廃棄カツ横流し事件でよみがえる『震える牛』と食品・外食産業への不信
公開日:
:
ニュース
先日からニュースで大きく報道されている冷凍カツの横流し事件(NHKニュース「カツ横流しで業者 廃棄食品直接持ち込みも」)。おととし中国の工場で発生した期限切れ鶏肉とマクドナルドの一件を彷彿させるが、しかしこれは日本の食品・外食産業こそが抱える構造的な問題がふたたび露呈したとも言えるだろう。
以前に「食肉偽装とWOWOW連続ドラマW『震える牛』のリアル」で次のように書いたように、今回の冷凍カツ横流し事件からは、2007年のミートホープ事件こそを思い出さざるを得ない。
中国の工場で発生した期限切れ鶏肉の事件だが、これは別に、同工場もしくは同国の衛生管理技術の水準が低かったことだけが原因で起こったわけではないのかも知れない。なにしろ2007年、日本国内で一大ニュースとなったミートホープ事件(Wikipedia)は今も我々の記憶に新しい。そして、この事件をモデルにしたと考えられる『震える牛』(相場英雄)は、こうした食肉偽装が加工会社だけでなく、大手スーパーそして警察までを含めた構造的な問題として引き起こされているという、あまりにも深い業界の闇を描いたフィクションだ。
そのミートホープ事件を下敷きにしたと考えられる相場英雄『震える牛』はフィクションでありながらも、食品加工会社や大手スーパーの内情を描いた様はあまりにも生々しい。そして、本作をさらにドラマ化したWOWOWの『震える牛』では、廃棄食品を配合して安い肉を作り出そうとする食肉加工会社の社長と、それを知ったジャーナリストがファーストフードやファミレスで肉を見るたびに吐き気をもよおすシーンが映し出され、これがまた恐ろしいほどにリアルだったのだ(「食肉偽装とWOWOW連続ドラマW『震える牛』のリアル」)。
ミートホープ事件、中国の期限切れチキン、そして今回の廃棄冷凍カツ横流しを知るにつけ、この小説で描かれる食品・外食産業の状況をフィクションだと言い切れる人は少ないのではないだろうか。そしていま本書が品切れとなっていることは、消費者の関心がそれだけ高まっていることを表しているように思う。単なるエンターテインメントとしてではなく、現代の闇を抉った社会派フィクションの傑作として、今こそ読み返されるべき一冊であろう。
消費者を欺く企業。安全より経済効率を優先する社会。命を軽視する風土が、悲劇を生んだ。超弩級、一気読みエンターテイメント。
Amazon Campaign
関連記事
-
-
サッカー監督の経済学:シメオネ率いるアトレチコ・マドリードの躍進
スポーツ選手の成績は数字に如実に表れる。野球の野手なら打率や本塁打数、投手なら奪三振数や防御率といっ
-
-
中学生プロ棋士・藤井聡太四段の新たな歴史的偉業
快進撃を続けていた若干14歳のプロ棋士・藤井聡太四段が、ついに、なんと、歴代連勝記録の単独トップとい
-
-
囲碁タイトル7冠同時制覇|井山裕太と師匠・石井邦生が創りだした盤上の宇宙・独創の一手
すごいな、井山裕太。大きなニュースとなったことで、囲碁ファン以外にも伝わったであろう、7冠同時制覇へ
-
-
ニューヨーク・タイムズが選ぶ、2021年版「愛すべき世界の52か所」
ニューヨーク・タイムズ紙による、年始の恒例特集 "52 Places to Go" だが、コロナ禍に
-
-
捏造と背信の科学者:繰り返される不正と、研究者の責任ある行動
STAP細胞の件で改めて考えさせられたのは、なぜこの一件だけではなく、研究不正・論文捏造がこれほどま
-
-
ニューヨーク・タイムズが選ぶ、今年絶対に行きたい世界52ヶ所:2016年版
さて今年もこのシーズンがやってきましたね。ニューヨーク・タイムズ紙が発表する「今年絶対に行きたい世界
-
-
米国Amazonの第2本社候補地選びがついに決着
1年以上に渡って注目を集めてきた、米国アマゾンの第2本社候補地選び。5万人以上の雇用を生むというこの
-
-
ゲーム理論とサッカーW杯そしてPK戦:なぜネイマールは右へ蹴ったのか?
ブラジルで開催中のサッカーW杯もいよいよベスト8。ますます眠れない夜が続く。さて、今回のワールドカッ
-
-
将棋竜王戦ランキング戦決勝|杉本八段と藤井七段の師弟対決が素晴らしかった
前回、「藤井聡太七段が先勝|現役最強棋士・渡辺棋聖とのタイトル戦」でも書いたように、いま将棋がむちゃ
-
-
地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂
J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4戦を終えたばかりとはいえ現在負

