史上最年少プロ棋士・藤井聡太の初勝利と『将棋の子』たち
史上最年少のプロ棋士が誕生したと話題となったのが2016年9月のこと。それから3か月が経ち、今度は若干14歳2カ月にして史上最年少での初勝利を記録した。長い将棋の歴史の中にあり、大変な快挙である。
(毎日新聞)14歳2カ月で将棋界の史上最年少棋士となった藤井聡太(そうた)四段(14)は24日、東京都渋谷区の将棋会館で指された加藤一二三(ひふみ)九段(76)との第30期竜王戦6組ランキング戦で公式戦初対局を迎え、110手で初勝利を飾った。14歳5カ月での初勝利は将棋界最年少記録となった。藤井四段に破られるまで史上最年少棋士と最年少初勝利の記録を持ち、現役では最年長の加藤九段との対局は年齢差が62歳6カ月で、史上最大年齢差。記録ずくめの対局となった。(中略)加藤九段は「中盤、藤井四段が受けに回った手が私には指せない手で、大局観が素晴らしい。寄せも速かった。うまく負かされました。素晴らしい才能の持ち主だと思う」とたたえた。

まずもってプロ棋士となるのがいかに困難なことなのかは、「奨励会三段リーグ|天才少年棋士からプロへの最後の関門」で紹介したように、この奨励会と呼ばれる育成機関に入門し、そこで数多の天才将棋少年たちと戦い、そして勝ち抜けなくてはならないのである。もちろん勝者がいれば敗者もいるのが勝負の世界であり、だからこそ途中でプロの道を諦め、挫折し、奨励会を去っていく者もまた数多くいるのである。
今回、史上最年少でプロ棋士となり、そしてプロ初勝利を飾った藤井聡太四段は、この若き年齢にして、既にそんな過酷な道のりを歩んできたのである。その偉業はもちろん歴史に残る金字塔である一方で、記録には残らない敗れていった者たちを、せめて記憶の片隅にとどめておきたい、そんな気持ちで執筆されたのが、大崎善生の名著『将棋の子』である。まだ幼いともいえる年齢で人生の表舞台から去らねばならなかった彼らは、いまどこでどんな気持ちで何をしているのか?著者の温かいまなざしとともに読んで欲しい将棋の世界の現実がここにある。
奨励会……。そこは将棋の天才少年たちがプロ棋士を目指して、しのぎを削る“トラの穴”だ。しかし大多数はわずか一手の差で、青春のすべてをかけた夢が叶わず退会していく。途方もない挫折の先に待ちかまえている厳しく非情な生活を、優しく温かく見守る感動の1冊。第23回講談社ノンフィクション賞受賞作。
そんな大崎善生のもう一冊の傑作が、ご存知『聖の青春』である。将棋を指した時間はあまりにも短く早逝した村山聖。しかし彼の棋譜は、将棋界の記録となり、その鮮烈な生きざまは数多くのプロ棋士の記憶に残った。「聖の青春|天才・羽生善治を追いつめた伝説の怪童・村山聖」でも紹介したように、映画化もされた本作をぜひ、その原作で味わって欲しい。すばらしい一冊としておすすめしたい。
重い腎臓病を抱え、命懸けで将棋を指す弟子のために、師匠は彼のパンツをも洗った。弟子の名前は村山聖(さとし)。享年29。将棋界の最高峰A級に在籍したままの逝去だった。名人への夢半ばで倒れた“怪童”の一生を、師弟愛、家族愛、ライバルたちとの友情を通して描く感動ノンフィクション。第13回新潮学芸賞受賞作。
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