NHK戦争特番:日本とアメリカとその狭間で
毎年夏が来る度にテレビ各局、新聞各誌が特集する太平洋戦争と終戦。その中でも個人的に強烈に印象に残っているのが、次の3つだ。
- 2009年のNHK『渡辺謙 アメリカを行く 第1回:星条旗の下に生きたヒバクシャたち』
- 2011年のNHK『渡辺謙 アメリカを行く 第2回:”9.11テロ” に立ち向かった日系人』
- 2013年のNHK-BS『長い旅路~日本兵になったアメリカ人<前後編>』
いずれも素晴らしい出来のドキュメンタリーなのだが、その『長い旅路』が先週NHK-BSで再放送されたのをご覧になっただろうか?
太平洋戦争が始まったとき、日本には4万人を超える日系アメリカ人がいた。アメリカで生まれ、戦前日本に渡った“日系二世”の多くが、日本軍に徴兵され、母国アメリカと戦った。差別やいじめにあい、スパイ扱いされた者。兄弟で敵味方に分かれて戦った者。通信傍受や宣伝放送の任務につかされた者。日本とアメリカ、2つの国のはざまで苦悩し続けた日系二世の戦争を描く。
日本から見た戦争論、アメリカから見た戦争論ではなく、その狭間で引き裂かれた日系アメリカ人という中間の立場に視点を置いたことが、これら一連のドキュメンタリーを類なきものとしているのは明らかだ。そして、これらの特番をアメリカで視聴したことがまた、僕の脳裏に強烈に焼き付いている理由でもある。
photo credit: VinothChandar via photopin cc
ともすれば、日本の歴史から抜け落ちてしまいがちな日系人の歴史を再確認するのに、これほど適した番組はないと思う。渡辺謙のシリーズ再放送も願いたい。また、これらドキュメンタリーをきっかけにアメリカ日系人の歴史に関心を持った僕が読んだのが、山崎豊子の『二つの祖国』そして真保裕一の『栄光なき凱旋』だ。どちらも徹底した取材をもとに描き切ったからこそ、リアリティ溢れる小説となっているのだろう。僕はこれらの小説を通じて、「イッセイ」「ニセイ」「キベイ」という言葉と、それらが言外に持つニュアンスを知った。
とくに、山崎豊子があるインタビューで答えていたのを思い出す。曰く、小説の良し悪しは題材選びにかかっており、日本とアメリカの間に立たされた日系人という視点を得たとき、この小説(『二つの祖国』)が絶対によいものに仕上がると確信したと。その視点に立った後は、山崎豊子のいつも通りもしくはいつも以上に拘った取材が、本書を物語性が高いながらも現実感に満ちたものとしているのだろう。
最後に、上記NHK-BSの『長い旅路~日本兵になったアメリカ人<前後編>』は、そのタイトルにも明示されているように、戦争当時、日本にいた日系アメリカ人に焦点を当てたものである。小説やドキュメントの題材としてはアメリカにいた日系アメリカ人が比較的多く取り上げられる中、もう一方の立場に注目したという点においても、このドキュメンタリーは企画構成が優れていたと思う。先週の再放送を見逃した方のためにも、ぜひこちらも再々放送を願いたい。
Amazon Campaign
関連記事
-
『ゼロ・トゥ・ワン』のティールと米国社会の変容『綻びゆくアメリカ』
米国の著名投資家ピーター・ティールが著した『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』が、「今
-
『ヤバい統計学』著者による新作『ナンバーセンス』で知る、アメリカ大学ランキングの舞台裏
以前に「テーマパーク優先パスの価格付け」でも紹介したように、カイザー・ファング著『ヤバい統計学』は、
-
年収は「住むところ」で決まる: The New Geography of Jobs
"How Professional Salaries Vary Around the Country
-
米国大統領選挙2020を前に|憲法でふりかえるアメリカ近現代史
コロナ禍もあって史上もっとも盛り上がらないと言われている今年のアメリカ大統領選挙だが、副大統領候補が
-
今年のノーベル経済学賞はアメリカの労働経済学者3名が共同受賞
今年のノーベル賞受賞者が発表されるなか、いよいよ経済学賞の受賞者が明らかとなった。それは、「『自然実
-
NHKアニメ『英国一家、日本を食べる』が毎回ハイクオリティで、つい新宿・思い出横丁に飲みに行ってしまった
「大ヒット『英国一家、日本を食べる』がなんとNHKでアニメ化|初回放送が予想以上におもしろかった」で
-
【TEDトーク】モニカ・ルインスキーとネットいじめ|彼女が見つけた適切な関係
モニカ・ルインスキーという名前を久しぶりに聞いた。といっても、その名を記憶しているのは、ある程度の年
-
【応募書類受付中】NASAが宇宙飛行士を新規募集|火星に行く大チャンス
もうご存知と思うが、アメリカの National Aeronautics and Space Adm
-
最強のトイレがアメリカに上陸。一方の日本では「トイレとうんち」展が大人気
僕はトイレに並々ならぬ関心を持っている。本当に。だから、国連が「11月19日は世界トイレの日」と定め
-
もう一度聞きたい、アメリカの大学卒業式スピーチ5選
アメリカの卒業式シーズンは5月だが、日本でいえば今がまさに大学卒業のピーク・シーズンである。だからこ