サッカー監督の経済学:シメオネ率いるアトレチコ・マドリードの躍進
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スポーツ選手の成績は数字に如実に表れる。野球の野手なら打率や本塁打数、投手なら奪三振数や防御率といった具合だ。野球に比べて数値化しずらいと言われるサッカーでも、ゴール数、アシスト数、パス成功率等々、選手のパフォーマンスを評価する指標は多々存在する。
それに比べて判断が分かれるのが、サッカーチームとしての成績をどう評価するかということ。例えば今年の英国プレミア・リーグを制したマンチェスター・シティの強さを疑うものは誰もいない。しかしながら、「英国プレミア・リーグと、リバプールのData-driven football」で書いたように、経営効率という観点から見ると、24年ぶりの優勝を僅差で逃したリバプールのほうが圧倒的に優れていたと言えるだろう。
そしてチームの評価よりももっと難しいのが、サッカー監督の手腕をどう評価するかということだ。それはつまり、「あれだけいい選手を揃えたら、誰が監督やったって勝てるでしょ?」という、ファンや外野からの批判に答えねばならないということである。
photo credit: Bjørn Giesenbauer via photopin cc
「『ジャパン』はなぜ負けるのか」の著者サイモン・クーパーは、フィナンシャル・タイムズの記事 “Football’s best managers” の中でも、選手を評価することの易しさに比べ、監督を評価することがいかに難しいかを説明している。しかしながら、今年の欧州サッカーでは、監督の手腕がクリアに評価される機会があった。それも一人ならず二人の監督に対して、である。
一人目はもちろん、18年ぶりのリーガ優勝に導いたアトレチコ・マドリードのシメオネ監督だ。バルサとレアルという2強支配が長く続いたスペインサッカー界において、アトレチコ・マドリードのこの躍進は誰にとっても、そしてそれは長年のファンにとっても驚きの事件だった。しかし、低迷していたこのチームを生き返らせたのが、アルゼンチンの「悪党」ディエゴ・シメオネであることに異議を唱えるものはいない。
2011年に彼が監督に就任してからは矢継ぎ早に、国内および国際タイトルを獲得していった。そして今年ついにリーガ優勝を成し遂げたばかりか、なんとチャンピオンズリーグでは40年ぶりに決勝に進出。その決勝戦の相手はレアルであり、マドリード・ダービーマッチという最高の舞台が整った。地上波生放送は明日土曜日27:35 (日曜早朝)から。この時間は超ツライけれども、これはもう見るしかないでしょ!?
というように、低迷するチームを立て直したシメオネ監督の手腕に対する評価は疑いようがない。一方でもう一人、今年のヨーロッパサッカーで手腕を評価された監督が、昨年退任したマンチェスター・ユナイテッドの前監督アレックス・ファーガソンだろう。
ファーガソンの後任として今年からマンUを率いたモイーズ監督だったが、戦術採用も選手起用も空回りし成績は低迷。最終的にはシーズン途中で更迭となったが、もっと早くに監督を変えるべきだったというのが大方の見方だろう。結果、マンUとしては歴史に残るほど不名誉な一年を過ごすこととなり、リーグ優勝争いに加われなかったばかりか、チャンピオンズリーグへの18年連続出場の記録が今年で途絶えた。ファンにとっては踏んだり蹴ったりの一年となったわけである。
いかに能力の高い選手を揃えていようとも、監督の采配と、より広義にはチームマネジメント次第で、同じチームがこうも様変わりしてしまうことを証明してしまったモイーズは、間接的にファーガソンの監督能力の高さを証明してしまったことにもなる。名監督を名監督と正確に評価することは大変に難しい。シメオネのようなチーム再生か、逆にモイーズのようなチーム沈没のような、誰の目にも明らかな事例というのはそう多くはないのだから。
そしてそれ以上に困難なのが、平凡な監督の能力をきちんと評価することであろう。何しろ、シメオネやモイーズのような極端な例を除いた大多数は、とくに注目することもないような毎年平凡なチーム成績だったりするわけである。しかしそんな平凡に思えるパフォーマンスを出し続けるというのも、ひょっとすると非凡な監督手腕によるものなのかも知れない。今年のヨーロッパサッカーは、明暗両極端の事例を通して、監督を評価する視点を変えてくれた一年でもあったのではないだろうか。
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