10代の母:アメリカと日本のテレビの影響
National Bureau of Economic Research (NBER) の最新のワーキングペーパーの一つ、“Media Influences on Social Outcomes: The Impact of MTV’s 16 and Pregnant on Teen Childbearing”。アメリカで人気のテレビ番組が、10代女性の妊娠・出産を抑制する効果があったという内容だ。
This paper explores how specific media images affect adolescent attitudes and outcomes. The specific context examined is the widely viewed MTV franchise, 16 and Pregnant, a series of reality TV shows including the Teen Mom sequels, which follow the lives of pregnant teenagers during the end of their pregnancy and early days of motherhood. We investigate whether the show influenced teens’ interest in contraceptive use or abortion, and whether it ultimately altered teen childbearing outcomes. We use data from Google Trends and Twitter to document changes in searches and tweets resulting from the show, Nielsen ratings data to capture geographic variation in viewership, and Vital Statistics birth data to measure changes in teen birth rates. We find that 16 and Pregnant led to more searches and tweets regarding birth control and abortion, and ultimately led to a 5.7 percent reduction in teen births in the 18 months following its introduction. This accounts for around one-third of the overall decline in teen births in the United States during that period.
photo credit: zerok via photopin cc
10代の妊娠というトピックと、Google Trends や Twitter を利用したデータ収集というキャッチーな手法もあってか、各種メディアでも大きく取り上げられている。例えば、Economist の “Tuned in, turned off: Watching reality TV may deter teens from becoming moms” や New York Times の “MTV’s ‘16 and Pregnant,’ Derided by Some, May Resonate as a Cautionary Tale”、そして CNN の “Study: MTV’s ’16 and Pregnant’ led to fewer teen births” といった具合だ。
さて、MTVのこの番組 ’16 and Pregnant’ 、僕は一度だけ観たことがあるのだが、正直なところ一度でもう十分過ぎるという内容なのである。この番組は、実際に妊娠した10代の女の子をカメラが密着撮影して、妊娠から出産後までの日常生活を追いかけるという「リアリティショー」である。ボーイフレンドや友達や家族だけでなく、学校や地域までを巻き込んで繰り広げられる騒動と修羅場を、視聴者がお茶の間でテレビ鑑賞するという、大変にアメリカ的で品のない番組だ。
それなのに、いやそれだからこそなのか、結構な視聴率を取っているらしい。その結果、この番組であまりにも生々しく描写される10代の母の現状が、同番組の視聴者である未成年に対しある種の警告となって、10代での出産減少につながったというのは、それはひとつ納得できるストーリーだとは感じる。
photo credit: jeredb via photopin cc
このテレビ番組と同様に、先日「アメリカと日本と国際養子縁組」でも書いた僕の知人夫婦が引き取った養子の産みの親も、まだ14歳の少女だった。彼女は周りの説得もあって産んだばかりの赤ちゃんを養子に出すことに決めたのだと想像するが、もしも本人が自分自身で育てるということになっていれば、それこそこのリアリティショーが本当のリアルになる時だったのではないかとも思うのだ。しかし、これも書いたように、彼女はその数年後、高校生の時にまた妊娠し出産する。彼女が ’16 and Pregnant’ を観ていたのかどうか、もちろん知る由もない。
一方の日本でも、以前放送された『14才の母』というドラマが相当話題になった。志田未来の熱演とミスチルの主題歌が今も印象に残っているが、果たしてこのドラマは、日本の10代のどんな Social Outcomes に影響を与えた(または与えなかった)のだろうか。ドラマの展開としては、様々な苦労があったけれどもやっぱり産んでよかった、という形で終わっていたが、そういうポジティブなエンディングが、アメリカの(多くの場合ネガティブな)リアリティショーとは逆に、日本の10代女性の妊娠・出産増加につながったという影響も、もしかするとあったりするのだろうか。
Amazon Campaign
関連記事
-
経済学と歴史学そして自然実験
2010年に出版されていた "Natural Experiments of History" がよう
-
科研費採択のお知らせ届く
昨秋に応募した科研費の採択通知が届いていた。大変にありがたい。今後一層がんばっていきたいと思います。
-
今年度から科研費の締切が早まる|公募スケジュールの前倒しに注意
現在、科学研究費助成事業(科研費)の主な種目については、前年の9月に公募を開始し、翌年4月1日付けで
-
科研費およびその他の研究費管理には、クラウド会計がびっくりするほど超便利
さて先日は、今年度下半期の科研費採択プロジェクトが通達された。経済学をはじめとする社会科学系の分野で
-
統計学と経済学をまる裸にする
ついにあの "Naked Statistics" に、待望の翻訳が登場。そしてあの "Naked E
-
圧倒的ユニークな視点でつくるアカデミック・エンタテインメント|NHK「ろんぶ~ん」が面白い
先日まで、4週連続で放送されたNHK番組「ろんぶ~ん」、ご覧になりましたか? これは以前にも放送され
-
科研費に採択された研究者に絶対おすすめのクラウドサービス2選
科研費採択おめでとう さて、いよいよ4月の新学期が始まった。多くの大学では、新型コロナウィルス感染
-
『ヤバい統計学』とテーマパーク優先パスの価格付け
『ヤバい経済学』の大ヒット以来、『ヤバい社会学』、『ヤバい経営学』と続けてきたこのシリーズ。内容その
-
英語論文校正・校閲おすすめサービスの使い方: 世界最大のクラウドソーシング Freelancer.com が早くて安い
クラウドソーシングで英語論文を校正する 過去5回にわたって、英語アカデミック・ライティングのおすす
-
サッカー・データ革命の時代に読んでおくべきこの5冊
データ革命が加速する世界最先端の現代サッカー 「ワールドカップの閉幕、そしてデータドリブン・サッカ