*

クラウドソーシングの衝撃:世界最大手Freelancer.comの上場と業界再編

公開日: : 最終更新日:2014/12/17 オススメ書籍, ニュース, ビジネス・経営者

「クラウドソーシング・サービスの使い方: 世界最大の Freelancer.com が早くて安くて素晴らしい」で、詳しくそのサービスの使い方を説明したように、この業界の世界最大手 Freelancer.com (フリーランサー・ドットコム)は、従来の業界常識を木っ端微塵にしてしまう、そんな破壊的イノベーションの典型例と言えるだろう。

 

良いサービスが早く安く使えるのは、ユーザーとしては大変素晴らしいことではある一方で、その市場で勝ち残るのは並大抵のことではない、という思いを強くしながら、今回紹介するこの本を手にした。

 

クラウドソーシング市場を概観した一冊

昨年出版された『クラウドソーシングの衝撃』を興味深く読んだ。成長著しいこの市場の特性が整理されており、手がけている業務別に主要企業が分類されている他、どういう仕事でどのように使うべきかといった提言まで含まれている。この新しい市場を概観する類書がまだ少ない中、本書は貴重な業界本となっている。

 

本書のポイントをまとめると、以下の3点になるだろう。

従来の方法では達成できないコストダウンや開発スピードアップが可能となる

クラウドソーシング・サービスを利用する人の多くは、こうしたコストダウンやスピードアップを期待していることだろう。それが期待以上の成果をもたらすのがクラウドソーシングである、というのが著者らの主張だ。従来型の自己改善努力では、実現できるコストダウンが10%程度、開発スピードアップも20%程度が限界ではないかと指摘し、50-90%のコストダウンや4-10倍の開発スピードアップが実現できるクラウドソーシング時代には、自己努力だけではライバル企業と戦えない、と言及する。「競争ルールを根本から変えてしまう」クラウドソーシングは、企業の生き残りにとってもはや活用が必須だと喝破する。

 

ある程度の英語力があれば海外からの受注が簡単に実現可能

海外と国内のクラウドソーシング・サービスを比較しながら、海外市場の方が成長スピードが早く、かつ同等の仕事内容でもより安価に発注できることに着目し、クラウドソーシングのメリットを最大化するならば海外サービスの利用と英語コミュニケーション能力が欠かせないと述べる。「現在、日本国内のクラウドソーシング市場において成功しているワーカーであっても、英語でのコミュニケーションができない限り海外からの参入が本格化した場合、国内市場だけで仕事を獲得し続けるのは厳しくなる」という指摘だ。逆に言えば、一定度の英語力を用いて、いちはやく海外クラウドソーシングに参入することが、勝ち続けるための条件となるのだろう。

 

クラウドソーシング時代にはこれまでと異なるマネジメント能力が必要となる

本書の内容でもう一つ興味深かったのが、クラウドソーシング時代に必要となるマネジメント能力について。具体的にクラウドソーシングを利用するにあたっては、自社の仕事の強みと弱みを明確に理解した上で、仕事を定義・標準化して不得意な部分を発注すること、一方では発注後のワーカーの進捗・スケジュール管理とアウトプットの評価が不可欠となる。もちろん、最初から最後まで英語でのコミュニケーションも必須だ。こうした能力は必ずしもクラウドソーシング独自の要求事項ではないものの、マネジメント能力の欠如が表面化し、仕事を管理する上で深刻な問題となるのが、クラウドソーシング時代の特徴なのだ。

 

business processphoto credit: NathanaelB via photopin cc

 

Freelancer.comを利用した英語論文校正の衝撃的体験談

本書『クラウドソーシングの衝撃』の指摘はいずれも大変に興味深い。しかしながら、クラウドソーシング・サービスのインパクトは、実体験してこそ「衝撃」となって伝わるものだと思う。僕がこの市場に並々ならぬ関心を持っているのは、まさに自分自身の経験として想像を絶するほどの衝撃を受けたからに他ならない。

 

「Freelancer.com の衝撃:英語論文校正・添削の新時代」で紹介したように、同市場の最大手 Freelancer.com (フリーランサー・ドットコム)を利用して英語論文の校正を依頼したのだが、その価格の安さと品質の高さに目眩がする思いがしたのだ。論文校正の専門会社と比べても圧倒的なスピードで、5分の1から10分の1という値段で、同程度もしくはそれ以上のクオリティを経験してしまうと、もうそれ以前のサービスには戻れない。

 

