プレゼンを準備する前に繰り返し読みたいおすすめの一冊『TED TALKS』
話題の一冊『TED TALKS』を読んだ。ご存知いまや圧倒的なプレゼンスを獲得したTEDカンファレンス。世界中の著名人からマニアックに面白い人まで、様々な人が実に多種多様な経験をシェアし、アイデアと技術を披露し、そして将来実現したい夢を語る場所。

(Photo by Steve Jurvetson)
そんなTEDの主催者クリス・アンダーソンによる初の公式ガイドとして注目が集まったのが本作『TED TALKS』である。最初から最後まで大変興味深く読んだのだが、とくに参考になるのが、プレゼンで絶対やってはいけない「失敗例」である。僕らは通常「話題のトーク」や「試聴回数最多」とか「神業プレゼン」みたいな、注目作しか試聴することはない。そりゃそうだ、だってあれだけ実施されている全てのトークに耳を傾ける時間なんて誰にもないのだから。
つまり、そんな最高傑作の背景に実は数多く存在する「失敗トーク」なんて知りえないのである。だからこそ、今回クリス・アンダーソンがこっそり明かしてくれるそんなダメ・トークと、なぜダメだったのかの解説は実に有用であり、これは我々も反面教師とするべく素材だと言えよう。だって、主催者がトークの途中で登壇者を遮ることがあったなんて、想像もしてなかったよ!
そんな失敗例だけでなく、もちろん本書では数々の名トークが披露され、そしてなぜそれが聴衆の心を打ったのかと解説する。とくに読み応えがあり、我々自身のプレゼンにも応用できると感じたのが2点あった。一つ目は本書で「スルーライン」と呼んでいるトーク全体を貫く確固たるテーマだ。このスルーラインは、トークが終わった後で聴衆の心にインパクトを与えるメッセージと言い換えてもいいだろう。それを端的に表現できるか?もっと具体的に言えば、15 words で言えるか?それが出来ないなら、自分が言いたいことが自分自身でもまだ分かっていないということなのだ。そんな状態で聴衆に何かが伝わるわけもないだろう、という指摘である。
もう一つ個人的に印象に残ったのが、トーク本番を迎えるにあたっての圧倒的な準備量である。当日に話す内容を一言一句原稿に書き下ろすかどうかは人それぞれだ。しかし、これだけ話し慣れた人たちであっても、何十時間も費やし、何十回と練習し、何人からもリハーサルの感想を聞き、そしてスライドもトークも修正に修正そのまた上に修正を繰り返し、そしてようやく本番を迎えているのである。
それだけの準備、あなたはしてますか?それなのにプレゼンが上手くできないと言い訳するなんて、おこがましくありませんか? と言われているような気持ちになるだろう。しかし、もしも華やかな(に見える)プレゼンの上達に近道があるとしたら、それはこれだけ準備し練習を繰り返すことであり、それのみが王道なのだろうと改めて実感するはずだ。そう再認識するだけでも十分に価値のあるTED解説本である。先に述べたように、素晴らしいトークをすごいと手放しで絶賛するのではなく、そうではなかった残念なトークと比較することで優れたポイントを抽出しており、この点において他の類書とはまったく異なる視点で書かれた、とてもエキサイティングな一冊としておすすめしたい。
ケリー・マクゴニガル、ビル・ゲイツ、アル・ゴア、ケン・ロビンソンなどが登場し、 世界中が注目するカンファレンス「TED」。忘れられないプレゼンを生み出す舞台裏とノウハウをTED代表のクリス・アンダーソンが自ら解説する初めての公式ガイド!人前で話すのが怖くない人なんていない。それは、失うものが大きいからだ。だけど、心がけ次第で、恐怖をエネルギーに変えられる。プレゼンの能力は、生まれつきの才能ではない。だれでもが自分に合ったやり方を見つけて、上手に話す技術を身につけられる。
Amazon Campaign
関連記事
-
-
英語論文の書き方:アカデミック・ライティングの決定版テキスト
僕が学生の論文を指導するにあたって、まずは徹底的に読み込むようアドバイスしているのが、前回紹介した英
-
-
日本でいちばん売れている国語辞典『新明解』に待望の最新第8版が登場
日本でもっとも売れている国語辞典といえばなんでしょう? それはもう圧倒的に三省堂の『新明解国語辞典』
-
-
越前敏弥の『日本人なら必ず誤訳する英文~あなたはこれをどう訳しますか?』は、英語自慢への挑戦状
「越前敏弥の『日本人なら必ず悪訳する英文』は、英語自慢の鼻をへし折る一冊」で紹介したように、このシリ
-
-
敗れざる者たち|藤井聡太に失冠したトップ棋士たちの言葉
もちろん、もう読みましたよね?藤井聡太二冠を表紙にすえ、初めて将棋を特集したスポーツ雑誌Number
-
-
経済学と歴史学そして自然実験
2010年に出版されていた "Natural Experiments of History" がよう
-
-
最年少プロ棋士・藤井聡太とAI将棋の時代|人工知能が切り拓く新たな地平
ついにストップした藤井聡太四段の連勝記録。しかし、史上最年少でプロ棋士となってから、これまで29連勝
-
-
華麗な王者モハメド・アリと、そのアリになれなかった男|沢木耕太郎の名著『敗れざる者たち』と『一瞬の夏』を再読する
2016年6月4日、プロボクシングの元世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリが74歳の人生に幕を閉
-
-
新中学生・高校生から新社会人にまでおすすめする国語辞典4選|辞書それぞれの個性を理解して選ぼう
中学生・高校生から新社会人まで必須アイテムとしての国語辞典 春から新たに中学校・高校・大学に入学す
-
-
マラソンランナー大迫傑という生き方|東京五輪で引退する「愚か者」
オリンピック最終日に開催され、最も注目されるともいってよい種目が、男子マラソンである。そして今年の東
-
-
人の想いこそが永遠に不滅|キャラクター論で読み解く『鬼滅の刃』
漫画発行部数は一億冊を優に超え、まさに国民的ドラマとなった『鬼滅の刃』。その原作自体は23巻をもって

