ソーシャルディスタンスのいま最も濃密な人間関係|プロ将棋棋士の師弟愛と絆
公開日:
:
オススメ書籍
この年末年始なにが盛り上がっているかと言えば、もちろん紅白歌合戦に箱根駅伝、ではないですよね。今年はなんと、ABEMAの新たな将棋企画「師弟トーナメント」に大注目なのである。
この令和の現代、プロ棋士の世界に色濃く残る師弟制度は、果たして昭和の遺物なのか? いや、そうではなく、むしろソーシャルディスタンスが求められる一方で、これほどまでに人間関係について個々人が考えるようになった今こそ、そこにある「絆」に魅了されるという側面があるように思う。
今回のABEMA企画においてもまさにこの「絆」がテーマとなっているように、師匠と弟子が二人一組となって戦う初のトーナメント戦である。先日の「師匠サミット」開催時にも、それぞれの師匠の考えや思想そして哲学が垣間見えると同時に、弟子への深い愛情を感じた人も多かったはずだ。
すでに予選リーグは開幕し、早くも熱戦の連続にして、涙腺がゆるみっぱなしの展開である。この年末年始もステイホームを決断した人も多いことだろう。であればなおさら、家族や親戚と関係が遠のいてしまいそうな今だからこそ、血のつながりなど一切ないプロ棋士たちが、どのようにして師弟関係を築き、それを深め、唯一無二の「絆」にまで高めていっているのか、この書籍を読んで、そしてできればトーナメント戦を観戦して感じ取って欲しい。この冬一番のおすすめです。
「師」の多くは昭和から平成を彩った名棋士たち。「弟」は、今をときめく昇り竜の若手棋士。生まれた場所も世代も違い、なんの縁もなかった二人が「師」と「弟」として出会い、互いの人生に大きく影響を与え合う。時には勝負の場においてライバルとなる。一人の棋士が育つ過程を、師弟という関係を縦糸に、それを支える家族の物語を横糸に描く。
本書に登場する「師」「弟」(敬称略)
谷川浩司-都成竜馬
森下卓-増田康宏
深浦康市-佐々木大地
森信雄-糸谷哲郎
石田和雄-佐々木勇気
杉本昌隆-藤井聡太
羽生善治九段語る「師匠と若手」
将棋界は歌舞伎や落語のように、師匠と弟子で技術が受け継がれていく面があります。しかし、その師弟関係はさまざまで、そこには十人十色のドラマがありました。本書は将棋世界に連載し、プロ棋士の深い絆を取材して著した「師弟」の連載を書籍化したものです。著者はプロのカメラマンでもあり、「師弟―棋士たち 魂の伝承」(光文社)で将棋ファンの心をわしづかみにしたといっても過言ではない野澤亘伸氏。できうる限りの徹底取材を重ね、それまで語られることのなかった逸話を棋士の口から引き出しています。また書籍化するにあたっては将棋世界に未掲載の話や、少し時間が経った現在についてなど大幅に加筆。さらには杉本昌隆八段×藤井聡太二冠の特別編を収録しました。ぜひ、受け継がれていく「棋士の魂」を感じてください。
第一章 中田 功―佐藤天彦「弟子が叶えた師への恩返し」
第二章 畠山 鎮―斎藤慎太郎「少年時代に交わした二つの約束」
第三章 木村一基―高野智史「遠い背中を見つめて」
第四章 淡路仁茂―久保利明「本当の恩返しとは」
第五章 勝浦 修―広瀬章人「鷹揚流でつかんだ竜王位」
第六章 石田和雄―高見泰地「悩めるシンデレラボーイが歩んだ一年」
第七章 桐山清澄―豊島将之「悩めるシンデレラボーイが歩んだ一年」
第八章 杉本昌隆―藤井聡太 師弟対談「将棋の真理を目指して」
Amazon Campaign
関連記事
-
進化心理学と行動ゲーム理論入門|『最後通牒ゲームの謎』がおもしろい
第64回(2021年度)日経・経済図書文化賞を受賞した、小林佳世子著『最後通牒ゲームの謎』が面白い(
-
今からでも遅くない「行動経済学がわかるフェア」
「今年のノーベル経済学賞は『行動経済学』のリチャード・セイラーに」でも書いたように、2017年の受賞
-
世界を変えた密約と帳簿・会計の世界史
Amazon Kindle の「文春の翻訳本・政治経済編」キャンペーンでは、おすすめ書籍が期間限定で
-
華麗な王者モハメド・アリと、そのアリになれなかった男|沢木耕太郎の名著『敗れざる者たち』と『一瞬の夏』を再読する
2016年6月4日、プロボクシングの元世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリが74歳の人生に幕を閉
-
あの伝説の一戦「3連勝4連敗」から9年|羽生善治・永世七冠誕生
2017年12月5日、長い将棋の歴史に新たな偉業が刻まれた。羽生善治が竜王位を奪還し永世竜王となり、
-
野村克也の頭脳とデータ|戦後初の三冠王そして名監督としての実績と名声
日本のプロ野球界に燦然と輝く実績と名声。戦後初の三冠王の栄誉を手にした名キャッチャーにして、監督とし
-
将棋棋士初の栄冠|『Number MVP賞』は 藤井聡太二冠に決定
先日は以下のエントリでも書いたように、2020年は間違いなく藤井聡太の一年でもあり、将棋棋士がアスリ
-
シンガポール建国50周年|エリート開発主義国家の光と影の200年
先日で建国50周年を迎えたシンガポール。Economist や、Wall Street Journa
-
人間はアンドロイドになれるか|ロボット工学者・石黒浩の最後の講義
大学教授が定年退官の前に行う授業、それがこれまでの「最後の講義」だった。しかしそれを文字通り、自分が
-
闘う頭脳|将棋棋士・羽生善治VSチェス棋士ガルリ・カスパロフ
今年3月にNHKーETV特集で放送された「激突!東西の天才 将棋名人羽生善治 伝説のチェスチャンピオ