強く美しく華やかに|藤井聡太・新王位が生まれた盤上の宇宙
公開日:
:
ニュース
将棋タイトル王位戦、藤井聡太棋聖が木村一基王位に開幕から3連勝で迎えた第4局、しびれたねぇ。テレビや新聞をはじめ、どこでも大々的に報じられている通りだが、あの場面みてましたか? そう、あの封じ手をした初日の最終局面、そして翌日の封じ手開封のあの瞬間だ。後世まで語り継がれる一手が、またしても藤井聡太が繰り出された局面である。
プロ棋士だれもが解説していたとおり、あのような中盤で飛車を捨てるなんて、ふつうじゃない。しかも、王位のタイトル獲得がかかったこの重大な対局、この一局で獲れるか、それとも流れが相手に大きく揺り戻すのか、というような重要な一戦である。であればなおさら、負けない将棋、すなわち守りの姿勢をまずは徹底するのが、ふつうの精神なのではないだろうか。
だから、藤井新二冠は、誰でもない、圧倒的な存在なのだと思う。あの場面、彼にしか見えていない世界があったのだろう。次にどう展開するのか、その先が見える彼にとっては、いまここで飛車を捨て銀を取り、誰もが想定しない攻めを続けることこそが、最善の一手だったのだと。
藤井聡太はまちがいなく強い。それは次々と最年少記録を打ち立てていることからも、誰の目にも明らかだ。彼の将棋はまた美しくもある。盤上の駒をきわめて有効に使うだけでなく、持ち駒にも無駄がなく、ひとつひとつがそれこそ生き生きと活躍しているのだ。だけど、それだけじゃないんだよね。彼の将棋は、強く、美しく、そしてものすごく華やかなのだ。見ていて惹きつけられる。その一手一手に視線はくぎ付けとなり、そして王位戦第4局のように、ものすごく鮮やかな攻めで魅せる。
日本にいるプロ将棋棋士はせいぜい160名ちょっと、という狭き関門だ。そのなかでもトップ棋士となればごくわずかである。しかし、そのなかで、ここまで美しく華やかにそして鮮やかな棋譜を生み続ける棋士は、藤井聡太しかいない。あの封じ手が明らかとなった2日目の朝、僕はもうなぜか涙がこぼれるほど感動したのだ。それはきっと、彼が新しい将棋の宇宙をつくったその瞬間を目の当たりにしたという驚きと心の震えによるものだと思う。それを経験してしまうと、もはや彼の次の一戦、一局、そして一手からますます目が離せないのである。将棋ファンだろうとにわかファンだろうと、彼と同時代を共有する幸せ、を日々感じているところだ。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
いま囲碁がとんでもなく面白い:弱冠24歳の6冠井山裕太
先月のNHKプロフェッショナル「盤上の宇宙、独創の一手。囲碁棋士・井山裕太」を見た。あまりにも面白く
-
-
科学と度量衡の歴史|キログラムの定義が130年ぶりに変更
さて、先日のニュースでも大きく報道された通り、来年から「キログラム」の定義が変更されることとなった。
-
-
華麗な王者モハメド・アリと、そのアリになれなかった男|沢木耕太郎の名著『敗れざる者たち』と『一瞬の夏』を再読する
2016年6月4日、プロボクシングの元世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリが74歳の人生に幕を閉
-
-
プリンストン大学の研究に、フェイスブックが倍返し
WSJ「『フェイスブック滅亡』論文、物議を醸す」や、CNET「Facebook、ユーザー急減の予測に
-
-
世界大学ランキング最新版発表|英国オックスフォード大学が初のトップに
"Oxford Tops List of World’s Best Universities" とい
-
-
地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂
J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4戦を終えたばかりとはいえ現在負
-
-
サッカー監督の経済学:シメオネ率いるアトレチコ・マドリードの躍進
スポーツ選手の成績は数字に如実に表れる。野球の野手なら打率や本塁打数、投手なら奪三振数や防御率といっ
-
-
アメリカと日本と国際養子縁組
先日のTBSの番組「女児はなぜアメリカへ行ったのか?国際養子縁組を考える」を観た。 豊かな社会とは
-
-
サッカーW杯:絶対に負けられないファッションブランドの闘い
先日の「絶対に負けられないサッカー・ワールドカップの舞台裏:スポーツブランドのもう一つの闘い」では、
-
-
いまこそ本当の宇宙兄弟を目指す|13年ぶりの宇宙飛行士選抜試験いよいよ始まる
大ヒット漫画『宇宙兄弟』を挙げるまでもなく、僕らはみな子供の頃から宇宙が大好きだった。そして、あの頃