同サイトは、翻訳・コラム執筆から、データ収集・整理・分析、そしてデザインやプログラミングまで、ありとあらゆる仕事を世界中のフリーランサーに 個人to個人で受発注するマッチングサイトである。うまく使えばコストを抑えながら仕事の効率を劇的に高めることができる、非常に役立つサービスだ。僕が論文校正を依頼した経験を詳しく解説したが、基本的な流れは次の5ステップとなっている。

  1. 仕事の依頼書(タスク、予算、納期)をアップする
  2. 世界中のフリーランサーが入札に応じる
  3. その中から一人を選び仕事を発注する
  4. アウトプットを受け取る
  5. 料金を支払う

 

いいフリーランサーに巡り会えるかどうか、それが最大のネックになるだろうが、発注前には各フリーランサーとメッセージをやりとりすることが出来るので、その対応をチェックして信頼できそうな人を選ぶことが可能だ。また、オンラインサービスによくあるように、各フリーランサーの過去の実績と発注者からのレピュテーションを確認することもできるので、こうした情報も参考資料となった。

 

もう一つの課題は、アウトプットがイメージと違った場合の対応だが、これは発注者がアウトプットを精査して修正を依頼することが可能だ。実際に僕も、論文校正でなぜそのような修正を入れたのか、詳細な説明を求めたところきちんとした返事が帰ってきたため、先方に対する信頼感がむしろ増したほどである。

 

だからその後再びこのサービスを利用した際には、同じ人物を指名してお願いすることにした。そのことで上記5ステップのうち最初の3つまでをスキップすることができるわけだから、大幅な時間短縮という意味で僕にとっても指名依頼はプラスなのである。このサービスを使いこなせるようになるまで、若干の経験が必要になるだろうが、Freelancer.comやその他のクラウドソーシングを利用した仕事の効率化は、論文校正だけでなくその他多くの分野においても必要なノウハウになるのではないかと思う。

 

medium_5387528225photo credit: Choconancy1 via photopin cc

 

Freelancer.com 上場の衝撃

クラウドソーシング・サービスは、フリーランスで働く日本人にとっても世界中から受注する格好の機会となる。とくにFreelancer.com のような海外サービスの場合、基本的には英語での受発注となるため、日本人フリーランサーは決して多くはない(つまり競合相手が少ない)。だからこそ英語から日本語への翻訳業務などは値段が高止まりしており、「日本語話者としてのアドヴァンテージ」として紹介したように、割のよい仕事となっているように思う。同様のことが上で紹介した『クラウドソーシングの衝撃』の中でも述べられている。曰く「一般的に日本語書くのは外国人には難しく、(海外クラウドソーシング・サービスでは)そういったスキルを持つ人材が少ないため、比較的単価が上がりやすくなっている」。

 

また、「クラウドソーシングと、グローバルな人材獲得競争」で書いたとおり、クラウドソーシング・サービスは決して、先進国の仕事を発展途上国にアウトソースしているだけではないのである。もちろんそういう側面が強いのは事実である一方、先進国のフリーランサーも続々とこの労働市場に参入しているのである。実際に僕が論文校正を依頼したのも、英語圏先進国に住むプロフェッショナルだった。

 

そういうところに目を付けたのか、「世界最大手のFreelancer.com をリクルートが買収か」というニュースが流れたのが昨年9月のこと。リクルートの大型買収かつ世界展開という点で大変注目したニュースだったのだが、そのさらに上を行ったのが、Freelancer.com が上場したという昨年11月の報道(Wall Street Journal)だった。しかも結果的には、リクルート社が買収価格として提示した400億円を遥かに超える1,000億円の時価総額となったワケだから、いかに急成長市場であるこの業界と、その中の最大手企業に対する期待が高いか、改めて見せつけられたようだ。

 

Freelancer.com 上場が引き金となった業界再編

同社上場の翌月に再びこの業界に注目が集まった。それが、業界2位のODesk(ユーザ数500万人)と、同3位のElance(同300万人)の合併だ(Bloomberg)。その挑戦を受ける Freelancer.com はユーザ数1,000万人超を誇る業界最大手であり、合併企業の合計ユーザ数(800万人)よりも規模は大きい。それでも今後のこの市場は、2強時代を迎えたことになる。これからどんな競争をお互いに仕掛けていくのか興味は尽きない(参考:Elance CEOが語る -「企業は正社員とフリーを使い分ける時代に」)。

 

