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Amazonキンドルが広げたコミック市場:ふだん漫画を読まない僕が鈴木みそにハマった

公開日: : 最終更新日:2014/12/07 オススメ漫画

昨年Amazon キンドルを買って以来、もう完全に手放せないアイテムとなっているのだが、その最大の理由はやっぱり電子書籍の安さだろう。

 

紙の書籍と比べて安い価格設定に加えて、しょっちゅうセールをやっているものだから、おおよそ毎回、紙書籍の半額の値段で電子書籍版を買っていることになる。これは大きい。何しろ同じ予算で2倍の本が買えてしまうのだから。そして安く買えるからこそ、今まで手を出すことがなかったようなジャンルの本であっても躊躇なく買ってしまうのだ。

 

例えば僕の場合は、今まで経済・ビジネス・語学・その他もろもろのノンフィクションを読むことが多かった。逆に、小説や漫画といったジャンルにはあまり関心を示してこなかったのだが、それがAmazonキンドルでがらりと変わった。とくに漫画。いやあこんなに沢山の面白い漫画があるなんて知りませんでしたよ!とくにハマったのが「鈴木みそ」の一連の作品。ご存じの方はもうとっくに知っている漫画なのだろうけれども、最近の漫画を全然知らない僕にとってはこれはもう久々に出会った快作!(怪作?)

 

amazon boxphoto credit: Nic Taylor Photography via photopin cc

 

ナナのリテラシー

本書は紙の書籍市場(漫画含めて)の縮小傾向に歯止めがかからない中、これからの漫画家はどうやってメシを食っていけばよいのか、という話。電子書籍市場にこそ未来があるという展開なのだが、これは今まで何度も聞いてきた「今年こそ電子書籍元年」といった、ただの掛け声とは全く異なる。その最大の理由が、著者鈴木みそ自身が、電子書籍にいち早く対応した漫画家として一つのサクセスストーリーをすでに体現しているからなのである。

 

 

漫画家(もっといえば全てのジャンルの著者)にとって、電子書籍の何が革命的かといえば、そこから得られる印税。鈴木みそは、自身がAmazon Kindle ダイレクト・パブリッシング (KDP)を利用した経験をもとに、この漫画『ナナのリテラシー』を書いているから、リアリティが圧倒的。Amazon から支払われる印税は35%から70%にも至るわけであり、従来の紙書籍・漫画の10%とは雲泥の差がある。

 

もっと具体的に言えば、紙書籍で350円の漫画を一冊売って得る印税(35円)と、Kindle電子書籍で100円の漫画を一冊売って得る印税(35円)が同じなのである(Kindle価格が100円の場合は印税35%のため)。そういう理由もあって、Kindle漫画では100円の価格設定がされている作品が多い。

 

印税が70%に跳ね上がるKindleセレクトの場合は、Kindle価格で250円以上と設定しなくてはならない。そのため、2,100円の紙書籍から得る印税(210円)と、300円のKindle電子書籍から得る印税(210円)が同じ、ということになる。これだけでもう、Kindleダイレクト・パブリッシングの破壊力は十分過ぎるほどに伝わるのではないだろうか。

 

漫画家・著者側の視点で考えれば、従来の紙漫画・書籍に比べて、3分の1から7分の1程度の購入者が確保できれば、電子書籍出版では同額の印税収入となるのである。だから、少々マニアックでもコアなファンを掴める漫画家は電子書籍にすごくフィットする。鈴木みそがそうであったように。

 

紙市場では採算が取れないと出版社側が判断したとしても、電子書籍市場では成り立つことは十分に可能だ。そしてまた値段が安いからこそ、熱心な漫画ファンではなかった僕みたいな消費者だって、ちょっと買ってみようかなという気にもなるのである。本漫画『ナナのリテラシー』は、そういう電子書籍の現代事情と裏事情が漫画家の視点から描かれる傑作。いま時代が大きく変わりつつあるのだということが、漫画家鈴木みその実体験を元に綴られる圧倒的なリアリティに僕はハマってしまい、次作第二巻を今か今かと待っているワケなのである。

 

限界集落(ギリギリ)温泉

そしてこの、『限界集落(ギリギリ)温泉』こそが、鈴木みそを電子漫画界の第一人者に押し上げた作品である。田舎の寂れた温泉街を舞台に、自意識過剰なアイドル崩れのコスプレイヤーと、その取り巻きとしてのゲームクリエイターや各種オタクたち、そして一発当てようという怪しげなプロデューサーが様々なイベントを仕掛けていく。という、どう紹介しても一般受けするような作品ではない(笑)。

 

そんな本作がなんと大当たりしてしまったのである。いやあ漫画って、ビジネスって、ほんと分からないね。とくに漫画家の観点で考えた時の本作のユニークさは、価格設定を相当考えて作りこんでいる点。第一巻は100円という設定で試読気分で読める。だから、ファンはもちろん、僕のように鈴木みそを知らない人にとっても、気軽に買えるのである。

 

続けて第二巻から最終第四巻までは、400円という価格設定。つまり、第一巻で試してもらって、気に入ったらもう少しお金出して最後まで読んでね、という仕掛けになっているのだ。で僕自身はといえば、第一巻で見事ハマってしまい、もちろん最終巻まで全巻買いましたよ!まさに作者の戦略通りですね(笑)

 

そして鈴木みそのユニークさは、こういう電子書籍出版の実体験を逐次公式ブログで報告してきたこと。第一巻購入者のうち第二巻購入者はぐっと少なくなるのだが、そこは想定通り。著者も驚いたのは、第二巻を購入した層のほとんどが、なんと最終第四巻まで連続して購入しているということ。

 

こういう実体験があるからこそ、価格設定において最初の敷居を低くし、内容に満足してもらえたら、それ以降ちょっぴり多額を出しても買い続けてくれる、という鈴木みそならではのリアルな電子書籍攻略法が生まれてくるわけである。で、そういう彼の学びをふんだんに盛り込んだのが、先の漫画『ナナのリテラシー』というわけだ。商売うまいな(笑)

 

というわけで、いま電子書籍が面白いというのはまさにその通りなのだが、僕はいよいよ電子漫画のアツさに触れてしまったのである。とくに、今回の鈴木みそのように漫画家のビジネスという側面から考えた時の電子書籍の破壊力というのは衝撃的だ。そして、今年はますます電子書籍が浸透するだろう。今までは読者側の視点で語られることが多かったこの市場が、鈴木みそのような創作者側のビジネスとしてより一層語られるのではないだろうか。小説やノンフィクションや学術書といった分野においても、新たなサクセスストーリーが生まれる、そんな期待が高まっている。

 

 

Amazon Campaign

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