「ない仕事」の作り方|みうらじゅんとノーベル賞級の研究
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最終更新日:2018/11/06
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みうらじゅんの最新刊「『ない仕事』の作り方」、これがめちゃくちゃ面白かったものだから、ここで力強くおすすめしておきたい。ぜひとも、研究者やクリエイティブな仕事に携わる大勢の方々に読んで頂きたい。とっても参考になる視点がいっぱい詰まってますよ。
デビューして今年で35年、「仏像ブーム」を牽引してきた第一人者であり、「マイブーム」や「ゆるキャラ」の名付け親としても知られるみうらじゅん。とはいえ、「テレビや雑誌で、そのサングラス&長髪姿を見かけるけれど、何が本業なのかわからない」「どうやって食っているんだろう?」と不思議に思っている人も多いのでは?
本書では、それまで世の中に「なかった仕事」を、企画、営業、接待も全部自分でやる「一人電通」という手法で作ってきた「みうらじゅんの仕事術」を、アイデアの閃き方から印象に残るネーミングのコツ、世の中に広める方法まで、過去の作品を例にあげながら丁寧に解説していきます。
「好きなことを仕事にしたい」、「会社という組織の中にいながらも、新しい何かを作り出したい」と願っている人たちに贈る、これまでに「ない」ビジネス書(?)です。

本書を読んで思ったのが、この「ない仕事」の作り方というのが、研究者の仕事それも世界を驚かせるような圧倒的に独創性の高い研究に相通じているということだ。なにしろ、今年のノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典氏の「オートファジー研究」など、当時は一体全体何をやっているのか周りも分からず、取り合えず何かやっているようだという程度にしか周囲から認識されていなかったわけである。
これはまったく当たり前のことだが、それまでに全く「ない研究」をしているのだから、周りから理解を得られなくて当然なのである。しかし、まさか、あのみうらじゅんも同じ境遇にあっただなんて!という驚きを与えてくれるのが、この著書「『ない仕事』の作り方」である。ここはぜひとも、研究者の仕事と対比させながら読み、その意外なまでの類似性にこそ着目して楽しんで頂きたい。
もう一つ本書で面白かったのが、ネーミングの妙である。これまでみうらじゅんが名付けてきた「ゆるキャラ」等にも、本人の明確な戦略が隠されているのである。そしてこれもまた、研究者の心境と似ていると言えるのではないだろうか?例えば、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏。彼が名付けた iPS細胞という言葉を知らない人はもういない、それくらい浸透した専門用語であるが、本人が講演やインタビュー等で何度も話しているように(下記参照)、これは当時流行していた Apple の iPod を真似てネーミングしたものなのである。
(新経連サミット2015)日本人が初めて見つけた細胞とか、いろんな遺伝子とか、日本人が最初に名前をつけてもセンスが無いので、その後アメリカとかイギリスの人が非常にセンスのある名前をつけて、そっちが一般化してしまうということが、何度もありました。なんとかセンスの良い名前にしようと思って、一生懸命考えました。一生懸命考えたあげく考えたのが、当時人気が出てきたiPodをパクるという素晴らしいアイデアでiPS細胞という名前をつけました(笑)。これが正解でありまして、ボストンのグループもiPS細胞という名前を使ってくれました。
そんな経緯で誕生した iPS細胞という名前が結果的に大成功し、世界中に浸透する言葉となったのである。そんなネーミング戦略にもやはり、みうらじゅんとノーベル賞受賞者の間には、とても似通った視点が隠されているのである。そんな本書「『ない仕事』の作り方」は、やはり、いままでにない研究をやろうという人、その成果をうまくネーミングし、世の中に広めていきたいと考えている研究者こそ、読むべき一冊と言えるのではないだろうか。大幅ポイント還元の今こそ、おすすめです。
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