日本国内市場ではランサーズとクラウドワークスの大手2社があるが、英語関連の仕事はもちろんのこと、デザインやプログラミング等の英語とは直接の関係がない業務であっても、市場参加者そして入札者の数が遥かに多いために、Freelancer.com や Elance のような世界大手を使ったほうが圧倒的にコストパフォーマンスは高い。こうしたサービスをぜひとも一度使ってみて、その「衝撃」を味わってみて欲しい。クラウドソーシングというのは、意外なほど僕らの身近にある、極めて使えるサービスなのである。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

images

【おすすめ書籍】ハーバード数学科のデータサイエンティストが明かす恋愛ビッグデータの残酷な現実

アメリカでベストセラーとなった一冊 "Dataclysm" がようやく翻訳出版された。これは人気出会

記事を読む

medium_5153001896

論文捏造はなぜ繰り返されるのか?科学者の楽園と、背信の科学者たち

先週は、小保方晴子氏の論文「学位取り消しに当たらず」(NHK)との報道が新たな議論を引き起こしている

記事を読む

credit: shok via FindCC

ジョジョの奇妙な英語にまさかの続編ガァァァ|あのクールな台詞はこれで学べ

以前に「ジョジョの奇妙な冒険で英語を勉強するなんて、無駄無駄無駄無駄無駄ですか?」でご紹介した英語テ

記事を読む

world-university-ranking-2016

世界大学ランキング最新版発表|英国オックスフォード大学が初のトップに

"Oxford Tops List of World’s Best Universities" とい

記事を読む

medium_2388310523

誰も教えてくれない、科研費に採択されるコツを公開|研究費獲得に向けた戦略的視点

また今年も科学研究費助成事業(科研費)の締切が近づいてきた。今月から来月にかけては、日本にいる数多く

記事を読む

roland_fryer

「貧困不良少年」が経済学のスターになった!

という東洋経済オンラインの記事。取り上げているのはハーバード大学経済学部教授のローランド・フライヤー

記事を読む

UK top cosmetic surgery women and men 2013

美容と整形:2013年も引き続き市場は拡大

美容と整形について、最新のレポート "UK cosmetic surgery statistics

記事を読む

credit: boxchain via FindCC

【再掲】今年の3月14日は世紀に一度のパイの日だった

すでにご存知の通り、3月14日といえばホワイトデー、ではなくて「パイの日」と答えるのが大正解である。

記事を読む

kindle2014endsale

【Kindle大セール】高価格の経済学・統計学・数学関連書も全品まとめて20%還元キャンペーン

今回の Kindle 書籍20%ポイント還元キャンペーンは、なんとほぼ全ての商品に適用されている。で

記事を読む

vermeer blue

アートは小説よりも奇なり:盗作と贋作の歴史、美術ノンフィクションが面白い

なんと、僕が好んで読む美術ノンフィクションの傑作が2冊も文庫版として再登場しているではないか。『ギャ

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

shougi_old_board
中学生プロ棋士・藤井聡太四段の新たな歴史的偉業

快進撃を続けていた若干14歳のプロ棋士・藤井聡太四段が、ついに、なんと

bhutan royal couple
「幸せの国」ブータン王国を築いた国王のリーダーシップとマネジメント

「眞子さま、ブータンから帰国 」(日経新聞)等と各種ニュースで報道され

chemistry-740453_640
「もっとヘンな論文」がついに登場|アカデミック・エンターテインメントの最高峰

NHK Eテレの番組「ろんぶ~ん」をご存知だろうか?ロンブー淳が司会を

6550520_64aeb7bd3c
英語をイメージと塊で捉える『英会話イメージリンク習得法』

先日放送されたテレビ番組「情熱大陸」の主役は、通訳者・橋本美穂。ピコ太

photo credit: Studio V2 via photopin (license)
英語論文の書き方・直し方|英文校正校閲にはクラウドソーシングがおすすめ

英語アカデミックライティングに必携の英語辞典 「アカデミックライティ

writing a research paper
英語論文の書き方:スタイルとフォーマットで学ぶアカデミック・ライティング

3回連続で紹介したおすすめ英語ライティングテキスト、の続き。

sandberg-barnard
もう一度聞きたい、アメリカの大学卒業式スピーチ5選

アメリカの5月は卒業式のシーズン。そして米国大学の卒業式と言えば、著名

paper editing
英語論文の書き方:アカデミック・ライティングの決定版テキスト

僕が学生の論文を指導するにあたって、まずは徹底的に読み込むようアドバイ

PAGE TOP ↑