英国プレミア・リーグと、リバプールのData-driven football
今シーズンの英国サッカー「プレミア・リーグ」が、マンチェスター・シティの優勝で幕を閉じた。それを不思議がる人はもういないほどに、シティは変わり今や世界有数のリッチなクラブとなった。以前に「フットボールの経営学:欧州サッカー・マネーリーグ2014」で紹介したように、2014年度の収入総額では世界第6位という規模である。
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そんな今年のプレミア・リーグに関して、Economist の記事 “The booty-full game: In football, managers matter. But not as much as money does”。今シーズン優勝者のマンチェスター・シティと、僅かの差で惜しくも2位となったリバプールの間には、以下の図にも示されているように、チーム資金の使い方で大きな差がある。
City are the richest club in the league (they are owned by a Emirati billionaire). This affords them the best players, and they lavish the greatest amounts on pay, spending £330m ($550m) last year. Liverpool, who valiantly fought City to the wire, spent £100m less on remunerating their team.
サッカーチーム運営にとって、いい選手を集めること、そしてそのために大金を投じることは今に始まったことではない。しかしながら、それだけの投資がリターンに見合っているかというのは、昔から議論されてきたことである。その観点で、今シーズン最も注目を集めたのは、マンチェスター・シティではなく、むしろ2位の成績を残したリバプールの方だろう。あれだけの資金差がありながら、サッカーの最終成績では僅差に詰め寄った。つまりそれだけ効率のよいマネジメントをしているということであり、いい選手を安く獲得しているということなのだ。米国野球大リーグを舞台にした名作『マネーボール』の、まさにサッカー版なのである。
New York Times では、”The Premier League Standings if Only Goals by English Players Counted” という記事の中で、イギリス人選手のみに限定したゴール数をランキングしており、とても興味深い。話がそれるが、こういうのを英国紙ではなく米国紙が話題にするのはちょっと珍しい気がする。下図、まずはマンチェスター・シティのゴール数。海外のスター選手を集めたチーム作りをしているため、イギリス人選手の活躍の場は少なく、必然的に “English goals only” は少ないという結果だ。
それに対してリバプールは、イギリス人選手を中心に据えたチーム作りをしており、その結果 “English goals only” のランキングでは第1位となる。
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以前に書いたように、米国でも日本でも野球の世界ではデータの活用が一気に進んだ。その舞台裏を描いたのが『マネーボール』であり、『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス』シリーズである。一方で、野球に比べるとデータ活用が遅れていたサッカー。しかしそこにいま、データで考えるサッカーという新しい潮流が生まれつつあるのだ。
その魁となったのが英国プレミア・リーグのリバプールなのだが、チーム運営にデータサイエンティストを招き、データ活用を進めてから数年を経て、ようやく今シーズンのリーグ第2位という成果につながったのである。即効で効果がでるような方策ではもちろんない。
しかし過去数年の経験を蓄積したいま、来シーズンのリバプールはもっと強くなるのではないだろうか。もちろんただ強いだけではない。市場で過小評価されている選手を集め、極めて効率のよい経営をする、それがマネーボールのサッカー版だ。これからも益々、リバプールから目が離せない。
またより一般的に、サッカーとデータという組み合わせでは、以下の2冊がおすすめ。経済学者がスポーツを面白おかしく、でも極めて真面目に研究した内容である。
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