経済学Ph.D.のアカデミック・ジョブマーケット|AEA年次総会がサンフランシスコで開催
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最終更新日:2017/01/16
経済学・統計学
1月の第一週、日本ではまだお正月気分の頃に開催されるのが The American Economic Association (AEA) の Annual Meeting だ。今年は1月3日から5日まで、サンフランシスコで開催されている。
経済学最大の学会であり、数多くの研究報告や基調講演が行われるのはもちろんだが、この学会を特別なものとしている大きな理由が、この学会会場が、来年春に Ph.D.を取得予定の学生にとっての就職活動の場となっているからである。アメリカの大学はもちろんのこと、ヨーロッパ、オーストラリア、アジアと、世界各国の大学および政府機関や企業の採用担当者が、ここにやってくる。そしてそれは、アメリカだけでなくその他の国々でPh.D.課程に学んでいる学生もやってくることを意味し、実に膨大な数の経済学者・経済学徒が集うイベントとなっているのである。
(Photo by gags9999)
さて、それでは具体的にどのような大学や機関が経済学Ph.D.を採用したいと考えているのか?それを見るには、AEA に掲載されている求人リスト Job Openings for Economists (JOE) をのぞいてみるといいだろう。よく知る米国の大学から、一部の日本の大学、そして Amazon や Facebook といった企業まで、ずらりと求人情報が並んでいるのが分かるだろう。
こうした求人情報を見て興味があるところには、まずは11月末頃までには応募書類を送る必要がある。そしてその書類選考で選ばれた人が、今回のAEA学会で面接を受ける。次に、この面接を通ると今度は各大学に招かれて (flyout)、研究論文 (job market paper) のプレゼンテーション (job talk) を行うことになる。そのプレゼンに通ってようやく、ジョブ・オファーをもらうことができるのだ。
経済学での就職活動に関するこうした一連のプロセスは、例えば John Cawly の “A Guide and Advice for Economists on the U.S. Junior Academic Job Market” (PDF) 等でさらに詳しく解説されている。他の分野でのアカデミックな就職活動がどのようなものか知らないのだが、経済学においては世界レベルで極めてシステマチックなプロセスが構築されている。
さてそれでは、経済学のジョブマーケットはいまどのような状況なのか?その最新の数字が発表されたのが先日のこと。それによると求人数は大幅に増えているようだ。
A new report by the American Economic Association found that its listings for jobs for economics Ph.D.s increased by 8.5 percent in 2015, to 3,309. Academic jobs increased to 2,458, from 2,290. Nonacademic jobs increased to 846 from 761.
しかもこの数字は、リーマンショック前の求人数を大幅に上回るばかりか、過去15年でも最多となっているということだ。
Economics, like most disciplines, took a hit after 2008. Between then and 2010, the number of listings fell to 2,285 from 2,914. But this year’s 3,309 is greater not only than the 2008 level, but of every year from 2001 on. The number of open positions also far exceeds the number of new Ph.D.s awarded in economics.
もちろんアカデミックな就職活動の質的な厳しさは変わらず続いていくだろう。それでも世界的な不景気に見舞われる前よりも多くの大学で求人があるということは、今年のジョブマーケットに出ている人だけでなく、来年以降に就職を考えている人、そしてさらにはこれから留学や進学を考える人にとっても、明るいニュースなのではないだろうか。
またこうしたアカデミック・ジョブの就職活動に関しては、アメリカでは何をどのように準備すべきかというガイドブックも複数出版されており、経済学が専門なら上記の Cawly が最も参考になるだろうが、それ以外では次のようなハンドブックを自分も参照したのを思い出す。日本でのアカデミックな就職活動は米国とはずいぶんと異なるのかも知れないが、それでもこうした網羅的なガイドが翻訳されれば、非常に役立つと思うところである。
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