パーソナルゲノム時代の医療:米国の予防的手術
本日の Kindle 日替わりセールに『遺伝子医療革命 ―ゲノム科学がわたしたちを変える』が登場。紙の単行本では2,300円するものが、電子書籍なら今日だけのセールとはいえ600円と定価の7割引きで買えるということに、改めて電子の衝撃を感じざるを得ない。とくに、こういう厚手のノンフィクションがセール対象になることは今のところそう多くはない。というわけでとりあえず買った。来週の出張時に読む。
未来への鍵は、あなたの遺伝子が握っている。癌、心臓疾患、アルツハイマーなど、わたしたちを脅かすリスクについて事前に知ることができるとしたら……? 個人個人の遺伝子を解析し、それぞれに適した治療や薬を処方する「パーソナルゲノム医療」時代はすぐ手の届くところまで来ている。世界を代表する科学者が遺伝医療の未来をユーモアたっぷりに解き明かす、希望にあふれたサイエンス書。
さて、こうした遺伝子解析とそれに基づく医療と聞いて思い起こすのが、アンジェリーナ・ジョリーが将来の乳がん予防のために、両乳房を切除した手術のことである。癌が見つかってさえいない段階での「予防的手術」というものに我々がまだ馴染みがなく、かつ有名女優がその手術を決断したこともあって各紙で大きく報道されたのはまだ記憶に新しい。
- アンジェリーナ・ジョリー、乳房切除手術を告白(ハフィントン・ポスト)
- アンジェリーナ・ジョリーが受けた乳房切除とは(日本経済新聞)
- アンジェリーナ・ジョリー、がん予防で両乳房切除―専門家の見方は(ウォールストリート・ジャーナル)

credit: kevin dooley via FindCC
ジョリーの場合は母親を癌で亡くしており、ジョリー自身も「BRCA1」という遺伝子に変異が見つかり、それにより今後乳がんを発症する確率が87%と医師に診断されていたということだ。そして、その確率を5%以下に下げるために、今回の両乳房切除という大手術を決断している。
なぜ僕がここまで彼女の手術に注目しているかといえば、それはもちろん僕がアンジーの大ファンだから、ということではない。そうではなく、僕の友人がこれと全く同じ手術を受けたからに他ならないのだ。しかも姉妹二人がそろって、このジョリーの1年前にその手術を行っているのだ。「アンジェリーナ・ジョリーと乳がん予防とリスク観」に詳しく書いたように、それは僕にとってものすごく驚くことだったのである。
予防的手術というものが、しかも乳房切除という決断を、僕の身近にいた姉妹がしたことに、こうした遺伝子解析等にまったく馴染みのなかった僕が当時衝撃を受けたことに対しては、何ら不思議なことはない。ただ、いま改めて思い返すならば、こういう医療がハリウッド・セレブ達の間だけのものではなく、それこそ普通の庶民にまで普及しているということが、現代の米国医療の姿として強烈な印象を与えてくる。
全く門外漢ではあるものの、こんな身近なところに二人も経験者がいたということで、僕はもう少しこの新たな医療と、それが起こしつつある革命、そして米国の最先端事情をきちんと知っておきたくなったのである。そんな背景があるからこそ、この一冊『遺伝子医療革命』を手にとってみたわけなのだ。その米国友人が受けた診察や手術については大まかなところは色々と教えてくれたのだけれども、次回彼女らを訪ねる際には、もう少し詳しく聞いてみたいと思う。
Amazon Campaign

関連記事
-
-
『ゼロ・トゥ・ワン』のティールと米国社会の変容『綻びゆくアメリカ』
米国の著名投資家ピーター・ティールが著した『ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか』が、「今
-
-
連邦最高裁判事9人が形づくるアメリカの歴史
下の写真がアメリカ連邦最高裁判所だ。各種ニュース等での報道の通り、今回はこの最高裁が、これまで人工妊
-
-
華麗な王者モハメド・アリと、そのアリになれなかった男|沢木耕太郎の名著『敗れざる者たち』と『一瞬の夏』を再読する
2016年6月4日、プロボクシングの元世界ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリが74歳の人生に幕を閉
-
-
「われ敗れたり」:完敗だったが名勝負もあった第3回将棋・電王戦
今夜11時放送のTBS「情熱大陸」は、将棋・電王戦。 将棋のプロ棋士とコンピューター将棋ソフトが
-
-
現代アメリカ社会の象徴:メガチャーチの誕生と新たなコミュニティの創造
毎年クリスマスを迎えるたびに思い出すことがある。それは若い頃の甘酸っぱいデートの記憶、ではもちろんな
-
-
定番ボードゲーム「モノポリー」もクラウドソーシングする時代へ
"Rethinking Monopoly: Rules of the game" という先日のEco
-
-
2019年ノーベル経済学賞は開発経済学者3氏と貧困解消に向けた実験的手法に決定
2019年のノーベル経済学賞受賞者が発表された。受賞者は、マサチューセッツ工科大(MIT)のバナジー
-
-
『ヤバい統計学』著者による新作『ナンバーセンス』で知る、アメリカ大学ランキングの舞台裏
以前に「テーマパーク優先パスの価格付け」でも紹介したように、カイザー・ファング著『ヤバい統計学』は、
-
-
米国人一家と英国一家が美味しい日本を食べ尽くす
ちょっぴり巷で評判の『米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす』を読んでみたら、これが思いの外おもしろか