストも、「リズム・トーン・メロディの強弱と切替で考える英語スピーキング」 や、「Kindle 版がいま大幅値下げ中の、おすすめ英語テキストまとめ」で詳しく解説したように、英語を英語のまま吸収し、リズムや塊として捉えるようアドバイスするものが多かった。具体的には以下のような参考書が大変役立ったのだが、もしも英語学習に王道というものが存在するのならば、こうしたアプローチなのではないかと僕は思う。
ドクターヴァンスの以下の2冊は、「英語で考えるスピーキング」でまさに紹介したように、『英会話イメージリンク習得法』と同様に、英語→日本語へと変換せず、英語を英語のままに理解することを勧めている。
一方「英文ライティングおすすめ参考書」の中の一冊として推奨した以下の”Understanding Style” は、よい文章というものを sound & voice という観点から捉え直すという優れてユニークなアプローチを採用しているテキストだ。文章を読む際に、どの名詞・動詞・接続詞を強調して読んでいるか、そしてどこで息継ぎをして読んでいるかという「読み手側の論理」からの解説は、とくに英語ノンネイティブにとって役立つものだと言えるだろう。英語で考えるライティングとして推奨できる一冊だ。
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