*

国語辞典業界最大の謎がいま明らかにされる|辞書になった男ケンボー先生と山田先生

公開日: : オススメ書籍

近年まれにみるほどの傑作ノンフィクション『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』が、待望の文庫化・電子書籍化となって登場した。これは僕自身、驚きをもって読んだ一冊であり、そこに隠された謎と、それを解いた本書の結論に愕然としたのを思い出す。

 

まず、そもそもの大前提として、国語辞典とひとくくりに言うが、それぞれの辞書には強い個性が宿っており、それらは知れば決して「辞典なんてどれも一緒」などと言うことはできなくなるはずだ。これは以前に「学校で教えて欲しいおすすめ国語辞典の選び方・使い方・遊び方:複数の辞書を比較して使い分けよう」などでも、繰り返し説明してきたことだ。

 

japanese dictionaries 1

 

 

しかし、日本で一番売れている国語辞典である「新明解国語辞典」(通称「新解さん」)と、もう一つのベストセラー「三省堂国語辞典」(通称「サンコク」)が、当初は一つの国語辞典として企画されていたなんて全く知らなかった!それどころか、その幻の一冊をともに手掛けようとしていたのが、後にサンコクを編纂することになるケンボー先生と、後の新解さんの生みの親・山田先生だったなんて!さらにさらに、この二人が東大の同級生であり、ともに辞書づくりの名手であり、その幻の一冊を共に手掛けようとした盟友であり親友であり、それなのにある日を境に決別し、二度と会うことはなかっただなんて!

 

「いま日本で最も売れている『新明解国語辞典』の誕生秘話」でも紹介した通り、そんな日本の辞書史上最大の謎にして最後のタブーに迫ったのが、本書『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』なのである。その謎解きはときにスリルに満ち、ときに冷や汗をかくようだが、最後に辿り着いた本書の結論には、思わず熱い涙がこぼれ落ちそうになった。こんなにも素晴らしいノンフィクションには滅多に出会えるものではない。文庫化・電子書籍化されたのを喜ばしく思うと同時に、これを機に本書がもっと多くの人に読まれること、そして辞書編纂の仕事を興味深く描いた名作小説『舟を編む』のように、もっともっと辞書づくりに光が当たることを願っている。

 

「三省堂国語辞典」略して「三国(サンコク)」。そして 「新明解国語辞典」略して「新明解」(赤瀬川原平著『新解さんの謎』でブームとなった辞書である)。二冊ともに戦後、三省堂から刊行された辞書で、あわせて累計4000万部の知られざる国民的ベストセラーだ。しかし、この辞書を作った(書いた)二人の人物のことは、ほとんど知られていない。

 

「三国」を書いたのが、ケンボー先生こと見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)、1914年生まれ。国語学者にして稀代の天才辞書編纂者。「新明解」を書いたのは、山田先生こと山田忠雄(やまだ・ただお)、1916年生まれ。国語学者にして反骨の鬼才辞書編纂者。二人とも国語学者だが、「三国」と「新明解」の性格はまったく異なる。

 

「三国」が簡潔にして、「現代的」であるとすれば、「新明解」は独断とも思える語釈に満ち、「規範的」。そこには二人の言語観・辞書が反映されている。本書は、二人の国語学者がいかにして日本辞書史に屹立する二つの辞書を作り上げたかを二人の生涯をたどりながら、追いかけたノンフィクション。一冊の国民的辞書(『明解国語辞典』)をともに作ってきた二人は、なぜ訣別し、二つの辞書(『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』)が生まれたのか?昭和辞書史最大の謎に迫る、知的興奮の一冊。

 

 

Amazon Campaign

follow us in feedly

関連記事

5月25日は「広辞苑の日」って知ってましたか?

「ことばは、自由だ。」というキャッチフレーズでも知られる、岩波書店の「広辞苑」は、国語辞典の代表格と

記事を読む

山に登るということ:登山と遭難とそして救助

2008年のマンガ大賞にも選ばれた、山岳漫画『岳』。いまさら言うまでもないが、これものすごく胸を打つ

記事を読む

most popular sport in the U.S. is NFL

世界で最も成功したスポーツビジネス:アメフトNFLとスーパーボウル

米国で最も盛り上がるスポーツイベントと言えば、アメフトのスーパーボウル。個人的にはいまだにアメフトの

記事を読む

chess board

機械 vs 人間:チェス、予測、ヒューリスティック

今回もサッカー・ワールドカップ予想をしている、毎度注目の統計家ネイト・シルバー。その彼の著書『シグナ

記事を読む

チェス界のモーツァルト、天才ボビー・フィッシャーの生涯が待望の文庫化

伝説的なチェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの生涯を記録した傑作ノンフィクション『完全なるチェス』

記事を読む

誰も教えてくれない、科研費に採択されるコツを公開|研究費獲得に向けた戦略的視点2019年版

今年もまた、科学研究費助成事業(科研費)の締切が近づいてきた。自然科学系の研究者にとってはもちろんの

記事を読む

Kindle電子書籍で手に汗握って読む、箱根駅伝をより面白くするこの3冊

いまや国民的イベントにまで人気が拡大した、正月の風物詩・箱根駅伝。僕も含めて毎年楽しみにしている人は

記事を読む

japanese igo

囲碁マネーリーグ|井山裕太五冠が11年連続の賞金王そして1億円越え

囲碁棋士の2021年賞金ランキングが発表され、棋聖、名人、本因坊を防衛し王座、碁聖を奪取した井山裕太

記事を読む

ニューノーマルなバレンタイン|恋と愛とチョコレートの経済学

バレンタインな週末がやってきましたね。諸兄の皆様方に置かれましては、ニューノーマルな暮らしの中におい

記事を読む

【おすすめ英語テキスト】重要単語を因数分解|語源から根こそぎ完璧に理解する

現在開催中のKindle本ストア 9周年キャンペーン。本日はこの中から最大級におすすめしたい、この英

記事を読む

Amazon Campaign

Amazon Campaign

卒業・入学おめでとうキャンペーン|80年記念の新明解国語辞典で大人の仲間入り

今年もまた合格・卒業、そして進級・進学の季節がやってきた。そう、春は

食の街・新潟県南魚沼|日本一のコシヒカリで作る本気丼いよいよ最終週

さて、昨年10月から始まった2022年「南魚沼、本気丼」キャンペーン

震災で全村避難した山古志村|古志の火まつりファイナルを迎える

新潟県の山古志村という名前を聞いたことのある人の多くは、2004年1

将棋タイトル棋王戦第3局|新潟で歴史に残る名局をライブ観戦してきた

最年少記録を次々と塗り替える規格外のプロ棋士・藤井聡太の活躍ぶりは、

地元密着の優等生|アルビレックス新潟が生まれたサッカーの街とファンの熱狂

J2からJ1に昇格・復帰したアルビレックス新潟が今季絶好調だ。まだ4

【速報】ついに決定|14年ぶりの日本人宇宙飛行士は男女2名

先日のエントリ「選ばれるのは誰だ?夢とロマンの宇宙飛行士誕生の物語」

3年ぶりの開催|シン魚沼国際雪合戦大会で熱くなれ

先週末は、コロナで過去2年間見送られてきた、あの魚沼国際雪合戦大会が

国語の入試問題なぜ原作者は設問に答えられないのか?

僕はもうはるか昔から苦手だったのだ。国語の試験やら入試やらで聞かれる

PAGE TOP ↑